約束

『何だ、祷に内緒の話とは』

『いえ、そんなに大したことではないんですが……』

『何でもいいが、早くしろ』

『ああ、すみません……やっぱり、わたしじゃダメなんですよ』

『?』

『この通り、ループのことを話されても、わたしは時間を大切にできないんです。理解したつもりでも、それはやっぱり想像でしかなくて……わたしには、本当の意味で因果君のことを解ってあげられない。だから、多分ですけど、因果君はすぐにわたしに打ち明けることを止めたと思うんですよね』

『…………』

『彼を支えてあげられるのはあなただけだし、あなたを支えられるのも彼だけ――だから、上栫さん、お願いします。どうか、因果君のことを助けてあげてくださいね』


 それができるのは、あなただけだから。


 世界すらも救ってみせる彼女は、一人の後輩を救えなかった。


 後悔しないから世界を救える彼女は、後悔しないから一人の後輩を救えなかった。


 彼女にとって、祷がそれほど大事な存在だったかといえば、別にそうではない。彼女が祷を気にかけるのは、彼女が祷を助けられていないからであって、大切だからではない。


 祷因果は降旗明星に恋をしていたかもしれないが、降旗明星は祷因果をただの助ける人としか認識していない。


 祷に構うのは、祷を助けられていないからだ。


 こうも長ったらしく、祷が片思いであったことを語っているのは、決して降旗明星が脈なしだと自分に言い聞かせているわけではない。


 私は託されたのだ。


 彼女の当たり前を。


 恋心なんて一切介入していない、まだ助けることができていないだけの男を。


 世界すら助けてしまえる女の、助けられない。


 やめてくれと思った。


 勘違いしないでくれと言いたかった。


 別に、私が祷を支える義理はないし、祷も私を必要としてない。私たちはあくまでやるべきことをやるだけだと。


 ……言えるわけがなかった。


 私は小突かれただけでも倒れてしまいそうで、祷はすでに倒れていて、私は無理やり彼を起こして、寄りかかった。


 倒れかけの私たちが支え合うのは必然だ。


 惹かれ合うのは必然だ。


 だから私は、


『ああ、任せろ』


 そう言った。


 どうせ私は祷を好きになる。ならば、自ずと彼女との約束は果たすことになる。


 なんて楽観的だろうか。


 私はいつだって、失敗した後に気づく。

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