第33話噛み合わない歯車(水希と有栖)

(水希視点)

私があの電車事故にあった後の話には龍星くんたちには言っていない続きがあった……。


私は目が覚めて、自分を取り巻く状況を把握すると、ベッドの中でたくさんの機会や管に繋がれた一人の男性の姿を眺めていた。


最初は、龍星くんのベッドに近づくことを彼のご家族からもすごく怪訝された。

だが、毎日毎日通っていたからだろうか、1ヶ月が過ぎる頃には、そういった感じはなくなり、龍星くんのご両親とは少しだけお話することもあった。


ここからは、彼にも秘密にしていることなのだが…………

私は彼が守ってくれたおかげもあり、比較的に大きな怪我を負うこともなく、日常に戻ることもそう難しいものでもなかった。


ただ、あの事故は相当大きな規模なものだったこともあってテレビや新聞といったマスコミが大々的に取り上げるには十分すぎるものだった。


その結果、学校へ行く時も道行く人々からの好奇の目を向けられ、学校内でも知らない人から事情を聞かれたり、はたまた良くも分からない噂を流されたり、などと外は以前の普通とは比べ物にならないほど私の心を蝕む空間に成り果てていた。


そんな感じで、私の周りの環境が目まぐるしく変わる中、最も変化したのは親友の有栖だった。

彼女は、どこの噂を真に受けたのか、龍星くんが私を突き飛ばした挙げ句、罪の意識から自作自演のように、私を助けた、などと私に説明してきた。


「ーーーーだったのよ。だから、水希が悪く思うことなんてひとつもないの。

全部全部あの自作自演をした馬鹿な男のせいで、水希は苦しめられているのよ。」


この時の彼女の言葉や表情は私の脳裏に印象的に残っている。


「…………何を言って……いるの?」

その時の私は、彼女のことを『怖い』と初めて感じた。


「だから、何回も言ってるでしょ?

全部、水希を助けたとか言われているあの男が仕組んだことなんだよ?

だからね、水希が毎日お見舞いに行ったり、バカみたいな奴らの誹謗中傷なんて気にしなくていいのよ。」


実際、私は一部のメディアでは不注意でホームから落ちたのに、見ず知らずの男性を身代わりにして、その挙句、彼の親族に対し一切気にせず日常生活を送っているなどと言われている。


「それこそ、何度も言っているでしょ。

あの報道も間違いじゃないって。実際、後ろから押された形でも私の不注意であったことも、彼が重症を負って、私が軽傷だったことも紛れもなく事実だって。


それについて、何を言われても私には言い返す資格なんてないわ。」


「……だから、それはその男が全部……」

有栖は最後までその言葉を言い切ることは無かった。

代わりに、私たち以外誰もいない教室内を乾いた音が鳴ったと同時に彼女の頬が赤く染まる。

「……いい加減にしてよ。

そんなでたらめな噂を誰が言ったのか知らないけど、私があの時電車のホームから落ちたせいで彼や彼の家族、友人、たくさんの人に私は取り返しのつかない大きな傷を残したの。それでも、私は少しでも償うために、私ができることをやっていくって決めたの。」


「………………なにそれ。

それって結局ただの自己満足でしかないじゃない!!

なにが、少しでも償うために、よ!

ただ、自分が自分を許されようと思ってるだけじゃない!」


有栖の目にはこぼれ落ちるほどの涙が浮かべられ、頬は赤く染まり、ただただ感情を思ったことをそのまま言い放つかのように言ったようだった。


「ーーー」

そんなに彼女の言葉に私は何も言い返すことが出来なかった。

いや、ずっと自分でもどこかわかっていたのだ。これから私がやろうと思っていることはどこまでも自己満足の償いであることが。


それが、どうやっても彼らへの償いになることなんてないことを。


結局、それが私と有栖の最後の会話だった。

有栖は教室を出ていく際にまるで私の心を確信的に貫くように、言い放った。


「あんたみたいな偽善者なんて、みんなから恨まれて死ね!

あんたみたいな奴と親友と思ってたことがこんなに恥ずかしいことだったなんねて。

せいぜい、その自己満足の償いを頑張ってね、偽善者さん。」


そこからの記憶はあまりはっきりとは覚えていない。確かなのはその次の日から高校を行くのをやめて、龍星くんのお見舞いに当てる時間を最大限に増やしたことだけだった。



ーーーーーー


私は昔のことを、有栖のことを思い出していると、気づけばベッドの枕元は涙で濡れていた。


(なんで……今になってこんなことを思い出してしまったのだろう…………。


龍星くんや紗理奈ちゃんたちとこれからどうやって接していけば………………。)


私の頭の中に、有栖からの言葉が何度も何度も思い浮かべられる。


そうして、どうすればいいかと悩みつつも、とりあえずベッドから身体を起こし、リビングに行く。

両親とも仕事に出ているようで、家の中には私しかいない。

コーヒーでも飲もうと思い、キッチンに向かおうとすると…………インターホンが鳴る。


誰だろう……と思いインターホンを覗くと




『紗理奈ちゃん』が顔を覗かせていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いかがでしたか?


今回はちょっと暗めの話です。

もっと詳しいお話もあるのですが、また別の機会に取っておくことにしました。


以前、読者様から質問で…………


こんな大きな事故なのに、ニュースにもならないなんておかしくないですか?みたいな感じの質問を貰ったのですが…………。


そこら辺もしっかりと考えていますのでご安心を。


まあまあ話が重めになっているのですが、結末は書く前に作者自身考えていまして、それに進んでいくためにはこの過程が絶対必要!!だと思い入れていますのでご理解の程よろしくお願いします!



面白い!続きが気になる!っと思ってくれた方はフォロー、応援、☆☆☆などなどよろしくお願いします!!!


では、また次回お楽しみに!




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