第29話ふれあいフェスタ 2日目
なんとか1日目を乗り越えた俺たちは、2日目の朝を迎えた。
「さて、今日も頑張りますか!」
と、朝一番海周の元気な声が響く。
それにつられるように
「そうだな!」
「頑張りましょう!」
「1日乗り切ろう!」
と、俺、紗理奈、水希の3人が言う。
ただ1人を除いて…………。
海周の隣に立っていた星奈がどこか不安そうな表情を浮かべていた。
それに気づいた海周が
「星奈、どうかしたのか?」
と言うと星奈は、あっ!と驚きなんでもないと首を横に振るのだった……。
「それなら……いいんだけど……。」
と海周も深く言及しないことにしたらしい。
どこか不安が残る中でも、気づけばふれあいフェスタ2日目がスタートする。
お客さんは1日目と同じかそれ以上多い人数が訪れて、昨日よりも忙しくしていた。
「紗理奈ちゃん!こっちの注文お願いできる?」
「わかった! 海周くんはそっちの焼きそばそろそろできる頃だから、パック詰めお願いね!」
「おう!任せろ! 龍星、そっちのお客さんの会計頼むわ!」
「了解。そっちもよろしくな、木村さん。」
「えつ!?……ゎ、わかったわよ!」
次から次に来るお客さんの注文を5人で手分けしながらこなしていく。
俺がこんな身体なので、調理の方ではなくお会計などの方を主にこなしていった。
星奈は焼きそばを、海周はサイドメニューをそれぞれメインに調理して、それを紗理奈と水希がフォローしていく形だ。
海周の方は、屋台の経験があるらしく2人の手助けがなくても効率よく注文を捌いているのだが…………、
お客さんが増えていくタイミングでどうしても焼きそばの方が注文に間に合わなくなってしまい、途中で水希が
「星奈ちゃん、後は代わるからそっちお願いしてもいいかな?」
と、交代を告げる。
それを聞いて、星奈も悔しそうな顔をしつつも、「……わかった」
と言って、紗理奈の手伝いに回ることになったのだった…………。
〇〇〇
今日の分として仕込みした食材全て売り切れてしまったので……昨日より少し早いが片付けに入ることにした…………。
「いやー、まさか昨日よりお客さんが多いとは思わなかったなー。」
と、海周が言うので、俺も頷きつつ
「そうだな。ここまで来るとはさすがに想像してなかった。」
「そうだねー、私もいっぱいいっぱいで大変だったよー。」
と紗理菜が言うと、水希も
「うんうん、私も途中テンパってしまってどうしようかと思ったよ…………。」
「…………………………うそつき。」
お店の後方であと片付けをする星奈が小さな声だけど、確かにはっきりとそう言う声が聞こえた。
「……えっ?」
水希もどういうことか分からず思わずそう言ってしまう。
「…………私が作るの遅くて、お客さんたちがイライラしてるのを分かって途中から焼きそば作るの水希ちゃんが代わったじゃん。」
星奈は鼻をすするりながらそう言う。
「…………それは、」
水希もそれ以上言えずに、唇を噛み締めてしまう。
確かに、途中頃からお客さんの中に注文したのに遅いと、苛立つ人が何人かいた。
それを見て、水希が気を利かせたのは紛れなもない事実に違いなかった。
「……でも、星奈ちゃんは料理するのもあまり慣れていなかったし仕方ないよ。」
と、紗理奈がすかさずフォローするが、
「……そうならないためにできることをこれまでずっとやってきたの!!
