悪夢の始まり
目が覚めた瞬間、僕の体はスマホで日付を確認しようとする――はずだったのだが、最近は布団の中を確認することが習慣になっていた。
あれだけ辞めたいと思っていた習慣が、こんなにも簡単に上書きされてしまったのは、さすが上栫さんと言うべきか、はたまた僕が彼女を意識し過ぎているのか。
「あれ?」
しかし今回、いつも隣に丸まっている眠そうな少女の姿はなかった。
確かに、起きた瞬間に違和感はあった。
まず、外が妙に明るかった。多分、六時過ぎだ。
そして、布団の中が冷たかった。いつも隣にあるはずの、蕩けるような熱源がない。布団の中が冷たいなんて、妙な話だ。上栫さんと会う前にはそんなこと、一度も感じたことはないのに。
しかし、どうしたのだろう? 前回の作戦会議で、降旗先輩の父親を次のターゲットに定めたのだが、早朝から単独調査をするといった旨の話はしていなかった。
記憶力の貧弱さに定評のある僕だが、さすがに前の二月三日のことくらいは覚えている。
そうだ、スマホ――捜査時の連携を取るために、連絡先を聞いていたのだ。
スマホを起動、ロック画面に映ったのは六時二十四分。連絡はない。時間という概念がゲシュタルト崩壊しそうなループの中、体内時計が完璧なのが不思議だ。
電話してみるか? しかし、何か潜入任務のようなものの最中だったら悪いか? いや、そうだったら電源を切るか。
上栫さんの番号を入力、発信してみる。
この電話番号は現在使われておりません……といった音声が流れた。上栫さんを彷彿とさせる抑揚のなさではあるが、上栫さんが可愛らしい悪戯を仕掛けているわけではないだろう。
彼女が戯言めいたことを言うのは経験上、僕を弄るときだけである。
…………。
…………。
あれ? これってどういうことだ?
どうして、この電話番号は使われていません、なんだ?
電源を切っているのなら、只今電話に出ることはできません、と流れるべきだ。
電話番号を打ち間違えただろうか。
もう一度かけてみる。
が、またもこの電話番号は……と流れた。
「…………………………………………………………………………」
「おきろー! おにーちゃーん!」
「……起きてるよ」
真っ白になっていた思考に、妹の声が突き抜けた。
「こわいゆめ、みたの?」
真っ白になっていたのは思考だけではなかったようで、妹はそう言って首を傾げた。
「いや――」
多分、これから始まる。
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