第12話 宴

「お前ら待っていたぞ! ほら飲め飲め!」


 場はすでに出来上がっていた。


「おいおい、新顔のスケルトンがいるぞ!」

「新客とは珍しいなー!」

「怖くないのか?」


 さっそく宴に戻ったハヤトは、今更ながら聞く。まだハヤトの認識では、アークはモンスター寄りになっている。


「筆頭墓守がいるのに怖がる理由はないな」

「流石墓守だぜ!」

「それより、スケルトンを紹介してくれよ!」

「アレは俺の管轄じゃないぜ! アレはボイルのだ」


 ハヤトは、未だに参加していないボイルに向かって声を掛ける。


「ボイル早く早く! アークライトのことも紹介しようぜ!」


 ボイルの酒の楽しみ方は、美味い酒を飲みながら、盛り上がっている友人を眺めることだ。同じようにバカ騒ぎはしないが、十分満足できる楽しみ方だ。


 それに上司が飲み散らかし、酔っぱらうのはみっともない。飲み慣れていない新入社員を介抱できるように、準備しとくのも年長者の役割でもある。壮年にもなればその楽しみ方を実感できる。


「まったくしょうがないな」

「おっ! 差し入れしてくれた兄ちゃんか!」

「摘みもうまいぞ。ありがとうな」

「俺も酒が好きだからな。気にしないでくれ」

「おう。それなら、いつでも参加してくれよ」


 リザードマンのゴーストが提案する。ボイルにとって、彼らが用意した料理や酒は初見の物だった。名称も不明のままだった。だが教えてもらうと、その名称が分かるようになった。


