第4幕第3話 紋章騎士ここにあり

女皇歴1188年9月15日5時10分

ラムダス樹海周辺


 早朝から偵察型レジスタリアンで哨戒しょうかいしていたクレメンス少尉の麾下きかにある斥候兵せっこうへいたちは樹海奥から移動を始めた龍虫の大群を確認していた。

「なんて数だ・・・」

 ざっと確認出来ただけでも数千匹。

「ともかくバスランに帰投きとう開始し、途中で無線連絡する。この距離では無線に気づかれたら捕捉ほそくされる」 

 光学迷彩状態のレジスタリアンは進路を変えてバスラン要塞へと引き返しつつ第一報を知らせた。


同日5時30分

バスラン要塞


 斥候兵せっこうへいからの無線連絡を受けたトリエル・メイヨール大佐は要塞全域に緊急警報を鳴らした。

 いつもよりは早い目覚めではあったが近く大規模会戦があると予測済みのバスラン防衛隊の動きは機敏だった。

 ほとんどの騎士たちはまだ寝ていたが、彼等は軍人であり警報で飛び起きるよう訓練されている。

「ライザー義兄にいさんの言っていた過去のナコト写本に記載された時刻通りか。龍虫が大規模作戦を開始する場合はこの季節だと日の出を合図に進発を開始する。夜戦が出来ないアイツらにしてみればそれも当たり前か」

 トリエルは出撃していく味方の騎士たちを見送りながらつぶやく。

 事前にアリアスの指示した迎撃シフトを構築すべく、セダン、ベルレーヌ両大佐とともにファング隊、シュナイゼル隊が先発出撃していく。

「テリー大佐、私も銅騎士団を連れて出撃します」

 すっかりひよっこたちのお守り役が板についたティリンス・オーガスタが軽装甲冑姿でトリエルに敬礼する。

「ティニー、生きて帰れよ。そして一人でも多く連れ帰れ」

「大佐こそ、トゥールさまを頼みます」

 颯爽さっそうと去るティリンスに頼もしさを感じつつトリエルもきびすを返していた。


 同刻。アリアスとジェラールは頭の位置を低くしながらバスラン監視塔で最終的な詰めの打ち合わせをしていた。

「ジェラールはこのあとフリカッセでオーガスタ少佐に合流してくれ。戦場全体の位置としては中央になる。迎撃シフト構築の状況を随時通信して知らせてくれ」

「了解です」

「こちらで行う作戦としては午前6時頃にトリエル大佐、7時頃にトゥール、そして8時頃にメリエルを監視塔から戦況視察させる。問題はいつ誰を狙ってくるかだ」

 僅かに微笑したジェラールはアリアスを試すように問う。

「誰だとお考えです?」

 ジェラールの問いかけに対するアリアスの回答は明瞭めいりょうだった。

「メリエルだ。俺が敵側の司令官、指揮官でもメリエルを狙う」

 ジェラールはそれでアリアスは相変わらず情に流されない冷徹な指揮官なのだと確認し、うなずいた上で語った。

「オイラならアリアス様です。かわりが利かない上に最大級の戦力です。そのつもりで十分に注意なさってください」

 ジェラールが贔屓目ひいきめで言っているのでなく、かつてのようにネームレスコマンダーだったならという前提で言っていることを理解した上でアリアスはうなずいた。

「耀紫苑少佐の新兵器がどの程度機能するかは不明だ。それにの連射能力が高ければブチ抜かれる」

「ご武運をアリアス様」

 うって変わって真剣な眼差しを向け、それだけ言い残すとジェラールは監視塔を降りていった。


同日6時  

バスラン要塞 外縁がいえん


 主戦場での部隊配置は順調に構築されつつある。

 それを確認するためにトリエル・メイヨール大佐がアリアス・レンセン中尉とともに監視塔に姿を見せる。

 ルイス・ラファールはその様子をエリシオンと共に監視塔の下から確認していた。

 ルイスは正面部隊の配置から敢えて外されていた。

 遂にミィとフリオの実戦投入もあるというのに、自分だけ後方でオーダー完了までは大人しくしていろというのにルイスは少しだけ腹を立てていた。

「アイツのあの指示がやけに引っかかるのよね」

 ルイス・ラファールは光学迷彩稼働状態のエリシオンで監視塔から少し離れた位置に陣取っていた。

(ルイス、アリアス様は他になんと?)

