最悪の目覚め

 目が覚めた。


 長い――百万と何百万のループよりも長い間、眠っていたような気がする。だからだろうか。


 僕の体はスマホを確認しようとも、布団の中を確認しようともしなかった。


 そもそも、布団の中で目覚めたわけではないというのもある。


 しかし、上栫さんの温もりという部分では、布団以上のものがあるかもしれない。


 血肉にまみれた赤い部屋。血肉にまみれた温い体。


 タイムマシンには繋がれたまま。


 最悪の目覚めだった。


「悔しいわ」

「……いたのか」


 部屋が喋ったと思ったら、木次が……


「素矢子」

「…………」


 素矢子がいた。保護色になっていて、気がつかなかった。


「…………」

「……何だよ」

「何が悔しいのか、聞いてくれないのね」

「それは上栫さんだけにやってるサービスだよ」

「はぁ……祷君が復活しているのが悔しい。何で平気な顔して喋ってるのよ。絶対無理だと思ったのに」


 素矢子は大仰に肩をすくめて、酷く残念そうに言った。余程、僕と話したくなかったんだろう。


「思い出したんだ」

「……何を?」

「約束」


 上栫さんが諦めない限り、僕も諦めない。


 彼女が後悔と向き合うことを諦めないのなら、僕もこの後悔から逃げない。


「愛の力って奴ね。でも、無意味よ。上栫さんは『呪い』としてその辺にいるかもしれないけれど、何もできない。また幼女の体を借りたとしても、もう彼女の存在はイレギュラーじゃない。対応できる。面倒なのは、あなたを後悔させる手段がないことね。まぁ、ぐちぐち上栫さんのことを言っていれば、すぐに壊れるでしょう。あなた、弱いから。最悪、ループで上栫さんを生き返らせて、もう一回殺すのも――」

「素矢子、まずさ」


 彼女にペースを握らせてはいけない。無理やりにでも、こちらがペースを握らなければいけない。


 以前よりも心は安定しているが、僕が圧倒的に不利な状況にいることには変わりない。


 とにかく、流れをぶった切るような一言を放つ。


「風呂に入ろうよ」

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