第17話 ゴブリン

「始めッ!!」

「ゴブ」

「カタ!」


 ゴブリンはファイヤーボールを発生させ放つ。アークは余裕を持って回避をし、アイスバレットを敵に向けて撃つ。


「ゴブ!」


 ゴブリンは槍のリーチに入った氷を叩き落とす。そしてお互いに相手を伺う。滑らかで速い攻防だ。


「まさか本当に使えるとは!! 火球ファイヤーボール氷弾アイスバレットこれは奇想天外です。さあ早く私に貴方たちの全てをお見せ下さい!!」


 トリスは林の中から急に現れ、ゴブリンを凝視する。それに驚いたゴブリンは視線をアークから外す。


「カタ!!」


 アークはその隙を見逃さない。ライトボールを飛ばし敵に駆け寄る。


「今度は光玉ライトボール!! まさか本当にスケルトンが聖属性とは!! 摩訶不思議です!」


 敵は先ほどと同じように槍で叩き壊す。


「ゴブ!?」


 壊れた拍子に、光の粒が至近距離で弾けゴブリンは驚く。それは一瞬で消えるが、目くらましには効果的だ。


「カタ」


 アークは走りながら新品の木剣をゴブリンに振り下ろす。


「ゴブ。ゴブ!」


 後手にも関わらず、ゴブリンはサイドステップで避け、アークに足払いを仕掛ける。ゴブリンのほうがアークより素早いようだ。アークはジャンプでかわし、盾のふちで攻撃を仕掛ける。


「カタ!」

「ゴブ!」


 ゴブリンは咄嗟に槍で受け流す。スピードは流石だ。だが、ソードブレイカーの役目もある突起に、棒切れのような槍では荷が重すぎた。三分の一ほど破壊され、短くなる。


「ゴブ! ……ゴブ」


 武器に愛着があったのか寂しそうだ。その姿を見て、アークもどこかバツが悪そうにしている。これは命を懸けた戦いではない。いうなれば模擬戦だ。罪悪感が湧くのも致し方ない。


「カタカタ」


 戦闘中にも関わらず、アークは慰めるようなしぐさをする。ゴブリンも満更ではない。


「おい。ちゃんと戦え」

「……カタ」

「……ゴブ」


 二人の戦意は萎み、継続は無理そうだ。


「ボイルさん、買った槍を少し貸してください」

「何か考えがあるんだな。わかった」


 ボイルはインベントリーから取り出し渡す。


「やはり長いですね。長さは大体このくらいですかね」


 持っていた槍が一瞬光り、槍の柄が短くなる。


「おいおい、どういうことだ?」

「私くらいの錬金術師になれば、このくらいお茶の子さいさいです」

「その言い方似合わないな。……それにトリスがトリム。少し面白いな」


 トリムとは、ボイルが業務で使っている設計補助ツールに含まれているコマンドの一つだ。線を伸ばしたり短くしたり、または切断したりと便利な機能でもある。


「この槍を使って、ボイルさんと戦っていただけませんか?」


 トリスの狂気的な言動はなり潜め、極めて紳士的にゴブリンに接する。


「ゴブ? ゴブゴブ!!」

「そうですか。ぜひお願いしますね」


 嬉しそうに槍を受け取りはしゃぐ姿に、アークの戦意は完全に消失した。


「俺がテイムするんだ。アークの力だけでテイムしたら、漢がすたるってもんだ」

「さすがボイルさんです」

「カタ」


 テイムモンスターとは真逆に、ボイルの闘志は沸々と湧き出す。


「ゴブ!!」


 ゴブリンは闘志を感じ取り、はしゃぐのをやめた。そして、槍先をボイルに向け構える。


「僭越ながら私が合図します。それでは……始めッ!!」


 先ほどと同じくゴブリンはファイヤーボールを飛ばす。

 ボイルはそれを避け接近する。


「おらっ!!」


 魔法スキルを覚えていないボイルにできることは、槌を当てるのみ。距離を取られるのは分が悪い。だが、スピードが高いゴブリンは余裕を持って避け、再び距離を取って魔法を放つ。