 エリシオンの問いかけにルイスは可能な限り思い出す。

「ディーン・エクセイル公爵の言う敵が敵なんだって。そして最大の戦果こそその敵を引きり出して叩くことだと」

(それってハサン曹長を殺したという謎の狙撃兵じゃないですか?スナイパーライフルはこの時代にはまだ存在しない筈です。しかし、技術的には作れなくもない。ルーシアが既に採用していても不思議ではないですね)

「それか。最大射程が1キロメルテだとして監視塔を狙うとすると・・・」

 バスランの城外施設で要塞から突き出す形にある監視塔を見上げて撃てる位置はと調べていったルイスはバスラン駅のホームの屋根に気づいた。

「あの上からなら、それにアレか」

 ホームの屋根の上にプラスニュウム独特の照り返しが確認出来る。

(透過プラスニュウムの転用による反撃防止用の簡易防壁でしょうね。しかし狙撃兵本人が確実に居ると分かる前は手出し出来ません。迂闊うかつに破壊すれば作戦が台無しになるでしょう)

 確かにエリシオンの言うとおりだ。

「こういう時にイーグルアイが使える人がいると便利なのでしょうけれど」

斥候兵せっこうへいとしてほぼ全て出払っていますね。それに実数が把握されている可能性もゼロではないでしょう。あるいはナノ・マシンの活動を鈍らせて有機生命体として存在しないかのように・・・)

 そのとき、ルイスは閃いた。

「それよ。無限加速が出来るのであれば減速操作も出来る。試してみよう」

 ルイスはとは逆の手順で自身とエリシオンのナノ・マシンを減速させていく。

 感覚器官を除く他の部分を構成するナノ・マシンの分子運動を極限まで遅らせる。

 脳と目や耳は通常だが口から下は無機物のようになっている。

(出来たわね。これならイーグルアイでも私たちを視認出来なくなる)

(考えましたね。私も真戦兵としては確認不可能になっています)

 ルイスは実際にやってみて気づいた。

(あたしは内燃使用前提でやって完全に姿を消した。もしこれを外部干渉でやったなら?)

(意図的にやれるならです)

(そうだわね。あるいはアリオンの絶技とはそれなのかもね)


 同刻。傭兵騎士団エルミタージュのトゥリー少佐は透過プラスニュウム防壁の壁越しに、監視塔に立つトリエル・メイヨール大佐とアリアス・レンセン中尉の姿を確認していた。

(狙撃のチャンスは一回。そしてアリアスは既に一度確認している。先代のチィトゥイリさんの敵討ちではあるけれどトリエルは無視しましょう)

 トゥリーはスナイパーライフルを一度ケースに戻した。

 その上でチィトゥイリに思念信号波を送る。 

(監視塔内にアリアスとトリエルを確認。しかし、様子見をする)

 ややあって思念信号波が返ってくる。

(了解だトゥリー。もっと大物が現れる機会を待ちましょう。こちらはまだ接敵前です。交戦状況が苛烈かれつになればもっと大物が監視塔に現れるでしょうし、アリアスの注意もそがれる)

(では、待機する)

 トゥリーはふぅと息をついて防壁の陰に寝そべった。

 ルーシア本国でのネームレスとの戦いでは上空を監視するフライアイの目を逃れるには寝そべっているのが一番安全だった。

 主にストライプスを狙い撃ちするのが下級の少女兵士だったトゥリーの役目だ。

 大物相手。

 つまりヒュージノーズの目を狙い撃ったこともある。

 そうした功績も積み重ねた上でトゥリーは傭兵騎士団に席を得た。

 ネームレスコマンダーの産んだハイブリッドであるチィトゥイリ大佐たちからしたら自分などは成り上がりの下っ端兵士だ。

 狙撃兵として敵に近づけるだけ近づいた上で目標を仕留める。

 エウロペアが平和を謳歌おうかする間もルーシアは純潔ネームレス氏族たちと交戦を繰り返していた。

 まさに恒常的な龍虫戦争はルーシアでは絶えず発生していた。

 そして対外戦部隊である傭兵騎士団エルミタージュが組織された。

 エウロペア各地の地域紛争に出兵しては外貨を獲得する。

 ついでにエウロペアの最新鋭兵器も調達する。

 ことにナカリア、メルヒン、フェリオ各領は氏族間抗争と反政府勢力ゲリラの活動が激しいため、北の傭兵騎士団は氏族長や国王、領主たちに雇われた。

 傭兵騎士団内にリンツ・タイアロットやシュナイゼル、ファルベーラ、オレロスの配備数が多いのも、雇い主から調達したことによる。

 やがては存在がおおやけになり、中原最大の傭兵騎士団と呼ばれるようになった。

 そして、実戦経験豊富なエルミタージュは潤沢じゅんたくな資金により兵器開発面でもエウロペア各国を軽く凌駕りょうがするようになった。

 そうして現在トゥリーの愛用するスナイパーライフルも開発されたのだ。

 女皇国ゼダに本格的に入国したのは二度目の経験だった。

 そして文明的に遙かに発展したゼダを羨望せんぼうした。

 高級軍人であるチィトゥイリたちは敵情視察も兼ねてゼダのファッション誌を購読するようになり、先頃発売されたルイス・ラファールたちの艶姿あですがた嫉妬しっと羨望せんぼうを抱いた。

