第4幕第8話 暗黒大陸の深き闇
物語は少し
女皇歴1188年3月10日
暗黒大陸北部
「ここもか・・・」
クシャナド・ファルケン子爵は使徒真戦兵サーガーンを降りてその廃墟を見つめていた。
過酷そのものである暗黒大陸の環境は僅か数ヶ月人が住まなくなっただけであっという間に様相を変えてしまう。
かつてはネームレス氏族と共生していたネームドのキャンプ地。
放浪の旅の途中で立ち寄り、サーガーンの修理を任せ、龍虫強力個体の討伐に手を貸したその場所には人の気配が全くなかった。
すっかり荒れ果て見る影もない無残な姿を
(サーガーン、周辺に思念信号波は感知出来るか?)
(まったく。いえ、長距離ですが思念信号波を
クシャナドの
(よしっ、中継してくれ。おそらくはアイツだ)
(了解しました、ミトラ様)
サーガーンに乗り込み、クシャナド・ファルケンは心を研ぎ澄ませた。
やがて長距離の思念信号波を
(・・・--、皆を連れて北に逃れるのです。--は私が抑えます。--は--を率いて北西に陽動を)
--には固有名詞に相当する内容が入る。
やはり
(--、位置を知らせろっ!北の--に居る俺がどうにかしてみせる)
(--?、兄さんどうしてこちらに?)
(そんな事よりも、今は急場なのだろうっ!--なら一人でも多く逃がす事を考えろっ!相手は--なのか?)
(いいえ、--です。しかし、--に恐怖して理性を
《白痴の悪魔》ではなく龍虫キングワームの強力個体がナウシカたちネームレスの氏族を襲撃していた。
思念信号波の方角からしておそらくは大陸中部だ。
(サーガーン、光の翼展開っ!)
(了解です。ミトラ様、龍皇女様の発信座標特定。これより飛行モードに入ります)
エウロペアネームドには隠していたがサーガーンは単体で飛行能力を持つ。
すべての使徒たちに備わる光の翼。
しかし、飛びながら戦うゼピュロスのような器用な真似は出来ない。
亜音速で暗黒大陸の熱気を振り払った紅蓮獅子は南を目指して飛んだ。
半時後、クシャナドはキングワームの巨体をサーガーンの目で捉えた。
(--!?、--ですか?)
(いいからお前たちは--に指示された通りにしろっ!命を拾えっ!命を繋げっ!)
サーガーンはキングワームの進路上に降り立つと《浜千鳥》で
弟子のディーンは天技の本質を完全に理解している。
そうでなければいなして注意を引きつけつつ、進路と退路を確保するための歩方を天技と認めさせることなど出来はしない。
「サーガーンっ!《獅子舞》でキングワームの注意を引きつけろっ!」
(了解っ)
天技である《獅子舞》は高速接敵と高速離脱に虚実を織り交ぜる。
周囲の大気を組成するナノ・マシンで分身を作り出し、攻撃を誤認させつつ、本体で攻撃を加える。
まやかしが嫌いなミトラでも巨大なキングワーム相手に手段を選べない。
《獅子舞》を食らってもキングワームはダメージをすぐに回復してしまう。
自己再生能力の賜。
クシャナドはこころを揺らさぬよう動揺を隠しつつ、思念信号波を放つ。
(--、お前も逃げろっ!もう俺たち兄妹で--に残っているのはお前だけだ。--にとっての唯一の希望。手持ちの武器が心許ないっ、--が持ち込んだ鋼の武器はないのか?)
