第10話 ユニーク個体の強さ
「始めぇ!!」
いつもの先手必勝精神でボイルが攻撃を仕掛ける。
「フルスイング!!」
胴体を狙った攻撃は、相手が地面スレスレまで屈みかわす。そしてスケルトンは地面を蹴り、勢いよく立ち上がるのと一緒に剣も振り上げる。
「うおぅ」
ボイルは後ろに倒れ込む。そのおかげで攻撃を避けた。だが、その体制では次の攻撃は受けるしかない。
「くっそ!」
体勢を立て直すまでの間、ボイルは二回ほど攻撃を受けた。HPは三分の一ほど削れた。
「案外減らないな。なら!!」
ボイルは防御を捨て、通常攻撃を連続でしかける。スケルトンは回避し、その隙をついて攻撃する。
「戦闘中に回復できるのは、かなり卑怯だよな」
ボイルは目を合わせたまま、インベントリーからHP回復ポーションを取り出し即座に使う。
「これで振り出しだな」
削られたボイルのHPは全回復。
「次は当てる! ふんっ!!」
ボイルは通常攻撃で胴を狙う。スケルトンは最初のように躱し、攻撃に繋げる。
「うっ! いま!! フルスイング!」
ボイルは攻撃を胴体で受けとめる。振り切った剣は即座に戻せない。そして、その隙をついて渾身の攻撃を叩き込む。
「よし!! とりあえず一発!!」
スケルトンは振り倒され、HPも大きく削られた。打撃武器が弱点のようだ。
「もう一度! フルスイング!」
倒れ込んでいる相手に槌を振り下ろす。
「クッ!」
だが、スケルトンはバックラーで弾き返す。その反動がボイルを襲い、両腕を大きく上にあげる。それでも相手は完全に返し切れていなかった。
「……」
ボイルの大きな隙。攻撃を仕掛けるチャンスだが、敵は距離を取り構える。
「次で決めると?」
構え直したボイルは問う。それに相手は無言で頷き返す。
「……」
「……」
少し沈黙が場を包むが、スケルトンはすぐに距離を詰め、剣を振り下ろす。
「……!」
今までのどの攻撃よりも鋭く速い。それはハヤトはが見せた剣のアーツよりも上だ。だがボイルはその剣めがけ槌のアーツを叩き込む。
「フルスイング!!」
気持ちがのった攻撃は、剣に当たり何の抵抗もなく折る。
「……勝負ありだな。テイムを受けてくれるか?」
少しの間をおいて、スケルトンは頷き返す。ボイルは魔石を取り出し、育成スキルのアーツをスケルトンに向けて唱える。
「テイム」
淡い緑色の光が、スケルトンに降り注ぐ。そして手の中の魔石が一瞬光る。
《スケルトンのテイムに成功しました》
ボイルにシステムメッセージが通達された。
「やったな!」
「ありがとう」
「それで、今からやってくれるのか?」
「ちょっと待ってくれ。今確認する」
ボイルの視界の中には、数個のアイコンが点滅していた。
モンスター図鑑の解除。テイムモンスターに名づけ。テイム後の必要なアイテム。など主に三つの項目が光っていた。
モンスター図鑑とはその名の通りの機能だ。一定数の討伐で、各モンスターの生息地やドロップアイテムが記載される。テイムするとその種の初期スキルも載る。そしてボイルはスケルトンと自動的にパーティーを組むことになった。
パーティーのヘルプが出たが、内容はどのゲームにもあるものだった。テイムモンスターとパーティーを組んだことで、スケルトンのHPとMPゲージがボイルの視界の中に現れる。両方ともボイルより少しだけ低い。
「そのスケルトンは、生前冒険者上がりの新米騎士だったァ。着任祝いの帰りに多数の何者かに襲われて死んだァァァ!」
「どういうことだ? 生前の記憶や意識があるのか?」
「ないが、想いは染み付くゥゥ」
「その想いは?」
「民を守り、民から愛させる騎士だァァ」
モンスターから村を守るかっこいい冒険者。規模が大きくなれば街や国を守る騎士になる。ちゃかすようにハヤトが話に割り込む。
「よくそんなこと覚えているなー」
「おいらは筆頭墓守ィ」
口元を大きくニヤケさせる。
「アークライト。お前の名前だ」
「……」
無言で頷き、名づけが完了する。契約に使った魔石が、アークライトの契約魔石という名称になり大切なモノ扱いになった。
「次はスキルの確認だな」