 女の嫉妬しっとは怖い。

 チィトゥイリは上品にだがむくれ、ヴォースイミは忌ま忌ましいと怒りをあらわにした。

 嫉妬しっとされる程でもないトゥリーはそんなものを見る機会も、自分が男共の目を楽しませることもないと諦めていた。

 下っ端は何処まで頑張ったところで下っ端だ。

 ブレインズに招聘しょうへいされても最下級の扱いかと思いきや、たまたま空いていた3を割り当てられた。

 だが、それだけだ。

 騎士因子はあるが真戦騎士になれるほどの因子もない。

 狙撃兵としての戦功で成り上がったトゥリーは実は組織内ではよく思われていない。

 しかし、エウロペア侵攻作戦では要人暗殺部隊の指揮官を命じられた。

 を撃ったことがトゥリーの運命を大きく変えた。

(あれはだった。私の標的は喪服もふくを着たあの男だった。だのにどういうわけかブレインズが高く評価した)

 自分と同じ年頃の民間人の少女を撃って出世したことは随分悩んだ。

 そして指揮官というより自分が凄腕の狙撃兵として戦場に立つことを希求ききゅうした。

(女の私は女のよろこびなど一生知ることはないだろう。せいぜい若い女の肌に飢えた上官たちのなぐさみ者にされるのが関の山。けれども血と硝煙しょうえんの匂いが染みついた自分になど誰が興味を抱き、誰が優しく愛撫あいぶするという)

 再度、パルムに派遣され総司令官ノーリと邂逅かいこうしたときにアリアスに似たあの若い司令官は自分に興味を示し、過去の出来事について逐一確認した。

 そしてアルマスからバスランへの潜入を命じた。

 縁故えんこ採用された鉄道公社職員になりすまし、特記6号で守秘義務を課せられた鉄道公社の駅案内係としてトゥリーは表向きの職を得た。

 なにも事情を知らない若い同僚たちから食事に誘われたことも一度や二度ではなかった。

 しかし、深入りしすぎることをトゥリーは嫌い、バスランから少し離れた田舎町に暮らす病気の母親の介護をしているのだと嘘を伝えて断った。

 ハサン曹長を撃ち殺した後、駅係員としての表向きの職に従事していてと再会した。

 あまりのことにトゥリーは言葉を失った。

 そして、彼女がと呼ばれ、絶対防衛戦線においてと呼ばれていることに驚愕きょうがくした。

 動揺のあまりトゥリーは乱れた心で狙撃に携わることを躊躇ためらった。

 そして、パルムのドゥヴァには駅係員としての勤務中に目を負傷し、しばらくは任務から外して貰いたいと願い出て了承された。

 狙撃兵が愛銃の次に大事な目を傷つけるなどありえない。

 駅係員としての勤務中は伊達だて眼鏡で保護している。

 辻褄つじつま合わせの為にしばらくは眼鏡の下に眼帯をしていた。

(殺すならあの女だ。今度こそアイツをあの世に送る)

 自身を悩ませた悪夢を取り払うことで狙撃兵としての矜持きょうじを完全に取り戻す。

 気がつけば時計が午前7時を示していた。

 監視塔を再度確認すると今度はトゥドゥール・カロリファルがアリアスと共に戦況視察していた。

 もう間もなく布陣を終えた龍虫部隊の攻撃が開始される。

(おそらくは次の戦況視察でが現れる)

 一流の狙撃兵としての勘と経験とが極上の獲物の出現を予感させていた。

 念のためチィトゥイリに思念信号波を送る。

(監視塔内にトゥドゥールとアリアスを確認。こちらも様子見をする)

 チィトゥイリが戸惑うように思念を送ってくる。

(いや、トゥドゥールなら撃つべきでは?おそらくはこの作戦全体の総司令官ですよ)

 トゥリーははやるチィトゥイリを制した。

(狙撃兵としての勘で、この様子だと8時頃にもっと大物が現れる。布陣展開状況の確認にトリエル、布陣完了と戦闘開始の合図にトゥドゥール。だとすると1時間後に交戦状況の確認にが現れる。それを待つ)

 チィトゥイリは少し考えている様子だった。

(わかった現場のことに関してはお前の判断を採用する)

(武運を。こちらは狙撃後の混乱に乗じて現場から離脱する)

 幸いにしてバスラン駅は早朝から封鎖中であり、鉄道公社の各職員たちには自宅待機命令が出ていた。

 表向きの職務としては非番。

 だが、狙撃兵としてのトゥリーは今が正に正念場だった。


 同刻。トゥリーの観測報告を受けたチィトゥイリ大佐はヴォースイミ大佐と共に龍虫の配置を完了させた上で後詰め部隊の展開状況を見守っていた。

 前衛担当の龍虫たちにバスラン守備隊を叩かせた後に、戦術後退させた龍虫と入れ替える形でをバスラン攻略に向かわせる。

 ルーマー騎士団西風騎士隊。

 要塞内部に侵攻して制圧するのは騎士たちの方が良い。

 彼等は龍虫たちと違い、なにを破壊しなにを接収すべきか分かっている。

 このためにベリア半島内の拠点で待機させていた。

 連中に要塞内には色気づいた女共が居るのだと教えてやったらニヤニヤしながら舌なめずりしているのもいた。

 チィトゥイリは戦意向上のために敢えて指摘し、気の利いた冗談で切り返されることを期待したのだが、自分たちまでそんな目で品定めされているのかと思うと吐き気がするような思いを感じた。

