第4話 初戦闘
「ゲームらしく戦闘だな!」
プレイヤーはボイル以外誰もおらず、独占状態だ。ボイルは片手持ちと両手持ちの二種類で槌を振るい、具合を確かる。
「両手が速く正確に振れるな」
初戦闘の相手は、バスケットボール大の蟹だ。片鋏だけが大きく、体色は全体的に緑かかった灰色。
「レベル五で名前はシザーか」
ボイルの攻撃範囲なのに、シザーは小さい鋏で砂を弄り、何かを口に運んでいる。アクティブモンスターではないようだ。先手必勝といわんばかりに、初撃で槌のアーツを叩きこむ。アーツはMPを消費することで発動可能だ。
「フルスイング!!」
打撃武器を勢いよく振るうアーツ。通常攻撃より僅かに威力があがる。使用MPも自然回復で十分賄えるほど。使用硬直はない。リキャストタイムは一〇秒。
「一撃か」
攻撃部に赤いダメージエフェクトが入り、敵はキラキラとしたポリゴンになりながら消えていく。流血表現もなく、ダメージ量表示もない。それでも敵のHPバーは見える。正確な数値はなくても感覚でわかるものだ。
ドロップアイテムは、加工アイテムの蟹甲羅と食品アイテムの蟹味噌の二つ。
アイテムは加工、食品、素材の三つに分かれる。加工アイテムは食品、素材を網羅している。食品は素材を含み、素材アイテムは何も含まない。要するに加工アイテムは一番使い道が多いということだ。もちろん加工アイテムなのに、その用途にしか使えないものもある。
「蟹甲羅のフレーバーテキストは……打撃に脆く耐久値が低いと。後はいい出汁がとれるのと、粉々にすれば肥料にもなると……防具には向かないな。ランクはFか」
蟹甲羅はこの様な使い道がある。逆に、食品アイテムの蟹味噌は武具には使えない。魔石にランクがあったように、全てのアイテムにもランクがある。同じアイテムでも敵が強かったり、珍しいアイテムだったりするとランクが高くなる。簡単に言えばレア度だ。Sが一番高く、次にA。後は順番通り来て、Fが最低ランクだ。
「供物のためにも食品は多めにだな! 次は貝だ」
モンスター名はサラシェル。貝の先端だけを砂から出し、呼吸している。砂が少しだけ巻き上がっている。
「フルスイング! これも一撃か」
消えていく範囲から推測して、縦横三〇センチほどの大きさだ。ドロップアイテムは、食品の貝柱と素材の貝殻の欠片の二つだ。
「これはいい酒の肴になるなー」
乾燥させてもよし、焼いてもよし。味付けはレモンやブラックペッパー、醤油といろいろ。蟹味噌をつけて食べるのも
「乱獲するぞ!」
ボイルは北に向かいながら、道中の敵を一匹も漏らさず狩る。最初はアーツを使っていたが、槌に関するスキルが上がってからは通常攻撃で倒している。見るからに打撃が弱点そうなモンスターは、通常攻撃でも一撃だ。シザーからは新たに食品アイテムの蟹足と蟹爪がドロップした。
「爪はEランク。レア扱いか」
サラシェルからは既存の二つだけ。
「後は、数百Sと魔石の欠片が一三個。にしても採取場所がまったく見当たらないなんて、想定外だ。酒の材料が‥…」
途中、岩場や草花が群生している場所を見つけたが、薄く光る採取ポイントはなかった。
「森に入れば、果実系があるはず! 摘みの素材も十分だし、エリア移動するか」
ミニマップ表記が切り替わるまで、森に向け海岸を突き進む。道中のモンスターたちはレベルの肥やしとなった。
「行儀が悪いが、歩きながら食べるか」
ボイルはインベントリーから保存食を取り出し貪る。
「やっぱりパサつくし、美味くない。料理スキルもありだな」
一人暮らしのボイルは、よく自炊する。ソースから作り出すような凝り性の一面もある。そんな進行のせいか、初期スキル一個を取得できるだけのSPが溜まっていた。
森に近づくにつれ、今度は茶色の地面に変化していく。足が沈み込むような砂地からフカフカの感触へ。磯匂いから土らしい匂いに変わっていく。
「これが森の中か。海とはまた違った癒しがあるな」
木漏れ日が地面を照らし、植物の活々とした色合いがボイルに活力をあたえる。自然を楽しんでいると、前方の茂みが揺れ三体のモンスターが現れた。
「初心者といえばコイツだよな」
現れたのはコボルト三体。レベルは五。二足歩行の犬だ。顔は狂気に満ち溢れ唾液が常に垂れている。全員がボロボロの服と靴を着こみ、木製の短剣を構えている。身長は一四〇センチ前後、手は人間のような五本指だ。ノンアクティブモンスターらしく、警戒だけで攻撃をしかけない。ボイルにとって、初の多人数戦だ。
「先手必勝! フルスイング!!」
一体に駆け寄りアーツを叩きこむ。頭にダメージエフェクトが入り、キラキラと消えていく。槌は大振り。連続で振り回すことは難しい。その間に他の二体はボイルを挟み込み、攻撃を仕掛ける。
「っく!」
攻撃力は低く、HPの減少は微量だ。痛覚設定はゲーム上抑えられ、軽く指圧された程度の感覚しかない。
「おら!!」
ボイルは前方の敵の頭部を横振りで倒す。通常攻撃でも一撃。背後の敵はバックステップで距離を取るが、その間合いは
「ふんっ!!」
最後の一体は大きく吹き飛び消え去る。残念ながらドロップアイテムはない。
「この程度なら大丈夫だな。まだまだ探索できそうだ」
ボイルの攻撃は一撃。相手の攻撃は初心者エリアということもあるが、金属防具のおかげでダメージは低い。自然回復ですぐ元に戻る。
「それでも仲間がいれば、もっと速いな」
これが同数のパーティーなら、一人が倒している間に他の二人も倒し終えている。単純計算で戦闘時間は三分の一だ。
「無い物強請りはほどほどに……探索開始だ!」
人手が欲しいなら適当なモンスターをテイムすればいいと思うかもしれないが、そう単純ではない。
テイム枠もあれば、テイム解除は相当のペナルティーがある。なんといっても、ボイルはテイムしたいモンスターがいる。さらには理想像もある。順番にもこだわりがある。
だからこその墓地だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます