作戦会議
目が覚めた瞬間、僕の体はスマホで日付を確認しようとする――はずなのだが、やめたくてもやめられないルーティーンを取るはずなのだが、染みついた習慣に打ち勝ってしまうような異物感が、布団の中に在った。
といっても、それは決して不快なものではない。
隣に僕以外の熱源がある。すでに熱源と僕の体温は布団の中で混ざり合って、体の境界線が曖昧だ。
とても心地いい。
百万と数百万の日々の中で――覚えている限り――ここまでの快楽は感じたことがない。顔に当たる冷気とのギャップも温かさを増長させているのかもしれないが、それにしても異常だ。
逆に目が覚めてしまうほどだ。
寝ぼけ眼を擦って、布団の中を覗いてみるが、暗くてよく見えない。
「やっと起きたな。さぁ、作戦会議だ」
「…………」
「寝るな」
「いや、寝てるわけじゃなくて」
目が覚めるどころか、意識が飛んでしまうかと思った。
確かに、アニメ鑑賞会が長引いてしまったせいで行えなかった、今後の活動方針の話し合いのため、最速で来るつもりだとは言っていたが。
「上栫さん、何で僕の布団の中にいるの?」
「二時過ぎに到着して起こそうとしたんだが、何をしても起きなかった」
布団の中の上栫さんが不服そうに言った。
そんなに眠りが深いのか、僕。
「しばらくは我慢できたんだが、さすがに寒いな」
「上栫さん、空からパラシュートで降りてきたんでしょ? 防寒着は?」
「パラシュートと共に国の犬が回収したよ」
「何で脱いだの……?」
「ジャージが私の理論上最速装備だからな」
その結果、寝ている他人の布団に潜り込むことになっているわけで、本当に彼女は後先を考えない。
「ならストーブ使ってくれてよかったのに……」
「焼け石に水だ。窓が開いている」
「え?」
言われてみると、いくら何でも室内が寒すぎるような気がする。慣れてきた目で部屋の窓を確認してみると、鍵の近くに、手が入るくらいの穴が開いていた。
「窓は叩いたんだ。で、起きなかったから、穴を開けた。安心してくれ、日が昇る前には直るよ。腕のいい暗部を借りた。両親に捕まって時間をロスしてはたまらないからな」
「えっと……うん、ありがとう」
アフターケアも万全なら、文句はない。
「じゃあ、早速始めよう」
「このまま?」
「ああ。何か問題が?」
「いや」
僕は性欲が枯れているから、女子と同じ布団にいても平気だ。むしろ彼女に気を遣ったのだが、彼女がいいならいい。
うん、大丈夫。
「じゃあ、始めるぞ。知り合いに主人公はいるか?」
「主人公?」
そう言われて、真っ先に隣にいる彼女の顔が浮かんだ。
「主人公――まぁ、才能に満ちた人、とでも言えばいいか。何の特徴もない人間よりは、時間遡行を起こす確率は高いだろう?」
まぁ、理にはかなっている。結果が出ていないだけで。
「で、いるのか?」
知り合いに主人公はいるか?
そんな質問をされて、『います』と答えられる人間はどれだけいるのだろう?
ちなみに僕は答えられる。
「うん、いる。二人」
「アポイントは取れるか?」
「取れるけど、取らなくても朝にはどっちかには会えると思う。三回に一回くらいは巻き込まれるから」
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