「ゴブ」

「くッ!!」


 どうにか避けることはできても、ボイルの速さではゴブリンに届かない。


「これでどうだ!」


 物は試しにとばかりに、槌でファイヤーボールを打ってみたが、当たった瞬間に暴発した。追撃を警戒するが、ゴブリンは攻めあぐねている。


「どうやらMP切れのようだな。なら体力が続くまで接近戦あるのみだ」

「ゴブゴブ」


 お互いに距離を詰め獲物を振り合う。この槍と槌では、リーチの優劣はない。


「フルスイング!」

「ゴブ!」


 ボイルは大きく横に振りぬくが、ゴブリンは屈んでかわす。そしてボイルに鋭く速い突きを浴びせる。


「思った通り威力はそこまでだな。なら、やることは一つ。肉を切らせて骨を断つ!」


 そこからボイルは力強く大ぶりの攻撃を、ゴブリンは避けて突きを。同じような光景が数回行われる。


「……ゴブ……ゴブ」

「どうやら疲れてきたようだな」


 プレイヤーであるボイルはまだまだ元気だ。


「フルスイング!」


 スタミナの低下で、俊敏な回避は不可能。


「ゴブ」


 咄嗟に槍で受け止めるが、力強い攻撃は体格差もあって軽々とゴブリンを吹き飛ばす。


「そこまで!」

「……テイムを受けてくれるな」


 ゴブリンは槍を杖代わりにして起き上がる。そしてボイルの目を見て頷く。ボイルは魔石を取り出し、育成スキルのアーツをゴブリンに向けて唱える。


「テイム」


 アークの時と同じように淡い緑色の光が降り注ぎ、魔石が一瞬光る。 


《ゴブリンのテイムに成功しました》


 初めに確認したのはデメリットについてだ。


「食事だけか。買うのにも作るにも金がいるな」


 食べ物の指定は、プレイヤーが食べられる物全般という括りだ。頻度は一日三食。


「おめでとうございます。早速ですが、スキルは?」

「可能だが、まずは名前だ。ディノス。それがお前の名前だ」

「ゴブ!」

「カタ!」


 二体のテイムモンスターは握手をして何をか話し合う。ゴブリンをテイムしたことで図鑑が更新された。ディノスの所持スキルは【槍業】【下級革防具】【下級火魔法】【】【】だ。通常のゴブリンは【斧業】【下級布防具】【】【】となる。


「かなり特殊な育ち方をしたのでしょう。布防具から革に変化したことから、知性の高さも納得です。その土台があったからこそ、火魔法を覚えたのかもしれませんね」

「単純に美味い飯が食べたかったからだろ」

「そうかもしれません。言葉を交わせればよかったのですが、私でもその方法は知りません」


 トリスはボイルをチラチラ見ながら言う。


「知っていたら、もうしている」

「そうですよね。それで魔法は?」

「約束通りつけてやるさ」


 新し覚えたスキルは【斧業】と【下級闇魔法】である。


「ディノス。この斧を使え。それと闇魔法を使ってみてくれないか」

「ゴブ?……ゴブゴブ」


 一瞬疑問を浮かべたが、嬉しそうに斧をもらい数度振るう。どうやら気に入ったようだ。そして言われた通り、魔法を発動させる。


「ゴブ!」

「おお! これは闇玉ダークボール! そしてこれが探検者の神秘!! 最高です。ありがとうございました!」


 スキルは【槍業】【斧業】【下級革防具】【下級火魔法】【下級闇魔法】になった。アーツは防具スキルを除いて各一個ずつ。


 覚えている槍のアーツは刺突。素早い突き繰り出すアーツだ。通常攻撃より僅かに攻撃力が上昇する。リキャストタイムは一〇秒で使用MPは僅かだ。デメリットもない。


 斧は叩き割り。力強く武器を振り下ろすアーツだ。これも通常攻撃より僅かに攻撃力が上昇する。リキャストタイムは二五秒と少し多い。それでも使用MPは最初のアーツらしく僅かだ。デメリットもない。


 火魔法と闇魔法はトリスが言っていたように、ファイヤーボールにダークボールだ。仕様はアークの魔法スキルと同じだ。初期アーツは各属性の特色がそこまで現れないようだ。


 ディノスも自動的にボイルのパーティーメンバーになった。ディノスのHPはアークよりも低いが、MPに関してはボイルよりも少し多い。


「まだゴーレムの話があるだろう」

「もちろんです。とっておきをお教えします」

「それは期待が持てそうだ。早く報告を済ませて、狩りに向かうぞ」


 ステータスを確認すると【打撃強化業】が【打撃強化技】に。【育成業】が【育成技】に上がっていた。そのおかげでテイム枠が一つ増えた。

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