(兄様、ここにはありませんっ。一番近いところでも--のキャンプです)
ここは暗黒大陸奥地だ。
暗黒大陸ネームレスたちだけが暮らす純血種たちの楽園。
いや、地獄だなとクシャナドは思い直した。
「仕方ない。アイツの言うとおりまだ残っているなら補充は出来る」
(ミトラ様、マサカっ)
「狩るだけならあの絶技を使えばミューにも出来る。あの娘に教え諭した“命を頂く”という趣旨やら、俺の信念に反するがやむを得まい。
クシャナドは精神を集中した。
やってやれないことはなく、今はまさにやるべきときだ。
「絶技っ、《紅蓮剣》発動っ!」
サーガーンの手にしていた長剣が超速加速開始したナノ・マシンの放つ燐光により青白く光輝く。
(未熟な俺では加速操作は出来ても減速操作が出来ない。使いこなせるとしたらルイスだけだろうな)
あらゆるものを切り裂く非実体剣という《紅蓮剣》にクシャナドは賭けた。
黒髪の冥王がかつて封印した禁断の絶技だ。
「三閃っ!」
掛け声と共に《紅蓮剣》を最上段と横一線に繰り出して十字を作り出し、中央部に露呈した心臓を
(すまんっ、お前の命に報いてやることは出来なかった。その巨体を作り出した歳月にも、お前のこころにも・・・)
サーガーンの手にしていた長剣が加速暴走によりナノ粒子化して崩れ去る。
同様にキングワームの
暴走していたキングワームは消滅した。
しかし、崩れ去る剣と
ナノ粒子が正常なナノ・マシンたちをプラズマ化して
「また
(ミトラ様、おいたわしい・・・)
禁忌の絶技を使えばこうなることは分かっていた。
だが、妹のナウシカを
ネームレスの有力な指導者をここで喪えばネームレス氏族たちは
敵陣営であるネームド側のディーンたちにとってもナウシカは交渉に必要な指導者だった。
なまじこころがあるばかりに
強力個体化した龍虫は孤独と
ヒトとしての彼等が他のヒトやセカイとの
残るのは生命種としての生き残りたいという本能だけになり、食欲と暴力の権化となっていく。
そして、使徒や龍皇家の
だからこそクシャナドことミトラは剣聖たちにこだわった。
ヒトとしての
そして他の者たちとの共存と共闘や、限りある命と次世代への
あるいは騎士の
無限の寿命を持つ龍虫強力個体と、人としての寿命しか持たない覚醒騎士たちの違いとはまさにその点だった。
荒廃地を生んでしまうのも彼等「人型龍虫」ならば、心掛け次第で荒廃地を生まないのも彼等「人型龍虫」になるのだ。
そして、絶技のぶつかり合う先には悲劇しかない。
それは絶技の本質というのが真理を絶つ
ミトラが誇り高きネームドの騎士たちに分かって
ナノ・マシンたちがプラズマ
ネームレスの裏切り者であり、かつての龍皇子ミトラはネームドにそれを説くために
しかし、本質的には二種族の両者に真理の持つ残酷さを説くためだった。
(--兄様、お怪我は?)
(ないっ。--も無事だ。しかしまた俺は・・・)
《白痴の悪魔》が押し込められて以来、暗黒大陸には巨大な闇が生じていた。
気まぐれに
(メロウが望もうと望むまいと暗黒大陸は正に暗黒と共にあった。まるで「共食い」の舞台は形を変えても「共食い」の舞台なのだと言わんばかりだ。リヴァイアサンが弟とアルフレッドを
負傷者の手当をする
見ていると黒い甲虫を傷口に押し当てている。
ネームドの言う龍虫種ボウリングビートル。
(黒衣の天使か・・・。彼等のお陰でネームレスたちは生きられる)
クシャナドは覚醒騎士特有の思念信号波でボウリングビートルを呼び寄せて拾い上げ、負傷者たちに押し当てる。
負傷者の傷口にあたる損傷したナノ・マシンをボウリングビートルたちが再生させていく。
青白い
負傷者たちへの治療作業が落ち着いた頃合いを見計らい、クシャナドは身振りと手振りで
接触すれば思念信号波で
性交や舌を
二人で連れ立ってサーガーンの操縦席に入り、戦闘中と同様にサーガーンに思念信号波を中継させる。
複座を展開して
(それで、状況を詳しく説明して
(--に味方する--兄様には教えられません)
クシャナドは険しい表情で妹を見た。
(俺はどちらの味方でもない。お前たちと積極的に戦うつもりもない。俺は--から“くれないの剣聖”として知られている。なにもしてくれないから“くれないの剣聖”だとさ)
大真面目に
長身に長く伸びた耳と平坦な顔立ちをした異人種の妹だ。
長く伸び放題の赤毛と
(各地で強力個体討伐を積極的にされて来られたから--兄さんと違い、--兄さんを裏切り者と
確かにエドナは帰化後はネームレスとも龍虫とも関わりたがらなかった。
それが同胞に無意味な
対して放浪子爵クシャナド・ファルケンの放浪の意味はネームドとなっても、暗黒大陸や新大陸といったネームレス生息域で共生社会の障害となる龍虫強力個体を討伐してきたからだった。
(俺はお前たち--には《個体融合》という、彼等--には絶技の使用という馬鹿な真似をやめさせるために人知れず戦ってきたんだ。--だった頃とはなにも変わっちゃいない。調停者として、双方にとっての剣聖として
人相の分からないクシャナド・ファルケンの顔を
(それでも先ほどのように追い込まれれば--の呪われた技を使う。--兄様も名に呪われていると皆が申すのも一理あります。だからこそ、私は兄様たちとは一線を
そもそも龍皇家の
思念信号波の強度という意味で龍皇家の
(--の試みが失敗に終わったとき、ホッとした連中も居ただろうさ。--の
(--と同盟したのは私です。--たち戦士の数が足りない。そして、折角育てた--だって使い道がないまま
クシャナド・ファルケンの顔が分からないままに怒りに打ち
(なんて馬鹿なことを。--の本国がお前たち--と戦ってきたのは分かっているのだろう?)
