第11話 大きなデメリット

「残りはデメリットの確認だな」


 この項目だけ他と違い、重要と注意書きがされている。内容は、一日に一回以上、骨に関するアイテムをアークライトに与えること。これはテイム中、継続事項。簡単に言えば食事。


 そして二つ目は、現実時間で三日以内に片手剣と小盾を用意し与えること。これは継続ではない。片手剣は特に指定はないが、小盾に関しては現在の盾に沿った外見を製造すると記載されている。


「骨に関するか……」


 ボイルの持っている素材に、骨と付く名称のアイテムはない。


「歯も骨だ。試してみるか。アーク、バットの牙だ」

「カタッ」


 アークは愛称だ。牙を受け取ったアークは口元に運ぶ。すると、牙は光の欠片となりアークに吸収されていく。


「これで一個目は目処がついた。二つ目は……エリナに聞いてみるか」


 牙が使えなかった場合、骨素材を血眼になって探すはめになっていたはずだ。


「ボイル、どうよ?」

「悪い。今すぐ戦うことはできない。まずは剣と小盾を用意しないとだな」

「あー、さっき壊れていたな」

「そうだ。それで生産職の知り合いに聞こうと、今チャットを送ったところだ」

「多分難しいぞ……俺が知る限り、鉱石が出た話は聞いたことがない。掲示板でもその手の話は出ていないからな。出ていたら、俺が真っ先に剣を新調しているぞ」


 掲示板システムは戦闘中以外なら、どこでも誰でも見ることができる。


「そうだな……。ちょっと悪い。了承の返信がきた」

「もしかしたら最新の情報があるかもな!」


 ボイルは手を電話の形にして、エリナに通話をかける。通話できるのはフレンド登録者のみだ。チャットは基本誰でもできる。


『急にすまない。ボイルだ。今少しいいか?』

『はい、エリナです。もちろんですよー。ダメだったら、チャットで断っています』

『それもそうだな。早速本題だが、鉄製の剣と小盾の製作依頼をしたくてな』

『えーっとですね。作りたくても作れそうな素材がないんですよー。それに採掘ポイントも周辺にはないみたいです。もちろん素材があれば作りますよ!』

『そうか。もし素材が手に入れば頼む』

『お待ちしています!』

『それじゃまた』

『買い取りはいつでもやっていますからね! はい、またです!』


 通話切断アイコンを押し、ボイルはエリナとのやりとりを終える。


「ハヤトの言う通り、どうやら鉱石はないみたいだ」

「やっぱりか……」

「どうしたものか……剣が作れないとなると、テイム解除まっしぐらだな」

「デメリットの?」


 ボイルはハヤトに詳細に話した。


「なるほどなー。それなら帰りに襲ってくるバットの牙いるか? こっちは酒肴しゅこうをもらったし、そのお礼ってことで」

「そういうことなら、遠慮なく受け取らせてもらう。といっても、鉱石がないと意味のない素材だ……」

「そう卑屈になるなって! まだ次の街まで誰も行っていない。そこにあるかもしれないだろ?」

「それもそうだな。馬で行けば間に合いそうだ」


 徒歩で二日かかる距離でも、レンタル馬を利用すれば半分にできる。


「何をしているゥ。さっさと宴に戻るぞォ」

「わざわざ、俺らのこと待っていたの?」


 ハヤトはニヤケながら問う。


「別に待っとらんわァ! このスケルトンをォ……いやァ、アークライトを調べていただけだァ。せっかくの新しい門出ェ。さっきの戦闘で骨が欠けていたらァ、ボイルも嫌だろォ。それはアークライトも同じィ」

