第22話 これからのために 3

 この国は、年中夏の気候だ。


 とはいえ、気温はヴェルダンディに比べてやや高いものの、湿度が極めて低いため過ごしやすい。

 帝国軍の軍服を着ていてもさほど嫌悪感は無かった。


 ジークハルトがあてがわれた執務室で窓を開けて仕事をしていると、レオンの副官が来訪した。


「ワーグナー准将。ラインクラウゼ中将より、報告書をお渡しするよう言付かって参りました」


「ありがとうございます」


 渡された黒のバインダーの厚みはそれなりにある。


 乗客全員分の報告書がまとまっているのだから当たり前だが、それとは別に封筒が挟まっているのを目の端に捉えた。


 副官を下がらせてから、慎重に封筒を取り出して中を改める。


 封筒に入っていたのは、セシルの身辺調査の報告書四枚であった。


 彼が、本当は何者なのか。なぜジークハルトにあのようなことを告げたのか。今回のハイジャック事件に直接の関わりはないとしても、彼は今回のテロ予告も含めて、事件の中心にいるような気がしてならないのだ。


『セシル・アデルハイト・フォン・ミュンヒハウゼン

 年齢:二十七歳

 ミュンヒハウゼン侯爵の養子に来る前の経歴はほとんどデータが残っておらず。

 ヴェルダンディ郊外の孤児院に「セシル」という名前の孤児がいたことを確認。写真も合致しており、本人である可能性が極めて高い。』


「……孤児」


 その経歴にジークハルトは既視感を覚えていた。


 ツェツィーリアも孤児だと言った。ヴェルダンディの郊外にある孤児院の出身であると。

 顔や名前以外にも、こうして経歴まで似ているとなると、やはり別人と捉えるには無理がある。


 ミュンヒハウゼン侯爵の元に来てからのセシルは、侯爵の名前を隠れ蓑にして商人として様々な国を転々としているらしい。扱っているのは、日用品から武器まで様々だ。


 近日でヴェルダンディへの渡航歴無し。表面上の犯罪歴無し。補足として、誰かの手書きで「商売として身体を売っていたという事実は無し。だが、こちらの見立てでは一〇〇%本人で間違いないだろう。」とあった。


 この字は見覚えがある。

 ニコニコと、何かを企んでいそうな笑みを湛えた親友が容易く脳裏に浮かんだ。レオンもいやな人物に捜査を依頼したものだと、ジークハルトにしては珍しく重い溜め息が出てしまった。この調子では、向こう十年は言われ続けるだろうと確信をもって言える。


 カサ、と報告書に混じってもう一枚の紙が出てきた。


「……ん? 五枚目?」


 調査報告書は、計四枚あるはずだった。別の報告書が混じってしまったのか、とめくってみる。


「……これは……」


 最後に出てきた紙は、帝国軍謹製のものではなかった。


 見知った顔が、見知らぬ軍服を着て、こちらを睨み付けているかのような表情の写真が添えられている。知らない人間の手書き文字で「これは、あなただけに教えます」というメッセージが端に書かれた、その紙。


「嘘だ……そんな……」


 ジークハルトは、そこまで他言語に明るくはない。だがこの字面は、今見てはならない言語だというのだけははっきりと分かった。


『セシル・アイゼンハワー 

 階級:大佐

 年齢:二十七歳

 デリング共和国軍情報部所属


 彼の任務は、ジークハルト・ワーグナーを監視し、本国へ仔細報告すること。


 これは、あなただけに教えます。あなたなら最良の判断をしてくれると、わたしたちは信じています。』


 *****


 暑い。


 プールのそばとはいえ、照りつく太陽の光は容赦なくセシルを襲う。


 パラソルの下、タンクトップの上に麻の半袖シャツを羽織り、ハーフパンツにサンダルという非常にラフな格好をしていても暑い。

 ビーチチェアに行儀悪くあぐらをかいて座ったまま、セシルはタブレット端末を睨んでいた。耳に嵌めたイヤホンマイクからは、部下からの報告が変わるがわる入ってきて忙しない。


 そこに、甘やかな栗毛の女性が、際どい水着姿で駆け寄ってきた。手にはビニールボールを抱えている。


「セーシルっ! さっきからなにと睨めっこしてるの?」


「うるせぇな。仕事だ、仕事」


 シッシと追い払うように手を振るが、女性は気にせずセシルの前に仁王立ちした。


「もう! せっかくこんな素敵なホテルに泊まれてるのに、セシルは仕事仕事仕事……水着にもならないし。はーあ、つまんない」


「つまるつまらないじゃねぇよ、リズ。しょうがねぇだろうが。別件の仕事が溜まってんだよ。っつーか、テメェも遊んでないで仕事しろ」


 彼女も、デリング共和国軍の軍人だった。階級は大尉。同じ情報部に所属し、普段はこの国ヴィーザルの辺境地で潜入調査任務にあたっている。


「私は良いのよ。まだ時間じゃないもーん」


 リズは、揶揄うように舌を出した。だがそれすら見られていないと分かると、今度は頬を膨らました。


「ねぇ、セシル。今回のお仕事、別にあなたのチームまで来なくてもよかったのよ?」


「あ? 何が言いたい」


 タブレット端末から顔を上げると、リズは眉を顰めたまま声を落としセシルの耳に唇を寄せた。柔らかな彼女の胸がセシルの腕に押しつけられる。


「あなたに関して言えば、あの赤毛の軍人さんのことよ」


「……ああ」


「事前に資料渡してたから、てっきり来ないもんだと思ってたのに……わざわざお爺さまに連絡までしちゃってさ。案の定本人に見つかって、仲良くおしゃべりなんかしちゃって。どうしたの? そんな生き急ぐ必要あった?」


「別に。お前らだけじゃ不安しかなかったからな。わざわざ、危険を顧みずに来てやったんだから、有難いと思え」


 言葉を切りに切って大袈裟に言うと、リズは「はぁ?!あんたにそんなこと言われたくないわよ!」と耳元で大声を出してきた。


 鼓膜にダメージが入る前に避けながら、セシルは負けじと怒った顔を作る。


「だー! 耳元でデケェ声出すんじゃねぇ! 話が聞こえねぇだろうが!」


「そんなピアスで穴だらけの耳で何を聞こうっていうの?」


「ンだと!?」


「なによ!」


「ミュンヒハウゼン様」


 危うく喧嘩が勃発しそうになったところで、静かな第三者の声が割り込む。

 振り仰ぐと、ホテルのスタッフの男性が静かに立っていて、セシルはそっと端末の電源を落とした。


「なんだぁ?」


「ミュンヒハウゼン様にお会いしたいという方が来られました」


「あ? 客?」


 スタッフが静かに首肯して、手でプールとホテルを繋ぐ出入り口を指し示す。そちらを見ると、帝国軍の軍服が二人分。


 リズから刺さるような視線を浴びながらも、セシルはへらりと笑った。


「わかった。ありがとう。リズ、チップ渡しとけ」


「はぁ?! あ、ちょっと、セシル!」


 リズからの追撃が来る前に、踊るようにプールサイドを歩く。チラリと見えた赤毛と、その下の迷いのある瞳に、セシルは笑みを濃く浮かべた。


 迷っている。


 誰から、何を吹き込まれたのか分からないが、ともかく、向こうからの殺意が感じられない時点で、まだまだ彼も甘ちゃんであるということだ。ダニエルも見通しが甘い。


「ケビン」


 イヤホンの向こうにいる部下に呼びかける。ケビンは答えて、「実は」と言い出した。


「どうやら昨日、あなたの"本性"をバラした人物がいるようです」


「はー……なるほどな。誰のせいだと思う?」


「お言葉ですが、オレじゃありませんからね、あれ」


 その真偽はあとで聞けばいいことだ。通信は繋げたまま、セシルはそれに返事をせずに歩を進める。


「よぉ、ワーグナー。なんか用かぁ?」


 出入り口にいたのは、ジークハルトと、彼の副官。それから、柱の影に立っていたのはレオンとその副官という、厳つい面々が揃い踏みであった。


 思わず「うへぇ……」と嫌そうな声が出てしまうのは仕方ない状況だった。暗い表情のジークハルトはともかく、その他からの圧が凄まじい。


「揃いも揃って、図体だけデカいゴリラばっかり集めやがって。移動動物園御一行様が、俺にいったいなんの用だ? ハイジャック事件の調書はもう取り終わったんじゃねぇのか」


「ええ、もうそれは結構です。実は、あのハイジャックとは別にテロ予告が来ていまして」


 ジークハルトの副官(たしか名前はミーミルと言ったか)が、ジークハルトに代わって答えた。

 はて、と首を傾げたところで、耳元のイヤホンからケビンの「ターゲットが我々と丸かぶりの民間軍がいるんですよ」と補足が入る。


「へぇ、そりゃあ大変だなぁ。で、俺になんの用だ?」


「……テロ予告には合わせて殺害予告がありました。そこに名前のあった方を、軍で保護することになりました。場所も移動してもらいます」


「今から?」


「ええ。急なお願いで、申し訳ないのですが」


 ようやく声を発したジークハルトからは、いつもの覇気が感じられない。何を意気消沈しているのやら、と危うく立場を忘れて声をかけてしまうところであった。危ない危ない。


 耳元からは、ケビンの他にダニエルからも通信が割り込んできて、「まぁ、隊長一人抜けたところで問題はないでしょう。きっとあいつらが全部やってくれますよ」と投げやりに言ってくる。

 リズも通話に割り込んできて「だから言ったのにぃ」や「セシルの単細胞粗チンおまぬけさん」などと好き勝手なことを言ってくるので、彼女に関してはのちほどカプサイシンの刑に処そうと決めた。


「……今からって言ってもな。荷物をまとめる時間くらいはくれるんだろ?」


「ええ、それはもちろん」


「緊急事態でもあります。我々がお部屋までご同行させていただきます」


 レオンの副官の声に、合点がいった。ケビンからも、あーあと呆れたような声が聞こえて来る。


「はー、なるほどな。お前ら、いったい俺の"何"を見た? え? 勝手に俺の身体の奥深くを覗くだなんて、帝国軍の奴らはとんだどすけべ集団だな」


「………いえ、我々は特には何も。強いて言うなら、あなたがミュンヒハウゼン侯爵に隠れて武器商人として、ここヴィーザル、果ては敵国デリングにまで出入りしている、ということくらいでしょうか」


 レオンのつまらない"答え"に、セシルは口角を上げた。


 それでいい。


 帝国軍の情報網など、その程度なのである。

 武器商人としてのセシルに気づいてくれたなら、それは願ったりだ。


「ふぅん。なら、俺の監視も兼ねてるってわけか。おいおい、前も言ったが、俺をあんなちんけなピヨピヨたちと一緒にすんじゃねぇよ。俺は、テロなんつーガキ臭いことには加担しない主義だ」


「それはこちらが判断することです」


「隊長、堪えてください」


 長年バディを組むケビンの静止が即座に入り、セシルはひとつだけ静かに深呼吸した。


「……しゃーねぇなあ。そんなに俺をクロにしてぇなら勝手にそうしろ。とりあえず、場所の移動か? めんどくせぇな」


「申し訳ありません。お手間は取らせませんので」


「おう、そうしろそうしろ。ただ、俺はともかく、爺さんを宥める方に注力しとけよ、軍人さん」


「は、」


「うちの爺さんは極度の軍人嫌いなんだ」


「えぇ、それは存じております」


 切っておくべきカードは、大盤振る舞いで切っておくべきだ。セシルはニタニタと笑いながら、タブレット端末を操作して一つのアプリを立ち上げてレオンの前に突き出した。


「それは……?」


「今回の仕事先に軍人が近くにいるって言ったら、爺さんが珍しくお冠でよぉ。俺の端末にGPSアプリなんつーめんどくせぇシロモンをつけやがったんだ。俺が一昼夜軍基地にいるだなんて知ったら、どんなめんどくさいクレーム入れてくるか分かったモンじゃない。まっ、せいぜい爺さんの鬼のようなクレーム対応頑張れよぉ」