 作戦を立案したドゥヴァ准将のように英邁えいまいで計算高く冷徹なルーシア軍人たちと違い、野卑やひで品性に欠けると西風騎士たちを軽蔑けいべつした。

 ヴォースイミは所詮しょせんは裏切り者の下卑げびた連中なのだと鼻をならしていた。

 1個師団に相当する彼等の使いどころとしては龍虫たちの後詰め部隊というのが適当だった。

 午前7時30分を合図として両軍が本格的に動き出す。

(トゥリーの狙撃で一瞬の混乱が生じた隙に龍虫たちをスタンピードさせる。展開中の守備隊は龍虫のスタンピードを見るのは初見しょけんになるでしょう。そして、力を使い果たした龍虫を退かせ、西風隊を戦闘正面へ。かつての仲間たちの姿を見た連中の混乱ぶりは想像に難くないですわね)

 そうして少しは西風騎士たちも痛い目に遭えばいい。

 チィトゥイリは残忍な笑みを浮かべ、自分たちの作戦成功について少しも疑いをも持たなかった。


同日7時30分

バスラン要塞監視塔

    

『全軍迎撃態勢。くるぞっ!』

 トゥドゥールの開始合図により第一次バスラン迎撃防衛戦は始まった。

 迎撃部隊に先行している上空の飛行戦艦マッキャオとバルハラ、レッセル・ミード、チムール各艦から絨毯じゅうたん爆撃が行われる。

 それでトランプルの突進攻撃の進路を少しでもズタズタにし、突撃速度を遅らせる。

『破壊王接敵。これより切り崩す』

 魚鱗陣形の中央に突出したティリンス・オーガスタ少佐のスカーレット・ダーイン改破壊王は、メイスというには大きすぎる巨大な両手持ち金棒を振り回してトランプルを瞬く間に数体をほふった。

『さすがはオーガスタ教官っ。ナカリア銅騎士団、教官を孤立させるなっ!セダン大佐の右翼隊、ベルレーヌ大佐の左翼隊前進して突撃をいなせっ!』

 無線機を通じて発せられたアリアスの威勢の良い指示にセダンとベルレーヌは奮い立った。

『あいよっ、軍師殿』

『心得たっ!』

 光学迷彩コンシールを解いたファング隊とシュナイゼル隊は魚鱗陣形を横並びに配置替えさせる。

 大規模な乱戦では光学迷彩は伏兵部隊しかまともに機能しない。

 跳ね上がった泥にまみれたなら迷彩などないのと一緒になる。

 むしろ自然迷彩となりかえって悪目立ちしなくなる。

「回収用機動列車発車準備っ!先行突撃した戦闘正面部隊は一当てしたら両翼列車に逃げ込め。要塞後退後に機体洗浄だ」

 中央部隊と左翼隊、右翼隊は突撃後に要塞外方向両端に待つ機動列車方向へと即座に退却していく。

 その様子にヴォースイミは怪訝けげんな表情をしていたが、意図に気づいて戦慄せんりつする。

「なんだありゃ、先行部隊が散開して即座に退却開始だとっ。しまった新手の後続部隊が後ろから次々突撃するという連続突撃かっ!」

 一方、龍虫部隊は切り崩されたトランプル隊が前で壁となり、後続のマンティス隊が浮き足立っている。

 防衛隊の第二波突撃部隊は新型機のポルト・ムンザ隊とフリカッセ隊だった。

『オイラに続けっ!戦闘正面は浮き足立っている。トランプルの残存部隊とマンティス隊を切り崩すぞ』

 ジェラールの合図でフリカッセ隊が前進を止めた龍虫部隊の前面に食らいつく。

 即座にポルト・ムンザ隊が散開して残敵の掃討そうとうを開始する。

「ハウリングワームで砲戦なんかしようものなら無傷の前衛部隊にも深刻な損害が生じてしまう。トゥリーからの合図まだか?」

 間もなく戦闘開始から30分が経過し、8時になろうかという頃合いだった。

 打撃部隊であるマンティス隊の損害が少ないうちに一気にスタンピードさせてしまいたい。

(メリエル発見。これより狙撃態勢に入る)

 トゥリーの予測は正しかった。

 現場判断を任せて良かったとチィトゥイリはニヤっと笑んで即座に命じる。

(即時狙撃実行せよっ!)