でも、いざやってみると全然上手くいかなくて、みんなが私のせいで余計な心配かけてると思うと苦しくて……、なのに水希は苦もなないようにこなしてて………………、ダメだね、私。今、すっごい嫌な奴だ。
ごめん、今日は帰るね。」
と言って、屋台の裏から星奈が走り出ていった。
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(星奈視点)
私は、みんなが見えなくなるくらいまで走り続けた。
(何やってるんだろう、私。
みんなに迷惑かけたのは自分なのに……1人で勝手に怒って……バカだよ。
ほんとはわかってるんだ。
私がお客さんから文句を言われないように、水希がさりげなく代わってくれたことも、紗理奈ちゃんがずっと周りを見てサポートに徹してくれたことも、龍星くんが自分の出来ることだけでもって言って、会計を1人で回してくれたことも…………あいつだって……)
そんなことを考えながら、誰もいない道をとぼとぼ歩いていると、
「ちょっと待てよ、星奈!」
小さい頃から傍で聞いてきた馴染みの声が私の後ろから聞こえる。
「なんで……追いかけてきたの……。」
彼は私に追いつくと、肩で息をしながらこちらに顔を向けると
「追いかけて当然だろ、急に飛び出していっちまうんだから。」
「でも……、私のせいで……みんなに迷惑かけて……、なのにあんなこと…………言っちゃったし」
気づけば、私の目からは止めどない涙が零れ落ちてきた。
海周は、何も言わずに静かに私を包み込むと、
「ここには俺とお前だけだ。…………俺の前では好きなだけ泣いていいから。」
優しい声でそう言う。
どれくらい経っただろう。
海周の服の肩部分が私の涙でベチョベチョになるくらい私は泣き続けた。
「ごめんね……、私があんなこと言ったから……」
泣き止んだ私は、最初にその言葉が口から出た。
海周は、私の頭を撫でながら
「今更何言ってんだよ。星奈が誰より負けず嫌いなのはよく知ってるからな……。」
「…………どうせ、私は負けず嫌いの意地っ張りですよーだ。」
海周の言葉に私はついつい意地になってしまう。
(ほんと、こういう素直になれないところが自分でも嫌だと思う。
私がもっと素直になれたなら、きっとすぐ海周に私の気持ちを伝えれるのに…………)
すると、海周はそんな私も見て笑みを浮かべながら
「あはは、全くもってそうだと思うわ。」
私は、もういい、と彼の腕を振りほどこうとすると、一層抱きしめる力が強まり
「…………でもな、お前の傍でずっと見てたからこそ、星奈が今回のイベントのためにどれだけ頑張ったのか俺は知ってる。
それは、アイツらもそうだと思うけどな。
だから、俺たちの中に星奈を責めようなんて思ってる奴は誰一人いねえーよ。」
そう言いながら、クシャッと私の髪を乱暴に、それでもどこか優しく撫でる。
「……わたし、みんなに嫌われてないのかな…………」
そう言うと、彼は
「何馬鹿なこと言ってんだ。むしろ星奈が急に飛び出していくから、みんな心配してたよ。でも、俺が1人で行かせてくれって言ってここまで来たんだ。」
「…………私のために…………?」
「……他に誰のためがあるんだよ。」
「……なんでよ…………、いつもあんなに文句ばっか言ってるのに…………。私の料理いつも不味いって言うくせに……。」
「不味いものは不味いって言うのは当たり前だ。でも、星奈が作ってくれた物は俺は1度だって残したことはないぞ。」
「……」
お互いに顔は見えてなかったけど、2人とも顔を真っ赤にしていたのはなんとなくでもわかった気がした。
「みんなには、このまま帰らせてもらうって連絡したから帰るぞ。
明日の朝、みんなに謝ればいいよ。」
「…………うん。明日ちゃんとみんなに謝るから……。」
そう言って、私たちは2人で帰路に着くのだった。
お互いの手を絡ませながら…………。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いかがでしたか?
少し更新するのが遅くなってしまいました…………。
本当は昨日のうちにあげようと思っていたのですが……仕事が忙しく今日になってしまいました。頑張って毎日投稿したいと思ってるんですけどね……。
今回は、星奈と海周がメインでの物語でした。作者的には水希と龍星の次に推したいカップルとして書かせていただいています。
面白い!続きが気になる!と思ってくれた方は応援、コメント、☆☆☆などなどよろしくお願いします。
では次回お楽しみに!!
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