「それはいいな。ここ出身のスケルトンだしな」

「それです。速く紹介してくださいよ」


 ボイルはさっきの出来事を飲みながら説明する。


「里帰りも含めていつでも、参加してくださいね」

「アークライトのためにもそうさせてもらう」

「カタカタ」


 アークもどこか嬉しそうだ。


「まあー俺たち探検者は忙しいからなー。ボイルもそんな頻繁に来られないぞー。って俺に参加許可はないの?」


 ハヤトはツッコむ。


「アハハハ、もちろんいいさ」

「あんたは、そういう役回りだからな。クックック」

「ふふっ、お二人ならいつでも歓迎しますよ。外の話しでも聞かせて下さい」

「任せとけっ!」


 ハヤトは自らの胸を叩き、酒を呷る。


「ヒャッヒャッヒャ。今日はいつも以上に賑やかだァ」

「俺たちがいるからな。墓守聞きたいことがある。いいか?」

「どうしたァ」

「スケルトン問わずモンスターは敵だ。それを連れている俺は、街に入れるのか?」

「テイム契約状態ならァ、昼間の活動もォ、街への出入りも問題ないィ」

「そうですね。冒険者たちも、ウルフやイーグルをテイムしていますが、問題ないく街に入り、家を建て、施設を活用しています。探検者だけ区別する理由もないでしょ」


 逆を言えば、罪を犯せば区別されることになる。


「なら安心だ」


 ボイルはハヤトに倣い酒を飲み干す。


「ヒャッヒャッヒャ。今宵はァ新しい門出を迎えた仲間がァいるぞォ。めでたい日だァ!! 騒げェ!飲めェ!」

「おう。いつも以上に飲んでやる」

「めでたい日ですね。お酒も美味しいです」

「酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ」


 ゴーストたちは飲み、ハヤトは踊りながら歌う。


「アークも楽しく飲め」

「カタカタ」


 頷き酒を飲む。といっても、バットの牙と同じで器を口元に持っていけば、中身が光となり消え去る。


「そうか。美味しいか。これからは飲み仲間としても、よろしくな」

「カタカタ」


 ボイルとアークは酒を通じ友好を深めていく。そして夜が来れば朝も来る。墓地の宴もお開きだ。


「そろそろ夜明けですね。今日はもう終わりですか」

「また明日あるだろう! 当分は話題に困ることもないしな」

「ヒャッヒャッヒャ亡者どもォ、今日は終わりだァ」


 全員が慣れた動きで片づけをしだす。


「客人の二人はァ外まで送ろうゥ」

「申し訳ない」

「よろしくー!」


 二人はそれなりに酒を飲んだが、バッドステータスは付いていない。来たときと同じように先導されているが、モンスターの姿は見当たらない。


「闇が、逃げて行っているみたいだな」

「カタカタ」


 夜だった場所が、朝日に侵食されていく。アークはどこか懐かしいような感傷を覚えた。そんな二人をよそに、ハヤトは掲示板を見ていた。


「オイラはァ、ここまでだァ。供物を持ってくればァ、いつでも歓迎だァ」

「楽しい時間ありがとうな!」

「いろいろありがとう。アークと一緒にまた寄らせてもらう」


 二人は墓地の境を挟んで感謝を告げる。ボイルたちとは違い、墓地側にいるアークはどこか怖がっている。


「大丈夫だ。墓地から出ても生きていける。現に日の光を帯びてもォ、アークは生きているゥぞォ!」


 墓守の言葉で、スケルトンは一歩を踏み出す。


「カタカタ!!」


 アークはかなり嬉しそうだ。


「やったな」

「そうだな」


 短いやり取りの中には、壮年だからこそ通じる経験があった。


「ヒャッヒャッヒャ。ユニークはァ、他の個体と違うゥ。それは強さであったりィ、気持ちだったりィ、コンプレックスだったりィ、沢山違うゥ。期待しているぞ」

「任された」


 墓守は今までと違い、急に真面目な顔になりボイルに言う。そして二人は熱い握手を交わす。


「ではァ」


 三人は手を上げ別れを告げる。


「またなー」

「また」

「カタ!」


 墓守は墓地の奥へと消えていった。。


「とりあえず街まで戻るかー」

「そうだな」


 二人は歩きだす。ボイルの後ろには小盾だけを装備したアークが付きそう。


「バットは見当たらないな」

「夜だけのモンスターぽいなー。ボイル、これを受け取ってくれ」


 ハヤトはトレードを申請し、バットの牙を提示していく。


「帰りに襲ってきたバットの牙は全部渡すって約束だったけど、出ないからな」

「遠慮なくもらう。ありがとう」

「おうよ! 早速あげてやりな」


 遠慮し合うのも様式美だが、それは相手による。


「カタカタ!!」

「改めて、これからもよろしくな」

「カタ!!」


 バットの牙は遠慮なくアークの口に運ばれ、消え去る。


「ボイル。マナー違反なのはわかるけど、よかったらアークのスキル教えてくれない?」

「大丈夫だ。というよりも少し助言がほしい」

「おうよ」


 ボイルはアークの【下級片手剣業】【上級小盾】のことを話す。


「スキルに下級や業があったり、なかったりよくわからない。アークのこれもな」

「ボイルは掲示板や攻略サイト見ない感じかー」

「これからは見るように心がける」


 ハヤト曰く、スキルは一三段階に分けられるとのこと。【下級片手剣】は中級上級と上がり、業という位が付く。位は業、技、術と上がる。下級が付かず、位だけが上がるスキルもある。


「ボイルの【水泳業】の次は【水泳技】になるってことよ。でアークの【下級片手剣業】は次の位のスキルってことだ」

「なるほど。【上級小盾】の次は【下級小盾業】になるのか」

「そういうこと。【水泳術】の次は多分名前が変わるな。正確な名前は、水泳を育てているプレイヤーがいなかったら分からないけど」

「そうか。アークの剣と小盾スキルは序盤では強いのか」

「スキルだけなら強いけど、ステータス抑えられるし、武器や防具もプレイヤーが用意しないといけない。それに廃人勢なら三日四日あれば十分追いつける程度だぞ」

「流石説得力がある」


 ボイルのツッコミにハヤトは大袈裟に否定する。


「俺は廃人じゃないぞ!」

「時間も忘れて戦い続けてれば世話ないな」

「それは廃人じゃなくて、ただのゲーム好きだ!」

「そういうことにしとく」


 二人は軽口を言いながら、街への歩みを止めない。アークも相槌なのか、カタカタと首を振っていた。そうこうしているうちに北門が見えてくる。夜目も一段階上がり【夜目技】になった。


「護衛はここまでで大丈夫か?」

「目と鼻の先だ。問題ない」

「よしっ! 俺は早速素材を売りに行って、冒険者に話を聞きにいってみる」

「俺は休憩だ。少しログアウトする。それからは錬金術師に話を聞いてみるさ」


 二人は墓守のアドバイスを参考に予定を立てる。


「了解! ゴーレムは仲間たちとやりたいし、ボイルと次会うときは、アークの小盾ができてからかなー」

「PVPの約束だな」

「そうそれ! 楽しみに待っているからな! それじゃ、またな!」

「おう、またな」

「カタカタ」


 二人は握手をし、アークは大きく頷く。ハヤトは急ぎ足に城壁内へと消えていった。

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