 トゥリーが間に合ったことに安堵あんどしたチィトゥイリはヴォースイミの担当する右翼側の状況確認した。

(なんなんです。長距離射程の榴弾砲りゅうだんほうですって)

 トリエル・メイヨール大佐の指揮する一般兵たちの列車砲部隊が龍虫部隊右翼陣地側を標的に榴弾砲りゅうだんほうを連続発射していた。

 頭上から雨あられのように降り注ぐ榴弾砲りゅうだんほうにヴォースイミの指揮するハウリングワーム隊に大きな損害が生じていた。

「ハウリングワームが砲戦で負けるだと!?」

 ヴォースイミは想定外の戦法に泡を食った。

 チィトゥイリとヴォースイミに指揮される龍虫たちの動揺はそれ以上に大きかった。


 同刻。

(メリエルっ、やはり8時に現れたなっ)

 トゥリーはスナイパーライフルで監視塔に立ったメリエルを照準していた。

(今度こそその命貰ったっ!)

 指先に力を込めて弾丸を発射する。

 ライフル弾が真っ直ぐに監視塔に立つメルエルに向かって飛ぶ。

 だが監視塔の窓ガラスに弾かれた。

「どういうことだっ?」


 アリアスはメリエルに擬態ぎたいしたマリアン・ラムジーを少し下がらせた。

 メリエル本人はトゥールと共に要塞内部の作戦司令所から後退してきた部隊の騎士たちを慰労いろうしていた。

「紫苑ちゃんナイスだっ。多層式透過プラスニュウム製の窓ガラスは一発じゃ貫通しない。それに目は良いが正確に見分けがついていないことも分かった」

 アリアスは自身の読みが当たったことに微笑し、マリアンは思わずホッとした表情を見せている。

「軍師殿の読みと紫苑の発明に命拾いした」

 1時間置きに現れていたトリエル、トゥール、メリエルはすべてマリアンの擬態ぎたい変装だった。

 射程1キロメルテではナノ・マシンによる擬態ぎたいを正確に見破れないというアリアスの読みと、紫苑がフリカッセ製作で採用していた新型の対打撃重視型多層式プラスニュウム。

 つまりは狙撃も打撃であるので多層式の透過プラスニュウムだと初弾は弾かれる。

 それこそ連射されたならいずれはブチ抜かれるが、シングルアクションのライフルだと次弾発射までに数秒かかる。


 トゥリーは照準器から目を離すことなく次弾を装填そうてんした。

「こうなったらアリアスだけでも仕留める」

 トゥリーの集中が監視塔側に割かれていることを確認したエリシオンが背後に回り込んでいた。

(なんだっ、なにが起きた?)

 スナイパーライフルを抱えたトゥリーの体をエリシオンの左手が捕らえていた。

「さてと任務オーダー完了。あとはコイツを」

 ルイスはエリシオンを無限加速させていく。

 真戦兵の左手につかみ取られたトゥリーは青白く発光していくエリシオンに恐怖していた。

「なにをする気だっ、おい、やめろ」

(ルイス、いけます)

 エリシオンの合図でルイスはフットペダルを限界まで踏み込んだ。

 神速で発進したあおきエリシオンは燐光りんこうを放ちつつ、バスラン駅の屋根を一部吹き飛ばして加速を続けた。

 跳躍ちょうやくしてトリエルの指揮する列車榴弾砲を飛び越えると、そのままバスランの前を横切り戦場の中央へと進み出た。

『紋章騎士ここにありっ!女皇陛下を狙った卑劣ひれつな狙撃兵を捕らえたぞっ!』

 無線装置を備えた各機はルイスの怒声に一瞬だけ度肝どぎもを抜かれた。

 あおきエリシオンはトゥリーを片手にしたまま右手に構えた短槍を振り回しつつ、乱戦の続く戦場の中央へと神速で突進していく。

(やめて、殺さないでぇ!!!!)

 恐怖のあまり悲鳴をあげるトゥリーにエリシオンがささやきかける。

(ルイスは殺しはしませんよ。貴方に相応の罰を与えるだけです)

 トゥリーは神速で駆け抜けるエリシオンに捕らえられ、跳ね飛ばされた龍虫にぶつかり、大小便を垂れ流し傷だらけになりながらも死なないことに驚愕きょうがくしていた。

 着ていた服はボロボロに千切れる。

 全身を痛みが駆け抜け、悲鳴にならない悲鳴をあげ続ける。

 トゥリーはまさに一匹の嘆きの怪物バンシーとなっていた。

(許してぇ、お願い許してぇ・・・)

 トゥリーが生命の危機に追い込まれたことがその思念信号波を増幅させていく。

 それが戦闘中の全龍虫に伝播でんぱしていった。

 ただでさえ恐慌状態の龍虫たちは嘆きの怪物の嘆きに我を失っていく。

『ネームレスコマンダーを連れてこなかったことを後悔なさいっ。あたしはアリョーネ女皇陛下の紋章騎士で《嘆きの聖女》ルイス・ラファールっ!戦闘可能な全真戦兵に告ぐ、我に続けぇ!』

