第5話 スライムは強敵?
ボイルは森の中を歩きながら、木の洞や雑草を注意深く調べる。それでもアイテムは得られない。採取ポイントをメインに探しているため、先ほどの戦闘場所からそこまで進んでいない。
そんな中、RPG定番のモンスターがピョーンピョーンと跳ねながらボイルの前を横切る。テニスボールくらいの大きさでその姿は愛らしい。
「やっぱりスライムは癒し枠だよな。余裕があれば愛玩目的でテイムしたいが……って猪か!」
スライムを追うように、猪型のモンスターが鼻を鳴らしながら現れた。そしてボイルと目が合う。即座にお互いが臨戦態勢になる。
「フルスイング!」
ボイルの攻撃は頭部に当たり、一撃でモンスターを倒す。
「まさか……匂いまで」
獣臭さまで再現されていた。初見ではビビる。
「流石、五感で楽しむゲーム。さて、ドロップアイテムはファンゴの毛皮と肉か!」
どちらもFランク。毛皮は加工アイテム。初めて防具らしいアイテムに、ボイルは嬉しそうだ。もちろん肉は食品。
「結局、採取ポイントはなかったな。まあ、そろそろ夜の準備だな。一度、街に戻るか」
素材が欲しいボイルは街に帰る途中、積極的にモンスターを倒す。コボルトもファンゴも数を重ねるごとに、余裕を持って倒せるようになった。そして数回の検証から、弱点部位をなんとなく理解していた。
「コボルトやファンゴは頭部で一撃か」
実際、胴体に当てた攻撃は倒すまでに二撃かかった。
「弱点武器も設定されていそうだな。まあ、そういうのは他のプレイヤーに任せて、俺は海の漢を突き進むぞ」
職業柄、そういう考えをしてしまうのは仕方ないことだ。
「あれは!! やっぱり、モンスターといえばだよな!!」
ボイルのテンションは急上昇する。なぜなら二体目にテイムしたいモンスターと遭遇したからだ。数は二体。それぞれボロボロの木の斧を手に持ち、服は腰巻だけ。行動から察するに知性は低い。身長はコボルトより少し高い。
「ゴブリンと言えば初心者向けの敵! どのゲームでも同じ! 思惑通り!!」
ボイルがコブリンになって欲しい理想像は、バーバリアンだ。人によってはヴァイキングの意味合いもある。簡潔にいうならゲルマン的なワイルドさをもった強い漢である。飲み仲間にはもってこいだ。といっても墓地のモンスターが先だ。
「先手必勝!」
一体に駆け寄り、頭部めがけ振りかぶる。 ボイルの今の心境は、防具を作るのにレアな玉があと一個いるのにドロップせず、ボスマラソンの末、達成したときと同等だ。何も怖くない状態である。あえて述べるが、死亡フラグではない。
「よしっ! 次だ!」
テンションのおかげか、今まで以上に
「くっそ!」
HPの減りは今日一番だ。痛覚は抑えられているが、心情的に攻撃されると苛立ってしまう。
「おら!」
ボイルは即座に反撃した。だが狙いが甘く腹部に当たった。その結果、ゴブリンは悶えている。
「グググ、グキャ」
「フルスイング!」
アーツがトドメとなり、敵はキラキラと消えていく。高揚しているボイルは言いにくい達成感と余韻に浸っている。
「あー、最高……ってドロップなしか」
ゴブリンもコボルトもアイテムはない。低レベルの亜人系モンスターは素材が無いのかもしれない。
「ゴブリンも確認できたし、生産や情報収集しないとな」
その後、ボイルは初見の敵と出会わず、既出の敵と戦闘をこなした。採取ポイントも見当たらなかった。
「お! スライムは初だな!」
横切られたことはあっても戦闘は初である。
「先手必勝!」
スライムは決して早くない動作で、ピョーンっと攻撃を躱す。当たらなければ高火力でも意味はない。
「くっそ! ほら! ほれ! ああ!!」
ボイルの攻撃は中々あたらない。それから数回の空振り経て、やっとのことで倒した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
