第22話 楽しさ

「ゴブ!」

「カタカタ」


 テイムモンスターたちは牙や肉を取り出し食す。トリスはホットサンドと水筒、そして椅子を取り出し優雅に休憩をする。


「やはり紅茶はこの香りですね」

「なんの種類だ?」


 ボイルは保存食を食べながら訪ねる。


「アッサムです」

「さっぱりしていいな」

「先ほどから気になっていましたが、探検者は飲料水が不要なのですか?」

「酒は飲むが、ソフトドリンクは別にいらないな」


 プレイヤーには乾きが設定されていない。故に必須ではない。わざわざ飲むのは好物だったりロールの一部だったりする。


「食事もパサつく保存食だけです。見ているこっちまで味気ないのです。せっかくインベントリーがあるのです。できればちゃんとした料理を食べ欲しいものです」

「……拘りないしな。腹が膨れれば問題ない」


 ただし、摘みに関しては別問題だ。酒を楽しむための肴はボイルにとっては拘りポイントだ。


「アークさんはともかく、ディノスさんは火を通した物がいいですよね」

「ゴブゴブ!!」


 魚を焼いていたように生よりかは火を通した物を好む。


「そうか。今回の戦利品を売れば、所持金に余裕ができるはずだ。そうなれば、改善しよう」

「やりましたね!」

「ゴブゴブ!!」

「カタカタ!!」

「帰りは、斜面を滑って近道しましょう」


 行きは山道、帰りは高低差を利用したショートカット。トリス曰く見通しがいい場所とのこと。


 各自は各々な方法で休む。ボイルは木にもたれ、上がったスキルを確認。トリスは椅子に座り紅茶を楽しむ。テイムモンスターたちは地面に座り、アークは剣と盾を眺め、ディノスは足をブラブラさせながら楽しそうに空を見上げていた。


「こんなものか。よし、そろそろ移動しよう」


 三人は片づけし、トリスを先頭に動き始める。ボイルは獣道に四苦八苦しながら歩みを進める。鎧には枝や葉が沢山着く。


「ちょっと待ってくれ! 採取したい!」


 ボイルは採取ポイントを初めて見つけた。そこには、そよ風でゆらゆらと白い花が揺れていた。


「どこですか?」

「あそこだ。少し茂みで隠れているが……」

「あれはホワイトリリーです。状態異常回復の材料によく使われています」

「それはいいアイテムだ」


 茂みをかき分け見えてきたのは百合のような花だ。それが群生していた。長さはボイルの腰ほどまで。


「とりあえず引っこ抜くか」


 ボイルは何も考えず、草を抜くように根っこから引き抜いた。


「ちょっと待ってください。ホワイトリリーの根っこだけは残してください。採取方法は茎の下のほうを切って採取します」

「それは申し訳ない。と言っても鋏もなければ切る物もないぞ」


 ボイルは採取用の道具も、まだ購入していない。


「鋏やナイフは冒険には必須です。私のをお貸しします。ホワイトリリーは日光と月光で成長します。簡単に言えば、晴れが続けば成長します。三日ほどで採取可能です。ですが根っこがなければ、天候が良くても成長しません。獣系のモンスターの中には、これで軽い病気を治す種類もいます。自然を壊さないためにも、採取方法は覚えてください」

「了解だ」


 登山するときもナイフがあれば便利だ。邪魔な蔓や小枝を取り除いたり、丈夫や枝を杖代わりに加工したりと活用方法はいろいろある。


 モンスターの軽い病気は、人間でいうところの鼻づまりや倦怠感などの症状だ。寝ていれば治る程度のものだ。


 トリスは採取を手伝いながら、オレンジリーフとブルーリーフの説明をしだした。オレンジリーフは体力を回復するポーションの原材料だ。朝から夕方にかけて太陽光を浴びと採取可能になる。獣系のモンスターにとっては治癒力を早める。花色は名前の通り濃いオレンジ。


 ブルーリーフは魔力を回復するポーションの原料だ。月光があれば一日、丑三つ時の時間帯で採取可能になる。獣系モンスターにとっては整腸剤。こちらの花色は葵に近い青だ。両方とも採取方法はホワイトリリーと同じ。ゲームによくある設定だ。


「よし! 一通り採取できたな。これも売値が楽しみだ。こうなるとベチュラパインも欲しくなる」


 インベントリーに仕舞うと名称がホワイトリリーの花になった。一本から三個取れた。群生地らしく七二個も得られた。テキストにはトリスが言った内容が書かれていた。


「風通りがいい場所には、よく自生していますね」

「ということはショートカットするところにあるのか!?」

「正解です。行きに襲ってきた個体は、そこに巣を作ろうとしていたのかもしれませんね」


 ボイルは自然と気持ちを高ぶらせてしまう。悪戦苦闘な獣道も今は何のその。足取りも速く、モンスターに襲われることもなく目的地に着いた。


「ここがその斜面です。そしてベチュラパインはあそこです」


 白色の松の樹皮のような木が生えていた。葉も生い茂り、改めて自然を感じ取れる。残念ながら採取ポイントが見当たらない。


「実はあるか?」

「残念ながらありません」

「そうか。今度の機会だな」

「では茣蓙を使って滑り落ちましょう」


 トリスは現実にあるような敷物を取り出し、腰を下ろして滑る準備を完了さる。斜面はそれほど急勾配ではない。絶叫系が苦手な人でも安心して滑れるほどだ。


「……もしかして茣蓙もお持ちではない?」

「悪いな。装備を解いて慎重に滑るさ」

「仕方ありませんね。三枚お貸ししますよ」

「本当に準備がいいな」

「備えあれば患いなしです」

「ありがとう」


 ボイルたちは茣蓙に尻を着く。


「ではいきます」

「おおおぉぉ!」

「カタカタ!!」

「ゴブ! ゴブ!」


 トリスは静かに滑り、初めての三人は声をあげる。大声のせいでモンスターに襲われたことなどは、もう意識の外だ。


「うおお! 意外に長いなぁ!」


 一直線の斜面というよりは、つづら折り。不慣れなボイルでも余裕を持って曲がれるほどの広さと緩やかさだ。


「次を曲がり終えると、終着まで一直線です」

「おう!」


 ボイルはもう楽しめる余裕すらある。そして短くても濃い時間は終わる。終着点は山間だ。


「到着です。あの向こうが登山口です」


 小高い丘向こうが乗り合い場所のようだ。そこまでは踏み固められた道がある。そこにはすでに冒険者たちと一緒に一〇個近い荷車と馬がいた。


「すみません。お願いしたいのですが、空きはありますか?」

「泊りが出たからね。四人なら問題ないよ」

「ではお願いします」


 行きと同じようにトリスが交渉し終える。ボイルたちは荷馬車に乗り込み、夕日に照らされた農業地区を進んでいく。


「成果はいかがでした?」

「申し分ない。次回もお願いしたい」

「それはよかったです。次は明日ですか?」

「明後日で頼む」


 ボイルはこの後、戦利品を売りログアウト。そして睡眠をとるつもりだ。睡眠時間を考慮すると、明日だと夕方以降になる。


「わかりました。私は今回のことをレポートに纏めるとしましょう」

「今日はありがとう。武器も助かった」


 ボイルはパイルバンカーをトリスに返す。


「はい。確かに受け取りました」


 トリスは今日一日を振り返り、アークとディノスはお互いに親睦を深め合う。

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