目覚め

 目が覚めた。


 永い間、目覚めの景色は同じだったので、何だか新鮮だ。感動すら覚える。


 体を起こして辺りを見渡してみると、見慣れない部屋にいた。

 六枚の畳の上に敷布団が一つ、私はそこで寝ている。タンスに本棚――中身は動物の育て方関係のものが多い――と、家具から見るに、寝室のようだ。


 布団から抜け出す。

 昔はよく布団の中で出るか出まいか葛藤したものだが、あの布団の温もりを知ってしまったら、これくらいはすんなりと抜け出せる。


 私を止めたければ、祷を用意するんだな。

 あいつは暖かいんだ。何度眠気に負けそうになったか。


 さて、とりあえずこの家を散策してみるか。


 寝室らしき部屋から出ると、居間らしき部屋に出た。古風な掘りごたつとブラウン管テレビが置いてある。


 ……ん? ブラウン管テレビ?


 時間の概念がない影響なのだろうか? 電源をつけてみるが、俗に言う砂嵐状態だ。残念。この世界のテレビ番組を見てみたかったのだが。


 どうやらこの家が、地デジ化に対応していないだけらしい――言っていて思ったが、この文言、私が生きていた時代ではもはや死語だったぞ? 動画サイトの発達により、テレビを買わない人も増えている、みたいな話題すらあったのだが、この家庭は随分前にテレビ離れを実施したようだ。


 これも時間がない影響だろうか。


 次に入った部屋は台所だった。備え付けのガスコンロ、換気扇、ともに掃除の跡は見られるが、それでも落としきれない年季を感じる。


 他には大量のドッグフード、キャットフードが目立つ。


 ……約束だ。後でエサやりに行かないと。


 他には客間が三つほど。中々広い平屋のようだ。


 ひとまずここまで来て、気になった――というより、納得した点は二つ。


 一、カレンダーがない。


 二、時計がない。


 ブラウン管テレビが導入されている家だ、どんなものがあって、どんなものがなくてもおかしくはないが、多分そういうことだろう。


 祷だったら、時間がないという前提と組み合わて、結論を出すだろうが、私は違う。


 私は足で稼ぐ、古いタイプだ。


 私の名前は上栫速歌。


 速やかに、じっくりと、しらみつぶしていこう。

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