今日一番の強敵はスライムであった。ドロップアイテムは体液と薄皮の二つ。両方とも加工アイテムだ。
そして【槌業】が【槌技】に上がり、【下級金属防具】と【下級槌の心得】、【下級槌の攻撃強化】の三つが中級に上がった。新スキル三個を取得できるほどのSPも溜まった。
槌の新アーツの名前はハウリングソウル。唇を強く噛みしめ咆哮と共に熱き魂を解き放つと書いているが、効果は時間制限ありの攻撃力アップのアーツだ。効果時間は一五秒。リキャストタイム三〇秒。使用硬直なし。使用MPはそれなりだ。
「これは疲れる……リベンジは仲間と一緒にだ!」
戻る途中、ボイルはソロプレイヤーとすれ違ったり、パーティー戦闘を眺めたりして、MMOらしさを満喫していた。
「俺も今夜には必ず仲間をテイムする!」
ボイルは、剣を振るうソロプレイヤーの戦闘を見る機会に恵まれた。遠くて顔まで認識できなかったが、剣士特化構成なのか、攻撃速度や攻撃力、動作に目を見張るものがあり、ボイルは爽快を感じることになった。戦闘特化系はボイルの一歩先を行く。
「兄ちゃん、ちゃんと戻って来たな」
「忠告は聞くさ。まあ、また夜に墓地に行くけどな」
今の時間帯は夕方だ。
「ちゃんと聞くなら、墓地にも行ってほしくないぞ。墓守たちが管理しているっていっても、夜はアンデットがでる。それに今の兄ちゃんには倒せないモンスターもでてくるぞ」
「俺はそいつらに用事があるんだ。それに筆頭墓守に酒の差し入れもしたくてな」
敵では強くても、テイムすればステータスが抑えられる。
「そう言われたら止めにくいな」
「それに、俺は探検者だ。少しくらいの無茶は織り込み済みだ」
「兄ちゃんは探検者なのか! それっぽい人たちは見かけたけど、本当に現れるとはな。アレだよな、死にそうになったら、街のオベリスクに強制移動されて、体調不良だけで済むっていう。それに不老で、俺たちより強さの成長が速いって!」
住人(NPC)にとって探検者はそういう認識だ。地元のアイドルを期待するような気持ちも持っている。それが増えるか減るかは、これからのプレイヤー次第。オベリスクとは、転移ポータルのことだ。
「そうだ。気持ちは有難いが……過保護は大丈夫だ」
「俺ら衛兵からしたら、この街で寝泊まりする者なら誰でも守る対象。干渉は控えるが、何かあったら気軽に言ってくれ」
「そのときは十分に頼りにさせてもらうさ。ありがとうな!」
ボイルは去りながら手を上げ笑う。それ見て衛兵も手を上げ笑い返す。それを受け取ったボイルは驚愕と共に、清々しい気持ちいが心に満ち溢れた。日本人特有の心での会話。良い気持ちにならないわけがない。どうせ作り
「この年になっても、いいものはいいなー」
北門の周りには、まだ御座露店が多くある。ボイルは装備を外し、インベントリーを整理しながら店を吟味する。街中で装備解除するのは、ボイルなりのロールプレイだ。
「毛皮があっても、俺には役立たないし、売りだな。ついでに情報ももらえれば一石二鳥だ」
ゲームとはいえ、人と人の繋がりだ。それはフルダイブとなれば、とても大事な要素だ。合縁奇縁であり一期一会。決して、人ガチャではない。だからこそ、ボイルはこの諺を大切にしている。
「今なら何でも買い取るぞー」
「料理あるぞ! 味気ない保存食はもう卒業!」
「他の所より加工素材なら高く買い取るわよ!」
「いくらで買い取ってくれる?」
「もうちょっと勉強してくれよ!」
ボイルが出て行ったときより、街には活気や充実感が溢れかえっていた。
店員も客も個性がよく出ている。必要最低限だけのやりとりだけだったり、井戸端会議をしている女性プレイヤーたちだったり、アパレル店員のようにグイグイ話しかけていたり、いろいろだ。客商売なのに高圧的や上から目線の店員もいるが、それらは論外だ。
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