 あおきエリシオンの凄まじい迫力とトゥリーの嘆きの信号波に龍虫たちはおびえ、すくみ、思考停止に陥った。

 エリシオンの神速に追いつけないまでもバスラン防衛隊の真戦兵たちが雪崩なだれのように襲いかかってくる。

 そして、龍虫たちはスタンピードした。

 一刻も早くエリシオンの側から離れなければ殺される。

 あの哀れな少女兵のようにこころを破壊されてしまう。

 怖い、怖い、怖い・・・。

 その狂奔きょうほんは戦闘の後方に展開していたルーマー騎士団西風隊をみ込んでいった。

 戦場からの離脱を図るべくスタンピードした龍虫たちが西風隊のシュナイゼルを人形のように弾き飛ばしていく。

 なにが起きたのかさっぱり理解出来ないまま、一個師団相当のルーマー騎士団西風隊はなにも出来ずに味方である筈の龍虫たちに蹂躙じゅうりんされていった。


 超高速で引きずり回され、愛銃を失ったトゥリーはそれでも生きていた。

 加速活性化したナノ・マシンの奔流ほんりゅうがトゥリーを優しく包み込んでいた。

(もう十分になげいた?)

 エリシオンの問いかけにトゥリーはコクンとうなづく。

「あなたへの罰はまだ続く。生きなさい。普通の女として。生きられなかった者たちの分まであなたは生きるの」

 服を失い生まれたままの姿になっていたトゥリーは操縦席から顔をのぞかせたルイス・ラファールに驚愕きょうがくしていた。

 ルイスは白いマントを放ってトゥリーに裸身を隠すように示した。

「貴方はナノ・マシンにより作り替えられた。蒼きエリシオンの秘密。それは破壊と暴力であると同時に循環じゅんかんによって生じる再生と癒やし」

 トゥリーは今まで感じたことのない開放感を感じていた。

 ルーシアの末端兵として生きてきた自分が何処にも居なくなっていた。

 狙撃兵の矜持きょうじもない。

 そして、龍虫たちさえ恐慌のどん底に叩き落とした破壊と暴力の果てをその目で見てしまった。

 もう戦士には戻れない。

「なぜ普通の女として生きることが罰なのですか?」

 樹海の方角を遠く見る紋章布で束ねたルイスの金髪が風に揺れていた。

 トゥリーは彼女の気高さと美しさを素直に受け入れた。

「それは最も困難で最も苦しいことだからよ。恥辱ちじょく悦楽えつらくの果てに男に犯され、想像を絶する痛みに耐えて母親になり、この苦しい時代にあって愛する我が子を育てていくことはとても大変なことなの。そして私はまだ貴方のようにはなれない。けれど、いずれなるわ。私は自分にされて苦しかった仕打ちを誰かに課したりはしない」

 彼方を見ていたルイスは突然トゥリーに向き直った。

 哀しげな視線に射貫かれてトゥリーはルイスから目を離せなかった。

「自分がボロボロに破壊されていく悪夢。あれも私の魂がかつて体験してきたことなの。冤罪えんざい煉獄れんごくに焼かれてこの体が朽ちていく。龍虫たちの嘆きの声が恐怖の叫びが聞こえていたでしょう?あれも私にはずっと聞こえていた。なにより私には普通の女として生きていくことが許されなかった。だから、当たり前に生きて当たり前に死んでいくという罰を貴方に与える。けれど、それは罰であり救い。エリシオンを通じて貴方の中にある本当の願いがよく分かった。ルーシアに生まれ、ゼダに死す。けれども貴方の物語はつむがれ続ける。生ある限り延々と続く贖罪しょくざい。それは貴方が奪ってきた命に対する重い責任よ」

 トゥリーは恥じ入るように自分のその手を見た。

 血まみれ泥まみれではなく水浴を終えたばかりのように汚れのない自分の手。

「その手で人を愛し、その手で我が子を抱き、やがて貴方を愛する誰かにその手を取られてきなさい。それがこの美しく残酷ざんこくなるセカイの真理よ」

 トゥリーは顔を上げてルイスをしっかりと見、そして思いのたけをぶつけた。

「ずっとそうしたかった。そういう当たり前の存在として生まれたかった。けれど、物心つくときには既に銃を握っていた」

 ルイスはそっと微笑んだ。

「そうね。私も何度となく騎士として生まれ、多くをあやめてきた。だから罰を与えると言いながら、貴方に希望を託しているのかも知れない。私の愛する夫はあの先に居る。《黒髪の冥王》と呼ばれ、剣皇ディーンと呼ばれ、そして人の多くにとっては残酷で冷酷なる破壊者。それは私も同じよ」

