第21話 ゴーレム狩り

「よし! まずはあいつを狙うぞ。魔法で誘き寄せ! 近接は、相手の意識をそらすために! 余裕があれば攻撃しろ」

「カタ!」

「ゴブ!」


 ボイスは一体を指さし、アークとディノスに指示を出す。掛け声とともにライトボールとファイヤーボールが一体のゴーレム目掛け飛んでいき着弾する。


「ゴー!」


 魔法を受けたゴーレムはその犯人を視野に収め、大股で詰め寄る。その足音は意外に大きくない。


「バブルスフィア!」

「ゴー!」


 ゴーレムは鬱陶しそうに走りながら首や腕を振るい水気を飛ばす。


「弱点属性だけはあるな。アークたちのときより、目に見えて嫌がっているのがわかる」

「ダメージも光や火より多そうですね」

「そうだな。アーク! ディノス! 近接に切り替えだ!」

「ボイルさんは魔石探知です」


 二体は剣と槍を握りしめ、ゴーレムに接近する。


「ゴブ!」

「カタ。カタカタ!」


 二体は挨拶代わりに切りつける。ゴーレムは殴りかかるが、小さくスピードがある二体は避ける。それでも格上のモンスターだ。余裕綽綽とまではいかない。気は抜けない攻防だ。


「……くっ。難しいな」


 ボイルは少しだけ離れた場所で魔力放出する。まさに後衛職の位置取りだ。魔力で敵を包み込もうとするが、形状が安定しない。


 初めて魔法を使ったときのような、よくわからない疲れのような脱力感が、肩甲骨の真ん中から体全体にジワジワと広がっていく。それと同時に身体が軽くなるような、スッキリするような感覚を抱く。


「魔力放出は問題ありません。形状の維持は明確で詳細なイメージです。頑張って下さい」

「これは魔法を覚えてよかった。MPを使う感覚が分からないと放出すらできないぞ」

「挑戦あるのみです。二体の頑張りを無駄にしてはいけません」


 モンスターが絡むとトリスは厳しくなる。


「俺の近くにいると、巻き込まれるかもしれないぞ」

「こう見えて自衛はできます。気にしないでください」

「見た目に騙されるな」

「私の性分は研究者ですからね」


 トリスは微笑みながら言い切る。その笑みには研究者としての自負が伺える。


「ゴー!」

「ゴブ!」


 ゴーレムは蹴りを繰り出し、ディノスは避ける。


「カタ!」


 その隙にアークが魔法を打つ。


「よし! 包み込めたぞ! 次は目だな!」

「その調子です。放出とは違い、包み込むと魔力消費が多くなります。時間との勝負です」

「わかっている」


 戦闘模様は少し変わり、今はアークが近接でディノスが魔法だ。テイムモンスターたちは囮役と攻撃役を交互にやっていた。ボイルはゴーレムに焦点を合わせ、目力を強めよめながら背中から出る違和感を移動させる。


「うーん……お! 見えたぞ! 魔石は腰だ!」


 それを聞いた二体は注意を引き付ける攻撃から、ダメージを与える接近戦に切り替える。


「正解です! 個体によっては背中や胸などにあります。それでも、胴体部分にしかないので、見つける際には参考にしてください」

「それを早く言え!」

「最初から答えを言えば、身に付きませんからね」

「そらそうだ!」


 ボイルはぶっきらぼうに言い捨てた。


「俺も参戦するぞ! アークとディノスは隙を作るだけに集中!」

「くれぐれも攻撃には気を付けてくださいね」

「わかっている! バブルスフィア」


 嫌がっている間にボイルは間合いを詰める。


「カタ!」

「ゴブゴブ」


 アークはゴーレムの顔に刺撃を与え、ディノスは足に叩き割りをおみまいする。


「ゴー!」


 二人の攻撃にゴーレムはムキになる。だがそれは、ボイルにとっての狙い時だ。


「ストロングプレス!! オラッ!!」

「ゴォ! ゴゥ……」


 勢いよく腰に叩きつけられた槌からは、内部の杭が飛び出す。それが腰ごと魔石を砕く。ボイルたちはポリゴン化していくゴーレムを見て勝鬨を上げる。


「うっしゃー!!」

「カタカタ!!」

「ゴブ!」

「初戦お疲れ様です。いかがでしたか?」


 にこやかに問いかけるトリスにボイルは高揚した顔で答える。


「この武器最高だな!」

「私くらいになると、このくらい片手間で作れますよ」

「よく言うぜ」


 チュートリアルキャラがという意味合いだ。


「これが鉄鉱石か。それがこんなに。これで装備を新調できるな」


 ボイルはインベントリーから一つ取り出し、掴みながらいろいろな角度から見る。ゲームらしくキラキラした鉄っぽい色合いだ。ドロップアイテムは鉄鉱石が一一個、そして石材が四個だ。


「カタカタ!」

「ゴブゴブ!」


 テイムモンスターも嬉しそうにはしゃぐ。


「鉄鉱石五個で、鉄のインゴット一つが作製可能です。駆け出しが使う鉄製の武器なら、インゴット一つで大丈夫です。石材は墓標や建築用、工芸品などと用途は幅広いですよ。ただよくドロップするので、買い取り額は鉄鉱石に比べると高くありません。鉄は生活必需品ですからね」

「よし! 目に見える範囲は狩り尽くすぞ!」

「ゴブ!」

「カタ!」


 ボイルは拳を握り、アークとディノスは拳を突き上げた。それから三人は同じように狩りをしだす。ボイルが魔法で釣り、アークとディノスが翻弄。魔石の位置が分かれば三人で突撃。


 個体の中には胸に魔石があり、攻撃が大変なゴーレムもいた。だが、バブルスフィアで隙を作ることで討伐した。ダメージを受けたこともあったが即死まではいかなかった。それでも瀕死だ。体力回復ポーションで事なきを得た。


 ドロップアイテムは一体から全種類で一五個から一八個と揺れ幅があったが、通常の狩りではここまでの成果は得られない。通常は二個から四個ほど。この差は大きい。


「石材が多いかと思ったが、これは嬉しい」

「基本は石材が多いですね。というのも、ストーンゴーレムは取り込んだ石材を魔石付近で鉄鉱石に変えていきます。変わった鉄鉱石は表面に浮き上がっていきます。鉄鉱石が体全てを覆うとアイアンゴーレムに進化します。要するに、鉄鉱石は身体表面近くにあります」

「普通の狩りだと表面を傷つける。だから鉄鉱石が少ない。だが、これなら総取りできると?」

「正解です」


 ボイルたちは途中休憩を取り、満腹度や精神的な疲れを回復させる。それを迎えの時間まで励んだ。


「……ボイルさんそろそろ……お迎えの時間です」


 広場いたゴーレムはもういない。途中、何度か洞窟からゴーレムたちが出てきたが、一時間後には広場の個体はいなくなった。ボイルたちが倒したのだ。まるでゴーレムのわんこそばだった。


「そうか。もうそんな時間か」


 集中していたボイルは夕暮れに気づかなかった。


「狩りの成果は……売値が楽しみだ!」


 一体から取れる鉄鉱石は一〇個から一二個ドロップする。一体を狩るのに五分から七分程度。一時間では八体から一二体。所々で休憩挟んでも合計五時間の狩りだ。鉄鉱石の合計は五六七個。石材は一六八個。


「はぁはぁ……ボイルさん、すごい集中力ですね。アークさんたちも疲労困憊ですよ……。かくいう私も、かなり疲れました」

「これくらい普通じゃないのか?」

「この時間までの狩りなら平均的です。ですが、ずっと狩りし続けるのは可笑しいです」

「途中休憩も挟んだし、探検者はこんなものだろ」

「……そういうものですか」


 プレイヤーでもこれは少し可笑しい。それでも上には上がいるもので、廃人やガチ勢はこれを大きく上回る。そういう人たちは総じて唯我独尊だ。


 NPCたちに話を聞くことはあまりしない。プレイヤーの店でアイテムを買うときですら、必要最低限の単語しか言わないのだ。


「……カタ……カタ」

「ゴブ……ゴブ……」


 アークたちも地面に腰をついて伸びている。


「小休憩をしてから、乗り合いの所に向かいましょう。異論はありませんね?」


 有無を言わせない笑顔だ。


「お、おう」

「さあテイム主の許可も出ました。休憩しましょう」

「仕方ない。木の麓で休むぞ」


 トリスは微笑みながらアークたちに言う。ボイルに向けた笑みとは正反対の感情だ。

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