 じゃあ、そういうことで。


 そう笑ったセシルを見て、レオンはひくりと口角をひくつかせた。いい気味だ。

 耳元から三者三様の反応があるが、気にしていられない。指を差して爆笑してやらなかっただけ、許されるべきである。


 *****


 セシルの部屋は、ホテルの上階にあるスイートルームだった。ダブルツインルームと呼ばれる、ベッドルームが二部屋あるような部屋で、ちょうど掃除が終わった直後のようで散らかった様子はない。

 部屋付きだという、ホテルの制服を着た人間が二人常駐しており、セシルが荷物のパッキングが必要だというとすぐに動いてくれた。


 セシルの後ろからゾロゾロとやってきたジークハルトたちにスタッフは目を丸くしたものの、特に何か言われることもない。


「そこから動くなよ」


 ジークハルトたちをリビングルームに置いて、セシルはぴしゃりとそう告げる。

 セシルは一番奥のベッドルームに引っ込んで、荷物の整理と着替えをするという。


 セシルは、ツェツィーリアであって、叛乱軍の人間である。

 なんだか夢を見ているようだ。


「部屋に怪しいものは見当たりません」


「そうですか。わかりました」


 セシルの目を盗んで簡単に部屋を見て回ったミーミルからの報告に、ジークハルトは気を引き締めて小さく頷いた。

 もう一つあるベッドルームは誰も使っていないようで、他人の気配もない。セシルの消えたベッドルームを見やると、セシルはラフな格好からジャケット姿に変わっていて、クローゼットから服を出しながら誰かと電話をしていた。


「あの電話は誰と?」


「はっ。会話の様子から、ミュンヒハウゼン侯爵と思われます」


 ミーミルの報告に、横でレオンが苦い顔をしている。これから降りかかる災難からの電話なのだから、分からないでもない。


「えー……いつ帰れるかなぁ……うん、はいはい。大丈夫だって。うん、心配しないで」


 先ほどまでの乱雑な言葉遣いとは打って変わって、ジークハルトにとっては聞き馴染みのある口調である。ただ、電話を切った途端今度は仕事の電話が入ったようで、また彼の口調は雑になった。裏表が激しいだなんて表現では足りない。


「はあ? できない? おいおい、ふざけんなよお前。何のためにテメェに頼んだと……あ゛? それがテメェになんか関係あんのか」


 なかなか、話は難航しているようだ。


 スマートフォンで話している割に、耳に嵌めたイヤホンは外さないらしい。イヤホンマイクの電源は入りっぱなしで、時折チラチラと会話と関係ないタイミングで水色の光からオレンジの光へ変わるところを見ると、あのイヤホンも誰かと繋がっていそうだった。


「あのイヤホンは……?」


「電波を辿ってみてはいますが、いろいろなサーバを経由しているらしく、発信源を特定するのは難しいとの報告があります」


「……そうですか」


 アプロディーテーで会った時も、あのイヤホンは常に誰かと通話中の状態であった。

 右耳だけに嵌めて、髪で隠している。彼の、本当の"仲間"と連絡を取り合っているのだろう。


「ワーグナー准将。基地に入る際に、あのイヤホンを没収しますか?」


「その方がいいでしょう。それと、武器の携行がないかどうかも、確認してください」


「はっ」


 そうこうしているうちにセシルの準備は整っていて、キャリーケースが二つと肩掛けの小さなボストンバッグに収まっていた。小さなボストンバッグはセシル自身が持ち、その他の荷物はホテルスタッフがさっさと持っていく。


