最初の一手は……
木次素矢子は宇宙情報体という、超常的な存在のバックアップがあったからこそ、世界を変えられた。
別にあんな目に遭わされたから、腹いせに彼女を貶しているわけではない。
負け惜しみではない。
彼女が尋常ならざる忍耐力を持っているのは確かだ。祷が言うところの『並行世界ガチャ』は、私のしらみつぶしなんかよりも途方もない作業だし、彼女の出自を鑑みれば、生きている時点で、彼女の心が並外れているとわかる。
それに、彼女が宇宙情報体に選ばれたのは、後悔の才能があったからだ。
ただ、彼女にどれだけ忍耐力があろうとも、後悔しようとも、真顔で人を細切れにできる残虐さがあろうとも、それはあくまで人間の延長でしかない。
彼女に時を遡る力を与えたのは、宇宙情報体なのだ。
何が言いたいかというと、私に世界を変える手立てがあるのかどうか、ということだ。
最終目標はわかる。
時間の概念の確立。
だが、ここに至るまでの手法がさっぱりだ。
インターネットに時間の概念を発信するという手も考えてみたが、この世界は些か、時間がなくなって久しい。この世界の人間はもう、時間を認識できない生物として完成されているだろうし、今更、一人が時間論を提唱しても、妄言の類として一蹴されるだけだ。
頭の悪さを後悔する。
ただ、後悔しても頭が良くなるわけじゃない。
だから私が知る限り一番、頭の回る人間を訪ねることにした。
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