Ⅴ 追われる罪(2)
「ハァッ…!」
「ったく、身内が殺されたってのになんて言いぐさだ……って、俺も
同類相争うっていうやつか……俺も身内との骨肉の争いを思い出しつつ、周囲を駆け回る騎兵の連続で放ってくる矢を、再び短槍を振り回して次々に叩き落とす。
「ヘン! お返しだぁ!」
そして、次の矢を番えるまでの隙を突き、脇を走り抜け、背後を見せた騎兵めがけて短槍を思いっきり放り投げた。
俺は、確実に仕留めたと思った……。
「……なっ!?」
だが、野郎、避けやがった……俺の投げた槍は、少し離れた地面に鋭く深く突き刺さる。
背後からの俺の投槍を避けるなんざ、背中に目が付いてるとしか思えねえ芸当だ。しかも、それを馬に乗ったままで……なんて反応をしやがる……。
いや、驚いてる場合じゃねえ。得物を手放した今の俺は、まったく無防備な非常にヤベえ状態だ。
俺は間髪入れず、自分の槍めがけて全速力で疾走した。
甲冑でも着込んでりゃあ、こんな慌てる必要もねえんだが、なにせ着の身着のままでエヘーニャ領を出奔したからな。着てるのはペラペラのシュミーズ(※シャツ)とオー・ド・ショースだけだし、腰の剣すりゃ携えちゃいねえ。
こんなことなら、
「うおりゃあっ…!」
そうして愚痴を心の中で呟いている内にも、俺は短槍へとたどり着き、柄を掴んで引っこ抜くと同時にくるんと勢いのまま前転する……矢の狙いを逸らすためだ。
と、次の矢を番え終えた騎兵達の一斉射は同時だった。
「…うぐっ……クソったれが……」
前転したおかげで二本は的を外したが、一本は左の二の腕に突き刺さり、また一本は右の頬をかすめて俺に傷を負わせる。
マジぃことになったぜ……まさか、こんな手強え追手が向けられるとはな……。
追手が来ても撃退する気満々だった俺は、その楽天的な予想を大きく裏切られることとなった。
マジでヤベえな。このまんまじゃ、なぶり殺されるのも時間の問題だぜ……だが、あの馬から逃げ切るのもまず無理ってもんだ……なんとかしねえと……。
「……!」
その時、俺の耳に微かな川の水音が聞こえてきた。
しかも、ここまで聞こえるザーっという水音……どうやら近くにそれなりの川が流れてるみてえだ。
「こうなりゃ、こいつにかけてみるしかねえなっ! …ぐっ……」
片手で短槍を振るい、その刃で二の腕に刺さった矢をへし折ると、即座に俺は水音のする方へ向けて走り出す。
「逃すな! 追えっ!」
「必ず兄をここで仕留めよ!」
無論、慈悲の心なんか微塵もねえ我が兄弟達が見逃してくれるわけがねえ。
「ハァッ…! ……セィッ…!」
イーロンとデラマンの飛ばす檄に、四騎の騎兵達は弓を手に俺を追い始める……なんだか狩られる獣の気分だぜ。
「……そう簡単に…ハァ……ハァ……狩られてたまっかよ……」
だが、俺も狩人達のいいようにばかりはされず、森の中をジグザグに走り、樹の影に身を隠しながら飛んでくる矢を避けて逃げる。
「ハァッ…!」
ブヒヒヒィィィィーン…!
それでも徐々に距離を詰められ、すぐ背後にまで馬の
「……ハァ……ハァ……あった!」
眼前に、大きく森を切り開く大地の裂け目と、その谷筋に沿って、ごうごうと勢いよく流れる川が現れた。
「うおっと…!」
その谷間のギリギリ手前で、俺はその脚を急停止させる……高さはさほどじゃねえが両岸は切り立った崖になっていて、茶色く濁って流れる川の水量もけっこう多い。
俺は眼下の激流と、背後に迫る騎馬四騎を交互に見やる……。
下手すりゃあ
「アディオス、クソ兄弟ども……」
再び騎兵の放った矢が俺の身体を掠めた瞬間、俺はその激流目がけ、断崖の上から身を踊らせた──。
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