第26話 大人たち

 ボイルは自分たちの狩りの方法を話した。


「そんな方法があるなんてなー。魔法使いなら同じことができそうだ」

「魔石の位置だけならわかるだろうな」

「パイルバンカーかー。作れない?」


 ハヤトは目線をエリナに向け聞く。


「機構はリアルから引っ張ってこられますが、杭を打ち出すための内燃機関がわかりません。多分そのエネルギーは魔法的な物でしょうし……。鍛治師より、錬金術師の分野ですねー」

「へぇーエリナって工学系の人?」

「実はそうです。リアルでは剣とか作れないので……。それらを作ってみたくて、鍛治師をしています」


 ハヤトは感心し愚痴る。


「それはすごいな。俺なんて戦いやファンタジーを楽しみたいだけだぞー」

「それも楽しみ方の一つですね」

「ま! 男の心は皆小学生!」


 今度はボイルに話を振るう。


「小学生は言い過ぎだが、秘密基地とか探検とかした童心のロマンは常にあるな」

「二人ともちゃんとしている大人なのに、なんか意外です」

「ちゃんとしていないかもしれないよー」


 茶化すようにハヤトは否定する。


「雰囲気が先輩社員の人たちに似ているので、しっかりしているんだなーって思っています」

「その先輩はちゃんとしている人なのか。面倒見がいいなら更にいいな」


 後輩の教育係を買ってでるボイルとしては気になるところだ。商談後の軽い雑談は社会人らしい内容で場を温める。


「私たち新卒社員にも優しくしてくれています。ここ一ヶ月くらいですけど、業務全体の流れから、部署を跨ぐ細かい連絡の仕方や先輩への接し方など事細かく教えてくれます」

「学生気分が抜けていない体育会系部活のノリじゃなくて一安心だな!」

「そういうところは総じて、違法ギリギリなところが多いからな。それだと社員は育たない」


 言い切るボイルにエリナは何かを感じ取った。


「もしかしてボイルさんも部下がいらっしゃる役職ですか?」

「俺も工学的な会社でな。ここ数年、新入社員の面倒を見ている。といってもニッチな業界だ。職場は首都圏だが、主要路線から外れているからな。リアルでの関りはないだろう」


 この話題にハヤトも乗っかる。


「ニッチと言えば俺の会社もそうだなー。近くに大きな川があるくらいには田舎だよ。まあ、俺はずっと営業畑だから、もっと関りがないだろうなー」

「あれ? 私の所も似たような場所に本社があります」

「それだけなら沢山の会社があるな」

「そうですね」


 キリがいい所でボイルとハヤトは同時に立ち上り言う。


「そろそろお暇させてもらう」

「俺は帰るよー」


 二人はつい視線を合わせる。そしてエリナを含めた三人は大きく笑い合う。


「ふふっ、このあたりでお開きにしましょうか」

「あはは、そうだねー。次も売りに来るよ」

「おう。次も買い取り頼むな」

「はい! またのご来店をお待ちしています!」


 三人は扉の前で別れる。エリナはこのまま生産に励み、ハヤトはログインしたパーティーメンバーのところに向かった。


 ボイルは雑貨店を回り必要な道具類を揃える。テントや茣蓙、それに鋏やナイフなどなど。ポーション類ももちろん購入済みだ。その中には保存食も含まれていた。高い買い物になったのは生産スキルの携帯道具だ。一個五万と初心者用なのにボイルの想像の上を行く値段だった。それでもアイテム類は十二分に揃った。時間も掛かり今はもう夕方だ。


「夜通しで訓練するわけないしな。二人とも晩飯には帰るか」


 本来なら訓練を見に行くが、ボイルはパロミトールに信用しているといった。その手前、見に行くのはその言葉を反故にすることになる。それにボイルの頭の中にはトリスに指摘された事柄があった。それは火を通したものを食べたいと言ったディノスのことだ。


「せっかく金が入ったんだ。ちゃんと購入しないとな」


 ボイルは南の牧場に足を向ける。その目的はネスから肉などを購入するからだ。購入予定金額を先ほど買った小袋に入れ、オベールを後にする。一度行った所もあり、迷いもなく進む足取りはかなり早い。日が落ちる前にはたどり着いた。


「ネス! 買いに来たぞ!」

「助っ人おっさんじゃないか! 金はできたのか?」

「俺の名前はボイルだ。金なら十分にある」

「で何をどれくらいお求めで?」


 ネスの丁寧な言い方と笑みはボイルを見くびっているさまが伺える。ボイルはそれに気づいたうえで注文を言い切る。


「ふっ。まずはバブの肉を二〇万S分。沢山食べられるように部位を選んでくれよ。もちろん色々な部位も少しは入れてくれると嬉しい。乳は三万分。革は五万分だ! 次にジャダの肉は一〇万分。ポッロの肉も一〇万だ。たまごは一万分。ウールは五〇万。羽毛は一〇万分だ。骨は一万分頼む。安心しろ、金ならあるぞ」


 ボイルは一一〇万Sが入った小袋を取り出しネスに渡す。中を見たネスは呟くように現実を受け入れる。だが同時に疑念も浮かぶ。


「……本当に金を用意するなんてな。まさかお前ッ!?」

「やましいことは何もしていない。ちゃんと鉱石で儲けた金だ」


 金がなく購入を諦めていたやつが、今日には大金を持って買いに来た。疑っても仕方がない。


「流石はトリスさんの知り合いって言ったところか。わかった! 売ってやる!」

「ありがとうな!」

「いっても量が量だ。すぐに用意はできないぞ。明日の朝になる。宿はどこだ?」

「オベールだ」

「トリスさんと言えばオベールだよな。一緒に行動しているなら、それもそうか。朝、届けに行くわ」


 ボイルには理解しがたい理由だ。ただ、いい方向に納得してくれているならば、わざわざ正すこともしない。


「肉は今日の夜にも使いたい。少しでいいから売ってくれないか?」

「少しならいいぞ」

「一万くらいの量ならいいか?」

「それなら大丈夫だ。ちょっと待っていろ」


 ボイルは追加で金を払う。それを受け取ってネスは建物に入っていき、少しして出てきた。手には前と同じように小袋が数個ある。


「ほらバブの肉をメインにジャダとポッロの肉も選んだぞ」

「ありがとうな。これでいいものが作れそうだ。朝、楽しみにしている!」

「安心してくれ、日の出と共に届けてやるさ」


 お互いが不敵に笑い合う。別れの挨拶もそこそこにボイルは急いで街に戻り、アトリエに駆け込んだ。

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