 トゥリーは思わずかぶりを振った。

「違います。あなたは勇敢で気高き戦士であり、本物の聖女。エルミタージュの中にもあなたみたいな人は居なかった。私が子供の頃から尊敬していた《嘆きの聖女》であるビオレッタ・モスカ。慈悲深きエカテリーナ・エルミタージュと共に戦った伝説の戦士・・・」

 ルイスは驚愕きょうがくの表情を浮かべていた。

「そうだというの?」

 トゥリーはニッコリと笑った。

「はい。まさに」

 ルイスは少し考えて決断した。

「なら、貴方の新しい人生を祝してビオレッタ・モスカの名前をあげる。私のかつての名であるその名と共に普通の女として生きて。そうすれば女として満たされなかったビオレッタも浮かばれる。貴方のトゥリーという名は記号でしかなかった。けれど、この先はビオレッタ・モスカとして貴方だけの物語をつむいで。これは私からのお願いよ」

 トゥリーは顔をくしゃくしゃにしていた。

「ビオレッタ・モスカ。それが私の新しい名前なんだ・・・」

 ルイスは人差し指を口許につけ、悪戯いたずらっぽく笑った。

「私たち二人だけの秘密ね。鉄道公社バスラン駅の案内係であるビオレッタ・モスカさん」

 名を得た途端にトゥリーの容姿が少しだけ変わった。

 ハイブリッドだった彼女はハイブリッドとしての能力を喪失し、新たなエウロペア・ネームドの女性ビオレッタに変わったのだ。

 ルイスはふところからコンパクトを取り出してビオレッタに自分の姿を見せた。

「これが新しい私?」

 少しだけ驚くトゥリーにルイスは微笑んだ。

「誰にも気づかれないわ。たとえそれがメリエルであったとしてもね。トゥリーは死んだ。その代わりが貴方。ゼダ鉄道公社総裁のラクロアさんにかけあえる人に心当たりがあるの。だから、貴方は新規採用の公社職員ビオレッタ・モスカ」

 ルイスがなにを伝えようとしているかトゥリーは理解した。

「分かりましたお任せします。ルイス・ラファールきょう」 

 こうしてトゥリーは行方不明となり、ルイスからの依頼を受けたライザーがラクロア・サンサース総裁を通じ、トゥリーにかわる鉄道公社職員として新人のビオレッタ・モスカを追認した。

 不幸にして第一次バスラン要塞迎撃戦に巻き込まれてしまったトゥリーは亡くなったとされたが、本人の想像以上にモテた彼女の死をいたむ鉄道公社職員たちは多かったが、かわりに配属されたビオレッタはもっとモテた。

 ビオレッタはトゥリーだったときに最初に食事に誘ってくれた同僚男性からの求愛をいれ、彼と婚約し女皇戦争後に結婚して家庭に入った。

 ルーシアに知られた伝説の狙撃手トゥリーの物語はそれで終わる。

 しかし、ビオレッタ・モスカの物語はその後も続くのだった。


 あおきエリシオンによる戦場中央への神速での突撃により、恐慌状態となった龍虫部隊はスタンピードしての全速離脱を敢行し、エルミタージュブレインズのチィトゥイリとヴォースイミはなにが起きたかを理解するだけの猶予ゆうよすらなく、反転突撃してきた龍虫たちに押し潰されてむごたらしく死んだとされた。

 さらには後方に展開していたルーマー騎士団西風隊の一個師団は戦闘に加わることなく、味方である筈の龍虫たちのスタンピードにより弾き飛ばされたり押し潰されたりと惨憺さんたんたる状況に陥った。

 そうした圧倒的な潰走かいそうとなった戦況をラムダス樹海付近の丘陵地で確認していた元西風騎士団のザオル・ヒュンメル少将は正に顔色を喪失そうしつしていた。

 しかし、悪夢はそれで終わらなかった。

 スタンピードにより力尽きた龍虫たちが停止状態となったところに追い打ちをかける部隊が出現したのだ。

「あれはフレアールだと・・・」

 ラムダス樹海を抜けて出現した絶対防衛戦線のトレド要塞隊。

 その先頭は《純白のフレアール》だった。

 純白のフレアールの先行突撃に呼応するように、すかさず指揮官ミシェル・ファンフリート大佐が専用機グレイ・カル・ハーンでノートス隊を指揮して駆逐くちく戦を開始した。

 アローラ・スタームのスカーレット・ダーインがほぼ力を使い果たしている龍虫たちを軽やかな動きで鮮やかに仕留めていく。

 既にバスラン攻略部隊の龍虫たちはスタンピードした後遺症で擱座かくざ状態に近く、まさに刈り取られるだけの一方的な殺戮さつりく戦となった。

「こちらの戦力が圧倒的だった。投入した龍虫は数千匹。それに加えて我が一個師団が後詰めだった。それが潰走かいそうした上にここで討たれるのか?」

 ザオルは上空に展開中の飛空戦艦隊に撤退を知らせる信号弾を打ち上げようとして目を疑った。

「なんだあれは?」

 イアン・フューリーのブラムド・リンクが樹海側に回り込んで退路を断っていた。

 しかし、あの艦には空対空砲などない。

 そんな事実はチィトゥイリから作戦計画を託される段階で知らされていた。

 かわりに備えていたのが・・・。

『絶技っ、《流星剣》っ!』

 フリオニール・ラーセンのポルト・ムンザハイ♂機がグライダー能力で滑空かっくうし、ルーマー騎士団から供与された西風隊の飛空戦艦を見たこともない飛び道具で次々と襲っている。

