錬金術師とゴーレム、それとゴブリン
第15話 錬金術師
「アークの剣のこともあるが、とりあえずは錬金術師に話を聞きに行こうと思う。したいことはあるか?」
ボイルの問いにアークは首を左右に振る。
「わかった。泊り客で話を聞かせてくれる錬金術師がいるか確認だな」
「カタカタ」
二人はロビーに赴き、看板娘を探す。だが姿が見えない。
「仕方ない。他の店員に聞くか」
ボイルは掃除中の男性店員に声をかける。
「少しいいか?」
「なんでしょうか」
「実はゴーレムを討伐したいのだが、やり方が分からない。錬金術師を紹介してくれないか?」
「なりたての冒険者さんですか。それでしたら、あの人をお勧めします」
そこにはゴブリンに頬擦りしたり、一緒にストレッチをしたりと、じゃれ合っている中年男がいた。
「あれか……」
「はい。ゴーレムの討伐頑張って下さい」
「あ、ありがとう」
ボイルは大きく、ゆっくりと深呼吸をして、足を進める。声をかけるには少し力がいる。それほどまでに、その人物は浮世離れしていた。厄介払いもいい所である。
「取り込み中すまない。ゴーレム討伐について話を聞かせてくれないか?」
「藪から棒に何ですか。私は今忙しいのです。人間の相手などしている暇はあり……ま……。そのスケルトンはあなたのモンスターですか?」
近くで改めてよく見ると、全身痩せこけ、大きな度入りメガネが不摂生な頬を際立たす。それでも綺麗な白衣が唯一の救いだ。
「そうだ。アークライトという」
「うひょぉぉ、それならそうと速く言って下さい。こうしてはいられません。確かゴーレムの討伐でしたね。いいでしょう。手厚く詳細にお話ししてあげましょう。それ代わり……わかっていますね?」
「いや、わからないが……」
「嘘はいけません嘘は。私は錬金術師です。そしてあなたはスケルトンをテイムしている。これはもう同じ志をもっていますよね。飽くなき英知への探求。一緒に極めましょう。それに比べればゴーレムの話など些細なことです」
要領を得ない長い語りに、ボイルは少し強めに言い放つ。
「結局何が言いたい!!」
「スケルトンを観察させてください!!」
不躾な輩が、両手を太ももにつけ綺麗なお辞儀をする男に早変わり。
「どうする?」
「……? カタカタ!」
どうやら、もう少し詳細を聞きたいようだ。身振り手振りで話を催促している。
「観察というが、四六時中一緒にいるのか?」
「いいのですか!?」
「カタカタ!!」
アークはここ一番のスピードで首を振り嫌がる。
「でしたら、このオベールにいる間は常に観察させてください」
「いやそれも窮屈だ」
「カタカタ」
アークは大きく力強く頷く。
「俺は探検者だ。アークは見ての通りスケルトンだ。俺たちに何かしらのメリットがあれば、前向きに考えるぞ」
普通であれば話を聞く側が譲歩しないといけないが、ボイルは駆け引きにでた。
「あなたは探検者ですか!! 初めてこの目で見ました!! なるほどなるほど、もしやこちらのスケルトンは特別な個体だったりしますか?」
「流石だな。正解だ」
眼鏡男は目をさらに輝かせアークに熱い視線を送る。
「これは是非とも観察したいですねー。……ではあなたには、私の助手ということでこの後の調査に同行を許可します。事前情報では特別な個体ということだったので、独り占めしたかったのですが……。仕方ありません」
「特別な個体だと!?」
「なんでも、槍と火魔法を扱うゴブリンとのことです」
「それは是非とも同行させてほしい」
ボイルが出会ったゴブリンは斧のみで攻撃してくる。槍や魔法なんて使ってこない。
「もちろんテイムしていただいて構いません。というよりしてもらって観察させてください」
「できたらな。アークは何が欲しい?」
「カタ? カタカタ」
素振りの動作をし、欲しいものを要求する。
「剣が欲しいのですか。問題ありません」
「カタカタ」
先ほどとは違う意味で大きく頷く。
「では四六時中の観察を!!」
「それはなしだ!!」
「なんですと……!!」
「カタカタ」
アークは地面と自分を交互に指さす。
「それはオベールにいる間ならいいってことか?」
「カタカタ」
本来なら窮屈だが、アークにとっても剣の恩が譲歩させた。
「あんたもそれでいいか?」
「もちろんですとも!!」
この交渉は、それなりの時間を要した。
「さっそく調査地の牧場に行きましょう」
「すぐに移動するか?」
「ぜひお願いします。約束の時間に少し遅れそうです」
「……すまない」
どこか釈然としないが、ボイルは謝罪を口にした。日本人の性でもある。
「アークも行くぞ」
「カタカタ」
部屋の鍵を先ほどの店員に預け、三人は南にある農場に向かう。
「移動中ですが、時間は誰にも共通です。無駄にはできません。なので私は、この時間を有意義にするためにも、アークライトさんについてお伺いしたいのですが?」
無駄に長く、どこか説明口調なのはこの男の性格だ。
「その前に俺は探検者のボイルだ。名前は?」
「これは失礼を。私はトリスと申します」
ボイルは握手を交わしながら訪ねる。
「アークの何が知りたい?」
「調査対象のゴブリンのように、スケルトンにしては珍しい
トリスはアークとも握手をする。
「【下級片手剣業】【上級小盾】を有している。あと土属性は弱点ではない」
「それはそれは……すさまじいですね。探検者と同時に現れるようになったユニーク個体。神に愛された人は探検者で、神に愛されたモンスターはユニーク個体なのでは……。いやモンスターは総じて神とは相性が悪いはずです。これは――」
独り言を呟きつつ、トリスはトリップする。
「おい!! 戻ってこい!! まだ話は終わっていないぞ」
「なんということでしょうか。早とちりするとは不覚です。続きをお願いします」
「話すこと自体は問題ない。ただ、これは探検者の力の一端でもある。剣を買うとき、斧と槍も買ってくれないか?」
「脈絡はわかりませんが、私からまだ金をせしめるとは、なんということでしょうか。どんな話なのかワクワクしてきます。もちろんいいでしょう。早く教えてください」
研究者という人種はどこかマゾっ気がある。それは未知なる領域への挑戦心だったり、探求心だったり、突破した際の達成感だったり、反骨心だったり、いろいろだが必ずある。ゲームで強敵と対峙するときの感覚に近い。
「今のアークは魔法も使える」
「……詳しくお伺いしても?」
今までのような陽気な表情ではなく、トリスは真顔で反応する。
「【氷魔法】【聖魔法】が使用可能だ。といっても魔法使いのように連発は難しいがな」
「魔法の扱いが巧みなら、スケルトンではなくリッチになるはずです。それでも魔法が使えるとは……」
「ある程度の縛りはあるが、実は探検者がテイムすると、そのモンスターにスキルをつけることもできる。これが力の一端だ」
トリスは視線をあちらこちらに向け、ボソボソと思考を開始した。その間も歩くことはやめない。他の通行人ともぶつからないのは器用だ。
「なるほど。もしや斧や槍は、ゴブリンをテイムしたときに与えるので?」
「あぁ。俺にとってのゴブリンは、槍もありだがやっぱり斧だ! それにゴブリンの槍はボロボロかもしれないしな」
「わかりました。購入しましょう。ですが、もし魔法を覚えさせることが可能であれば、そちらを優先して下さい」
「問題ない。その条件を受けよう」
「交渉成立です」
先に魔法を覚えさせても、ボイルにとっては問題ない。
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