「ありがとう」

「供物をもらったからなァ」


 ボイルは微笑み、墓守はそっぽを向く。


「そこまでしてもらって悪いが、新しい門出はすぐ終わりそうだ。すまん」


 ボイルは頭を下げる。


「どういうことだァ? ぞんざいな扱いをする宣言かァ?」


 墓守の顔はさっきの表情から一変、ボイルを睨み付ける。聞かれたボイルは、それでも頭を下げたままだ。


「ま、俺たち探検者がテイムすると、相当の物がいるんだよ」

「フームゥゥ、テイム状態を維持するのに必要なのかァ。神に愛されるからこそ、モンスターとは相性が悪いということかァ。探検者も難儀だなァ」

「まあ、そんなもんだ。で、俺たちは小盾を新調するためにも、鉱物がいるんだ。それに骨系アイテムも集めないといけないからなー。これでも結構大変なんだぜ!」

「そんなもので、死の淵から救い上げられ? オイラたちより強くなれる? 探検者の大変は程度が知れる」


 死を感じてきた墓守からすれば、その言葉は癪に障る。


「ごめん!」


 それに気づいたハヤトも即座に頭を下げる。筆頭墓守は二人を睨み付けたままだ。アークは上を見ながら考えごとをしていた。


「……言い過ぎたァ。骨は畜産をやっている牧場に赴けェ」

「南門の?」


 頭を下げたままハヤトが聞き返す。


「そうだァ。鉱石ならゴーレムを倒せば、それなりに取れるはずだァ」

「ディアン山は敵が強くて、今の俺らでは無理だー」

「探検者が無理でもォ、冒険者ならァ、日常的に倒している奴もいるゥ」

「なるほどなー、そういうことかー」


 ハヤトは頭を上げ、手を打つ。


「自分たちだけでェ倒したいならァ、街の錬金術師を頼ればいいィ」


 若い駆け出しなら農場や牧場で出稼ぎしていると、追加情報もボイルたちに教える。


「ありがとう」


 ボイルも面を上げ、目を見てお礼を言う。


「アークライトのためだァ。ほらァ宴に戻るぞォ」


 墓守は会場へと歩き出す。ボイルとハヤト、そしてアークはその後に付いて行く。


「なあ、ボイル。俺は街に着いたら、革防具を新調できるか生産職に確かめてみる。そして、鉱石で金儲けしようと思っている! だから情報の公開は少し待ってくれないか? 頼む!!」

「……金儲けは俺も考えていた。テイムモンスターたちのためにも、小さくてもいいからホームが欲しい。だが、売るときにならないと儲かるかどうかはわからんぞ。その頃には、誰もが鉱石をもっているかもしれん。取らぬ狸の皮算用はごめんだ」

「それもそうだけど……」


 ハヤトはバツが悪そうにボイルの意見を認める。


「ただ、情報の非公開は俺も納得だ。やってみるだけの価値はある。一緒にゴーレム狩りか?」

「β版のときに出会った仲間とやる。情報もその仲間だけだ。そして俺たちはギルドを設立する」

「テストプレイヤーだったのか。それは頼りにさせてもらう。それで設立条件分かったのか?」

「掲示板に書いてある。ていっても、ギルド職員に聞けば普通に教えてくれるらしいぞ」

「このゲームの方針はわかりやすいな。NPCと仲良くしろ」

「そういうこと。その設立条件に大金がいるんだよー」


 条件は三種類ある。全て最低限なら、人数は三人。一番小さなホーム。最後に、一〇万Sが必要だ。設立後のメリットは、メンバーが集まれる場所ができること。ギルドメンバーだけの専用チャット。ギルド単位のクエスト。生産施設や環境施設などの設置が可能。


 また良くも悪くも、住民からの覚えがよくなる。肝心の一番小さなホームだが一〇〇万Sする。建物や敷地が大きくなると、ギルド用と個人用で別れるが、一番小さなホームは共通だ。そしてギルド専用ホームは高額だ。


「一〇〇万Sか……。専用クエストは興味がある」

「ボイルも入るか? テイム用施設は後からでも拡充できるしさ!」


 設置もランクアップも後から追加できる。


「いや、遠慮する。テイムモンスターも増やしたいし、そいつらと仲良くしたいからな」

「手伝えることがあったら言ってくれ。ギルド設置はボイルのおかげだしな!」

「それこそ作ってからでいい」

「それもそうだ。アークもよろしくな!」

「カタカタ」


 ハヤトとアークライトは握手をする。


「よしっ! 飲み会の再開だ! アークも飲むか?」

「カタカタ」


 大きく首を縦に振った。


「アークも酒が好きそうで何よりだ」

「さあァ、はやく動いたァ動いたァ!」


 全員は倉庫兼墓守住居に戻った。

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