ボイルがシステムを把握している間、墓守はアークライトの身体を調べる。アークライトはユニーク個体だ。通常個体と違う所もある。
現状覚えているスキルは【下級片手剣業Lv.1】【上級小盾Lv.1】【】【】【聖属性弱点】。三個と空き二つだ。残り七枠は成長と共に解放される。プレイヤーと違い、控えスキルという仕様はない。
弱点属性スキルから分かるように、モンスター専用のスキル一覧がある。
例えばスライムには【溶解】があるが、スケルトンにはない。空きスロットはプレイヤーが選ぶ。モンスターに選ばせることは通常できない。それは進化先選択時も同様だ。
ちなみに、スケルトンの通常個体のスキルは【】【】【】【土属性弱点】【聖属性弱点】だ。
「心得系がまったくない。」
それは心得にとどまらず、強化系や耐性系など、バフ全般がスキル一覧にはない。あるのは武器に魔法、モンスター種族専用スキルだけだ。防具スキルもない。ただ、今は取得できなくても、レベルが上がれば取得できるかもしれない。
「なら魔法系か」
選んだのは【下級氷魔法】と【下級聖魔法】の二つだ。弱点属性の魔法も覚えられた。
属性の相性は、火は氷と木に強く、氷は水と木に強い。水は土と火に強く、土は雷と火に強い。雷は風と水に強く、風は木と土に強い。そして木は水と土に強い。闇と聖はお互いが弱点だ。
「ヒーローのように悪政やモンスターから民を守れ。希望の光、
「カタッ!」
頷いたときに効果音が鳴るのは、テイムモンスター故の愛嬌。
結果【下級片手剣業Lv.1】【上級小盾Lv.1】【下級氷魔法Lv.1】【下級聖魔法Lv.1】【聖属性弱点】になった。
覚えているアーツは、片手剣ではハヤトも使っていたスラッシュ。更には刺撃と二段斬り、ブレードザッパーの四個を覚えていた。
アーツ詳細はスラッシュだと、微かに攻撃力が上昇し、少しだけ素早い斬撃を繰り出す。リキャストタイムは一〇秒。使用硬直などのデメリットはない。使用MPも少ない。
刺撃は通常より鋭い突きだ。弱点部位を攻撃したときにダメージが加算される。リキャストタイムは二〇秒。デメリットはない。使用MPは少ない。
二段切りは素早い斬撃を二回繰り出すアーツだ。一回ずつの攻撃は通常攻撃より少し下がるが、合計値は高い。リキャストタイムは三〇秒。デメリットはない。使用MPも多いわけではない。
ブレードザッパーはスラッシュの上位版だ。リキャストタイムは五〇秒。使用MPも多い。
「最後の攻撃はブレードザッパーか。武器破壊はいい選択だったな。にしても知らず知らずに緊張していた。冷静に考えれば、ハウリングソウルを使えば少しは楽だったか……」
小盾のアーツは三個。ブロックガード、パリィ、シールドバッシュだ。
最初のブロックガードは、自身の防御力を僅かに上げる。効果時間は二〇秒でリキャストタイムは三〇秒。空白の時間は一〇秒となる。だが、効果発動中は速度が微かに低下する。故に使用MPは少ない。
パリィ延長は敵の攻撃時にタイミングよく発動させると、敵の攻撃を弾きやすくなるアーツだ。効果有効時間は〇.三秒。デメリットなし。使用MPは僅か。リキャストタイムは五秒。
ただしパリィ自体はアーツや盾系スキルがなくても技術的には可能だ。有効タイミングは〇.一秒。反応速度限界だ。それをアーツで緩和させている。
シールドバッシュは盾で相手を殴り、体制を僅かに崩す攻撃だ。通常の盾攻撃より威力が僅かに上昇する。また、パリィと併用することで相手の体制を大きく崩す。また、転倒させることも可能だ。リキャストタイム二〇秒・使用MPはそこまで多くない。
「両腕を上げてしまったのは、パリィとシールドバッシュの併用か」
覚えたての【下級氷魔法】と【下級聖魔法】のアーツは一個ずつ。効果も使用MPもリキャストタイムも同じだ。ただ属性が違うだけ。
氷魔法は
【聖属性弱点】は聖属性のダメージ量が二倍になる。
「残りはデメリットの確認だな」
この項目だけ他と違い、重要と注意書きがされている。
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