ルーシアが東のネームレス氏族たちと交戦し続けてきたことを
(えっ?--は--の暴力装置なのではないのですか?)
クシャナドはなんてこったと顔を
傭兵騎士団エルミタージュがエウロペアネームドの暴力装置なのは見せかけだけだ。
第3勢力として龍虫戦争を乱す考えでいる。
最後の男兄妹だったアイツが居たら
利用する者として利用し、利用価値がないと
深入りはしないし、手の内も見せない。
やはり
エドナなら間違いなく背後関係を調べ上げた上で、種の利益のために手を組むこともあるだろうし、
元長兄としてクシャナドはナウシカに冷たい視線を浴びせた。
(お前、利用されて殺されるぞ。それこそ奴等に預けた--なんて使い捨ての駒にされる。なにが“金色の乙女で”“虫愛でる姫君”だ。確かに同時に操れる数は多いし戦士としては強い。だが、考えが足りないにも程がある。
ナウシカは呆然となった。
(--や--が生まれ出ない事はそうした意味でしたの?)
本来なら生まれ出る筈のアリアスやジェラールが生まれ出ない事にもナウシカは鈍感だった。
ミトラの考えではネームレス種を守れないなら守れないなりに兄や父と同じ道を
帰化した龍皇家の
龍皇エイブラハムは共生社会実現のためにエウロペアネームドの中に
ネームレス種のために「帰化」と純血種としての共生の場を用意し、同胞たちを受け入れるためにエクセイルと協力して歴史の闇で動き続けてきた。
ミトラは使徒龍虫と個体融合しか切り札のないネームレスのために、使徒真戦兵サーガーンと共に命を
ファルツの黒太子レイゴールを殺して入れ替わってから、ミトラは殺したレイゴールの名と想いを受け継ぐことで、使徒真戦兵である
剣聖が孤独あるいは孤高の騎士の代名詞となったのは黒太子レイゴールことミトラがそうした認識に変えてみせたのだ。
エドナは龍皇家再興を掲げて戦い、敗れてネームレスたちに申し訳が立たないと静かに戦いをおり、ネームドとネームレスの生息域住み分けの為に十字軍戦争を指揮した。
そのエドナは
ミトラはエドナの想いを受け止め、敢えて異なる道を
そして、その魂が二つに引き裂かれてしまった《白痴の悪魔》を作り出したアリアスとティベルはその落とし前をつける意味でネームドに
龍虫にかわり、覚醒騎士と真戦兵の力で強大な敵を滅ぼそうと策を講じている。
種の記憶を受け継ぐ、根がまっすぐなアリアスは真正面から。
元々二人は二人で一人の兄妹の中で一番に
エドナ同様にかつて龍皇だったこともあり、エウロペアネームドを苦しめてきた最大最強の難敵で、龍皇アリアスに指導者の座を
龍皇アリアスと黒髪の冥王、嘆きの聖女の
彼等の戦いはエウロペアを
龍皇アリアスとの戦いで劣勢となったネームドの騎士たちは真史や写本に名を記されることなく、アイギスの聖なる盾で魂もろとも砕け散った。
龍虫強力個体と強制融合させられたネームレスコマンダーたちは猛威を
嘆きの聖女も呪われた奥義である《阿修羅演舞》を駆使して龍虫強力個体を
三人の悪魔たちの戦いはエウロペアと周辺域に
使徒龍虫でありヴァルキュリアン(ワルキューレ)級ヒュージノーズとエウロペアネームドが呼称した
同じく
冥王機パーシバル、聖女機モルドレッドは真の世界における円卓騎士の名を冠する他の兄弟機が消滅するのを見てきた。
Masterシンクレアの円卓騎士団は一度は結成を断念した。
そんな劣悪な状況の中で、ミトラはエウロペア大監獄の北の
エイブラハムは先代で父親として龍皇アリアスの
結局、龍皇アリアスは人の哀しみを理解出来ない怪物としてネームドだけでなく、ネームレスをも
だが、トップに君臨することがかえって結束を乱すと自主的に判断してアリアスは兄のエドナに龍皇位を
ネームドとネームレス。
人と人との相克の生み出した地獄絵図は過去周期にあった。
