時間遡行認識者対談?

 今回の二月三日は曇天だった。現在、午前九時ではあるが辺りは薄暗く、空気が重く感じる。今にも雪が落ちてきそうだ。


 場所は変わって、町内の公園。町民の憩いの場――ではない。屋根の付いたベンチがあるだけの、子供からは敬遠される、かと言って老人たちが集まるわけでもない、物悲しい公園だ。


 ひとまず、この人気皆無な公園で、上栫さんと情報を共有することにした。


 ちなみに学校はサボタージュである。


「人気のない場所をたくさん知っているんだな」


 上栫さんは無表情ながら、煽るように言った。


「単純に人口が少ないだけ――だと思う」


 まぁ、本当は昔、ぼっちポイントを探し回った成果なのだが。


 このループで他人と関わり続けることは、精神をやすりにかけるのと同じだ。本当に危ないときに一人になれる場所を確保していなければ、僕はもう少し早く諦めていただろう。


 さぁ、屋根付きのベンチに腰かけて、いざ開始――


「と言いたいところなんだけど」

「何だ?」

「寒くないの?」


 さすがにジャージだけでは辛いはずだ。平然としているようだが、頬や細い指も赤みがかっている。


 家を出る前に思い至らなかったのは申しわけないが、このまま対談を開始することはできない。


「ああ、確かに――しゅん! 寒いな……」

「今気づいたの?」

「さっきまでは温かかった」


 そりゃあ、室内にいたんだから当たり前だ。


 天然なんだろうか?


「言いわけさせてもらうと、こうして腰を据えて、誰かと会話することなんて久しい。私は基本動き回っているからな、いつもはむしろ熱いくらいだ」


 共感できないので、今回はしょうがないなんて言ってあげられないが、このまま鼻水をすすらせるわけにもいかない。


 ということで、僕の上着を貸すことにする。


 僕は寝間着にしているスウェット姿になるが、ジャージよりは生地が厚いはずだ。


 最悪、家に戻るというのもありなのだが、彼女がそんな二度手間を許してくれないことくらい、ここまでの付き合いでもわかる。


「いや、いい」


 僕の差し出した上着は、無惨にも突き返された。これだけ生きていても、お節介を断られたときの羞恥は耐え難い。


 しかし、一体どうするつもりなのか。このまま強行する、というのはせっかちを通り越して、ただの無謀だ。


 さすがに止めざるを得ない。


「動きながら話せばいい。珍しく都合がいいことに、ここは公園だ」


 上栫さんはジャージを脱いで、黒で無地の半袖になった。


 上着がないなら、動けばいいじゃない、か。まぁ、理には適っている……のか?


「いや、でも半袖になる必要はないんじゃ……」

「行くぞ、祷」


 上栫さんは置いていくぞと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべた。


 初めて彼女が僕に対して見せてくれた、真顔以外の表情に面食らいつつも、突き返され居場所を失っていた上着をベンチに置く。


 時間遡行認識者ジョギング対談の始まりだ。

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