 船体に打ち込まれた無数のナノ・ブレードにより、推進機関部までズタズタにされた旗艦アマルガンが火の手をあげて墜落していく。

『このアンカーワイヤーってなかなか使い勝手がいいね。高度が落ちたら近場の飛空戦艦にぶら下がってまた高度が稼ぎ出せる』

 フリオニールは高度計を横目に、ポルト・ムンザハイの性能確認しつつ、次の獲物に狙いを定めている。

『おい、フリオ。こっちは艦隊戦じゃ丸腰同然で攻撃面ではお前一人が頼みなんだ。そこんとこ踏まえて、あんまりブラムドから離れるんじゃない』

 ゼダの無線周波数で軽妙なやりとりがなされ、リンツ・タイアロットに似た外観の新型機体がまた一隻を餌食えじきにしていた。

『へーいっ、イアン提督。ってミィ、俺まで巻き込む気か!?』

 ミィ・リッテのポルト・ムンザハイ♀機が上空に向けてなにかしている。

『くらえっ《月光菩薩》っ!』

 見慣れない真戦兵の直上にいた飛空戦艦が左右真っ二つに引き裂かれて轟沈ごうちんする。

『ミィ、そのくらいにしてくれっ。空中を空間断裂すると乱気流が発生して操艦が難しくなる』

 イアンのぼやきに「ちぇっ」と舌打ちしたミィは地上目標に狙いを切り替える。

『ほんじゃ、ラスト一隻はもーらいっと』

 《陽炎》で空中に出現した虹のフレアールがカオティックアンカーで飛空戦艦の船体にぶら下がるや、胴体部分に《勿忘草・極》をぶつける。

 飛空戦艦の竜骨りゅうこつ部分が抜き出されてたちまちにひしゃげて落ちていく。

(我々の飛空戦艦隊12隻がズタズタにされ、あっという間に壊滅かいめつしただと!?バケモノどもが)

『なにが栄光のシュナイゼルだ。裏切り者っ!』

 フリオニールは公明たちが修理するのを考慮してシュナイゼルの操縦席部分を《魔弾》でブチ抜く。

『どうせ食べられないしミンチにしてもいいよね』

 地上支援要員たちが空間断裂で原形を留めない程にバラバラに引き裂かれる。

『カオティックウィップっ!ゴミどもを蹴散けちらせっ』

 シュナイゼルの中隊がたった一機の虹のフレアールに引き裂かれる。

 フレアールに似た新型機が中距離近接兵器をふるうたびに味方機が次々と擱座かくざしていく。

 今朝の段階ではではなかった筈だ。

 龍虫につぶされたベルレーヌの小僧を尻目にバスラン要塞を略奪してあの若く瑞々みずみずしい女共を捕らえて存分に犯して殺し、備蓄品を分捕ってセビリアに凱旋がいせんする。

 その逆をやられて西風隊はあたかも獣か物であるかのように乱暴に踏み拉かれて潰されていく。

 それ以下かも知れない。

 バケモノどもにまるでゴミのように扱われ、自分たちが元はなんだったかよく分からなくなっていた。

 龍虫戦争などと息巻いてむしどもと戦うよりはゼダの中枢を蹂躙じゅうりんするというルーマー騎士団の誘いに乗った。

 信仰を奪われた怒りは本当にあったのだろうか?

 ふと顔を上げると最後の一隻を叩き落とし、シュナイゼル隊を蹂躙じゅうりんした真新しい真戦兵の横に、黒い軽装甲冑の若い眼鏡の男が抜刀してこちらをにらんでいる。

 剣皇ディーン・フェイルズ・スターム。

 彼方で戦う純白のフレアールに搭乗とうじょうしていなかったのかと生き残った部下たちから驚きの声が上がる。

「武装解除に応じろ。お前たちを生かしたのは慈悲ではない。語り合うつもりも、情報を吐かせるためでもない。この戦いのけじめはつけてもらうぞっ!」

 下唇を噛みうつむいた部下たちにはこの男に挑みかかる気力さえ失っていた。

「申し出に応じよう。寛大な措置そちを期待する」

 ザオル・ヒュンメルの絞り出すような言葉に、剣皇ディーンは一瞬だけ怒りの表情を浮かべた。

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