だが、龍皇アリアスの消失が黒髪の冥王と嘆きの聖女をも変えた。
そして自分たちのしてきたことはなんだったのだと思い知った。
そうして《紅蓮剣三閃》や《阿修羅演舞》を封印した冥王と聖女はオーダーを果たした後は、
彼等は変わった。
黒太子レイゴールとして龍虫大戦に参加したことでミトラは確認した。
特に冥王は黒太子レイゴールを
黒髪の冥王ニコラウス・ペールギュントこそ黒太子レイゴールの師に他ならない。
今回は逆の立場になり、ディーンの師がファルケン子爵になったのは歴史の皮肉だ。
黒髪の冥王ヴォイド・ハイランダーとしてアストリアのホーフェン騎士団を率いたのだって、エドナたち特選隊が名を変えた十字軍に呼応して龍虫を南や東に追い払うためだった。
(確かに--は--にとって敵だ。しかし、いつまで
父エイブラハムはネームレス受け入れの為に《砦の男》の旧友として何度となく両者に和解の道を作り、ミトラは剣聖として宿命と
そして、エドナは支えていた弟の龍皇を
だが、それらすべてが名の呪いじゃないかっ。
(父さんも兄さんたちも勝手よっ。勝手に彼等と上手くやっている。私たちだって別に--を
ナウシカの激情にクシャナドはそこまで追い詰められているように感じていたのかと哀しげに背を向けた。
(--とも同盟し、その実情を見てこい。共生社会というのはどちらかが
ラームラント。
ネームドとネームレスの純粋種と混じり合ったハイブリッドたちの自由な国。
ナミブ砂漠のほとりの自由だが豊かではない国が
ラームラントに思う
(本当はお前にもわかっているんだろう?だから、--には手を出さないつもりでいる。お前は自分は--に残ったが--は帰化させた。--の娘、--はお前とは似ても似つかないが、そのこころの在りようがとても似ていたよ。自然に笑みがこぼれてしまった。そして、--には双子の兄--がいる。あの二人こそがお前の魂から生まれた兄妹たちなのだろうさ)
ミューとアポロこそがナウシカの魂を受け継ぐ子供たちだった。
(・・・・・・、やれるだけはやってみる。その上で--に負けることがあるなら--兄さんの言葉に従うわ)
黒髪の冥王と嘆きの聖女に挑んでみせる。
その上で、負けたと痛感したなら彼等と交渉してネームレスの未来を作る。
それから半年が経過していた。
ミトラの言葉がすべて本当の事となっていた。
剣皇ディーンとアリアス・レンセンは
(--は厄介な敵よ。おそらくは--も側にいる)
ナウシカはネームレスコマンダーたちに
氏族から集まった勇者たちはアリアスが敵なのだと聞いてもさして動揺はしていない。
(まぁ、かつての--のように乱暴で無茶な真似はしてこないでしょうな。よくよく考え抜かれた上で、ご自身のケジメをつけようとされる方でした。まぁ、姫様もそうですが--の方たちは皆、性根が真面目でいらっしゃるが、それぞれに信念が強く、誇り高い。つまりは古式に
老練なネームレスコマンダーの参謀はそう断言した。
旗争い。
つまり自分たちに必要なものを先に確保した方が主導権を握る。
ネームドはこの秋の収穫物であり、ネームレスはこの夏に生まれた龍虫の幼体。
(なるほど、ご老はそう思われるか。となると我らの戦い方は樹海にある幼体の保護と
若く
(それこそ--様の仕掛けた罠ですな。--の樹海を
ヒュージノーズを投入して空から戦場を荒らす。
(いや、数が
若い女性のコマンダーに指摘され、ヒュージノーズ投入を提案した中堅のコマンダーが(むぅ)と考え込む。
ご老と呼ばれた老練なコマンダーはアリアスの
いちどは敵として戦ってみたかった相手だ。
(「地上機動戦」が
ナウシカは彼等に頼もしさを感じていた。
自分一人ではこうも具体的に作戦計画を練ることなど出来ない。
なにしろ相手はナウシカに龍虫戦闘の基本を叩き込んだアリアスなのだ。