 エントランスに降りて広い車寄せに行くまで、セシルはどこか楽しそうであった。口角を軽く上げて、今にもスキップしそうな勢いだ。


「あらっ! シシー!」


「あ?」


 そんな時、ちょうどジークハルトたちが乗る予定だった地上車の後ろについた車から、一人の女性が躍り出てきた。美しい亜麻色の髪に丁寧にコテを当て、非常に派手な顔立ちをした妙齢の美女だ。豊満な胸を大胆に見せるようなデザインのサマードレスを着たその女性は、ジークハルトたちには目もくれずにセシルに飛びつく。


「シシー! 久しぶりぃ! 元気だった?」


「ああ、そういうあんたも元気そうだな」


 クルクルとセシルに抱きついたまま一回転した女性は、セシルの髪にキスをした。高いヒールを履いているせいか、セシルよりも少し背が高い。


「私は元気よ! これから主人とバカンスなの。彼は明日到着するんだけど……って、あら、あなたどこか行っちゃうの?」


「まぁな。ちょっと厄介ごとに巻き込まれて、地獄みてぇな場所に連れて行かれるところ」


 チラッと、セシルがこちらを見た。気まずいことこの上ない。


「あらぁ、残念だわぁ。うちの主人も、あなたがいるって聞いたらきっと喜んだでしょうに」


「失礼。そろそろ、移動しないといけませんので」


 セシルから離れる様子のない女性にしびれを切らしたミーミルが静止に入ると、女性は分かりやすく不貞腐れてみせ、そのまま「残念だわぁ」とまた呟いてセシルの頬を両手で包んだ。


「それじゃあね、シシー。可愛いわたしたちの天使。また主人のお相手をしてあげて頂戴」


「ああ。その時はぜひまたご一緒に」


 そう言って、女性はセシルの唇に甘くキスを落とした。驚いたのはジークハルトたちだけで、セシルは女性の腰を軽く支えて自然にそれを受け入れる。

 二度三度と口づけを交わした後、女性はまた踊るようにホテルのエントランスへ向かっていく。それを見送って、セシルは何事もなかったように軍が用意した地上車に乗り込んだ。


 護衛を兼ねて、ジークハルトとミーミルも同乗する。下士官の運転で発車してからしばらくして、セシルの隣に座ったミーミルが、やや困惑した表情で問いかけた。


「ミュンヒハウゼン閣下、先ほどの女性は……?」


「あー。あの人は俺の昔からの知り合い。お前らが想像するような仲じゃねぇよ」


 それはそれで問題である。


 それ以上のことは言いたくないようで、セシルは脚を組んで窓の外を眺めている。

 彼の目の前の席に座ったジークハルトは、その横顔から目が離せなかった。

 それに窓越しに気づいたセシルが、クスリと笑う。


「なに、ワーグナー。俺のこと見過ぎ」


「いや……」


 紛れ込んでいたあの紙は、本当なのだろうか。

 セシルが、ツェツィーリアが、叛乱軍の人間だというのは、本当なのか。

 それよりも、あの紙にあった「ジークハルトの監視」とは、本当なのか。


『ヴェルト』


 脳裏で、ツェツィーリアが嬉しそうに笑って名を呼んでくる。

 ジークハルトの背に回ったツェツィーリアの手は、あの時見せた涙は、嘘なのか。


「………」


 あの告発に似た差し込み資料を見て、きっとジークハルトのやるべきことはひとつだ。


 腰に差した銃で、彼を撃つ。


 それが最良だ。


 敵国の人間と分かっているなら、やらなければならない。


 グッと静かに膝に置いた拳を握りしめる。

 その判断を下すにはあまりにも、"彼"はジークハルトの心に侵食しすぎていた。

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