第38話 初心者サプリル
「ない物強請りは置いといて、俺は少し寝てくる。テントの周りなら好きに過ごしていてくれ」
「ゴブ」
「俺が起きたら、この辺りで夜の狩りだ」
「カタ」
ボイルはテントに入り、敷物の上に寝転がる。そしてログアウトを選ぶ。現実に戻り、軽食などを済ます。三〇分も掛かっていない。ゲーム内時間は二一時だ。
「よしっ。お前たち狩りをするぞ」
「カタ」
「ゴブ」
三人は武器防具を装備し、セーフティーエリア外に出る。星の光しかない森の中は、かなり暗い。だが、【夜目】はそれを見やすくしてくれる。
「おいおい。エリアの近くでモンスターがでるのか。夜は違うな。二人とも手をだすな! これは俺のリベンジだ。バブルスフィア!」
敵はバット五匹。相手はボイルに気づいた途端に襲い掛かる。ボイルは夜目の性能で十分に狙いをつけ、一体に魔法をぶつける。魔法を受けたバットはポリゴン化する。
「まずは一体!」
「ギュァ!」
その間、他の四体はボイルに接近する。
「前までの俺だと思うなよ。フンッ」
ボイルは半身の構えを取り、鎚を両手で持ち上げる。それはまさに、ベチュライーグルのときのような打者の構え。ただイーグルの時より、その動きはコンパクトだ。通常攻撃一発だがバットは倒せる。
「フッ! フッ! 最後はお前だけ。フンッ!」
立て続けに打つ。ラスト一体も小さく打ち返す。
「完勝だな。振り方さえ分かれば、こんなものだ! よしっ! 次を見つけるぞ」
ドロップアイテムは牙に薄膜の二種類。テンションが上がったボイルは、敵を求めエリアの近くを彷徨う。
「次はアークだけだな」
「カタ」
現れた敵はスケルトン一体。アークは素早く接敵し剣を振り下ろす。鉄製武器の攻撃は一撃で相手を倒しきる。
「カタ」
「余裕だな」
武器もスキルも上位だ。ドロップアイテムは骨粉。そして次に見つけた敵一体は初見のモンスターだ。
「なんだアレは。火の玉のような、霧の塊のような、ガスのような、よくわからないな。とりあえず攻撃あるのみ。フンッ。……は?」
ふわふわと漂う敵の名前はファトゥス。ボイルの攻撃はなんの手ごたえもなく相手をすり抜けた。
「二人とも武器で攻撃してみろ」
「カタ」
「ゴブ」
二人の通常攻撃もボイル同様すり抜ける。
「おいおい、まさかこんな序盤に物理攻撃無効の敵かよ」
ファトゥスはふわふわゆっくりとボイルに引っ付く。
「これが攻撃か? 何も感じないぞ。まさかこいつが倒せない敵か!」
思い返すのはパロミトールとの会話。ボイルには倒せない敵が。夜に出現すると忠告していたことだ。ボイルは魔法を使うためMP量を確認した。
「MPを吸収するのか! くっ! バブルスフィア!」
吸収率はかなり低い。魔法を受けた敵は一撃で倒れる。
「油断も隙もない敵だな。……ドロップアイテムはなしか。二人ともあの敵には魔法だけで対処しろ。あのときの俺なら確かに倒せないな。だが今の俺なら問題ない」
「カタ」
「ゴブゴブ」
「時間はまだある。まだまだ狩るぞ!」
わざわざ忠告するあたり、面倒見がいいボイルの性格が表れている。それから三人は狩りを楽しむ。数はそれなりだが、敵の種類は三種類だけのようだ。昼は六種類。始まりの森南部は、合計九種類のモンスターが出現するようだ。
「そろそろ戻るか?」
「カタ」
「ゴブ」
二体はボイルの問いかけに頷く。ドロップアイテムは群れで行動しているバットが多い。骨粉はそこそこだ。
「だれかー助けてください!!」
女性の声が聞こえた途端に、ボイルにポップアップが表示される。
「救援を受けるかどうかか。受けるに決まっているだろ。二人とも行くぞ!」
申請を承諾したボイルのミニマップには、その相手の位置情報が記載される。声が聞こえるくらいの距離だ。目的地はかなり近い。ボイルは全力で走る。見えた敵はファトゥス一体。
「助けに来た! 敵はあれだけか!?」
「はい! MPが尽きて魔法が使えません」
「わかった! バブルスフィア」
魔法が使えれば簡単に倒せる。
「ありがとうございました!」
「気にするな。と言いたいところだが、初期魔法すら打てないのはどうした?」
それは素朴な疑問だ。彼女の装いには土埃が目立つ。本来なら綺麗なストロベリーブロンドもボサボサだ。布の初期防具も汚れている。身長は女性の中でも低いほうだろう。
ボイルは自然と見下ろす姿勢になる。幼い顔立ちだが、目鼻自体は綺麗系の片鱗が伺える。全体な雰囲気はふわふわとした優しい系だ。髪もよく見ると一色だけではなく、インナーカラーや毛先がピンクゴールドだ。
「えーっと、そのー」
「言いにくいことなら無理にとは言わない。セーフティーエリアもすぐそこだ。君さえよければエリアまで一緒にいくぞ。後ろの二人はテイムモンスターだ」
二体は成り行きに任せている。彼女はチラチラと二体を見てから申し入れを受ける。
「えっと、あのー……。ありがとうございます。是非お願いします」
「なら早速行くぞ」
「はい」
先頭はボイル。その後ろには女性。さらにその後ろにはアークとディノスが付き添う。女性は初対面ということもあり、移動中の無言に耐え切れず声をかける。
「あのー先ほどのことですが……」
「どうした?」
「魔力が尽きたことです。実は生産職系のスキル構成なんです」
「それでも武器攻撃を織り交ぜていたら、尽きることもないだろ?」
ボイルの構成も魔法の補助系スキルはない。それでもMP切れにはならなかった。それは通常攻撃を主体にしているためだ。いくら生産職でも尽きることはないはずだ。
「えーっと、なんとなく怖くて魔法主体です……」
「それは……大変だったな」
「はい」
生産職で魔法主体となればMPの補助スキルは必須だ。最優先で取得してもいいくらいだ。
「最初から、いろいろなことがしたくてメイン系のスキルばかりなんです……」
「その気持ちはわかる」
「本当ですかー!? 私は医食同源を目指していまして、料理スキルや採取系のスキルが多いです!」
自分のスキル構成を取引でもなく言うのは、自衛の観点からも推奨されない。それにマナー違反にもなる。なぜなら自分は言ったから相手も同じように言えという
「もしかして初心者か?」
「はい! このゲームが初めてプレイするオンラインゲームです。あ、アタシの名前はサプリルです」
サプリルの一人称は、私が砕けてアタシに聞こえるような、微妙なニュアンスだ。
「俺の名前はボイルだ。それにしても少し安心した。本名を言われるかと、冷や冷やしていた」
「うん? どうしてですか? それは流石に言いませんけど……」
サプリルが投げかける視線には、少し警戒心が伺える。
「スキル構成を暴露したからな。そう思っても仕方ないだろ」
「えっ!? それってダメなんですか?」
「ダメってことはないが、普通は言わないな。マナーの一つだ」
「えーっと、そのーすみませんでした」
「気にするな。ほら、エリアが見えてきたぞ」
エリア侵入位置はポータルの近くだった。ボイルはポータルを解放させる。そしてそのままテントに招く。
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