(それで行きましょう。コマンダーの乗った--を--と共に送り込み、樹海からの退避路を確保して幼体をブリーダーたちに引き渡す。それから先はあの厄介な--と--とを分断して--を
大型龍虫センチピードと機動戦力で空も飛べるローカスト。
それらをあのトンネルからラムダス樹海に接近させて叩きつつ樹海方面に退く。
残存のキルアントたちに幼体の
(あとは読み合いと化かし合いでしょうな。
トレド、バスランでの要塞戦を本格的に行うのに必要な超大型種キングワームを伏兵化しておく。
半年前にミトラが強力個体化したキングワームを倒した際は絶技を使わざるを得なかった。
トレド近郊に
さらにローカストは要塞後方にある
ネームレスコマンダーたちにとっても命令に従順でないローカストは数は多くとも難物であり、勝手気ままに戦われる。
しかし、一度戦場に連れてきたのなら勝手気ままでも良いのだ。
日本式に考えるとローカストは「足軽」に相当し、先行機動部隊として敵地を勝手気ままに
(さて、--様はどう対処されるでしょうかな)
ご老は冷ややかに
女皇歴1188年
トレド要塞
「はー、盤面を逆にしてみたらやっぱりローカストが難題になるのか」
軍師アリアス・レンセン“大尉”はめまぐるしく頭脳を回転させつつ、あの難敵対策に頭を
「フリオの流星剣ならなんとか。それとカオティックブレイドかな。アレはローカスト相手なら使えるんで、紫苑の作った改良型をエリシオンにも装備させたよ」
剣皇ディーンはこうした事に関してはアリアスの手札を供給する役だった。
「自分で使ってみて早速かい。“ペガサス”と“アルテミス”にも装備させるのか?」
迎撃戦での
ちなみにアリアス、ジェラール、フリオ、ミィはそれぞれ一つずつ昇進していた。
なにしろ龍虫の
「フリオはアンカーの扱いには完全に慣れたようだし、ウィップとブレイドについても随時使い方を学習するでしょ。ミィもねぇ・・・アノ女狐に危険な武器をあまり持たせたくないのだけど仕方ない。どっちみち月光菩薩を使ってるときに味方をあまり近づけられないのでねぇ」
前にも指摘した通り、剣皇は軍属として元帥に相当し、女皇正騎士は中将司令と副司令大佐以外は少佐どまりだと決まっていたし、大佐で参加している連中は龍虫戦争時点ではそれ以上の昇進はない。
「あれを
エリシオンに引き
トゥリーの「落とし物」は列車砲部隊を指揮していたトリエル大佐が拾って確保していた。
どうも加速したエリシオンが列車砲を飛び越える際に落としてしまったらしい。
ディーンは難民有志たちにも狙撃銃を与えてみようと考えていた。
「ライザー様が言うとおりで彼等は意外と
実はディーンもアリアスもバスラン駅で勤務している新人職員の「ビオレッタ」と会っていたのに、二人ともその正体がトゥリーだとは気づかなかった。
ディーンは挨拶もされていたというのに、ネームプレートの「ビオレッタ・モスカ」の名前を見ても、「古めかしい名前だけど、良い名前だね」とニッコリ微笑んで
ビオレッタは苦笑しつつ、「ありがとうございます」と頭を下げていた。
嘆きの聖女がかつて名乗っていた事実を知っている黒髪の冥王ディーンですらそんな調子だったので、知らないメリエルとアリアスはまったく気づかなかった。
ルイスはしてやったりだ。
「弾薬制限すれば狙撃銃を出回らせても。弾がないんじゃ悪用出来ないでしょ」
ディーンは法皇ナファドの真相をメリエルから聞き、必要以上に味方を疑うのをやめていた。
それより
密偵としてルーマーの手の者たちはまだ戦線内にいる。
しかし、彼等に情報を送らせていよいよ本格的に始まる《金色の乙女》率いる《虫使い》たちと戦わなければならなかった。
ゼダの紋章 第4幕 知略縦横 永井 文治朗 @dy0524
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