Ꮚ・ω・Ꮚメー(7:実食タイムだ!)

「確認しました」


 ジュル (ではいただこう)

 ジュルル(お楽しみの時間だ)

 ジュルリ(フハハハハハ)


 なんだかおかしな様子になったバロメッツ達はオーブン皿から秀逸なプチフランスをひとつ取り上げると、二匹がかりで左右に割り、一匹が真ん中から白い内層クラムに食いつきました。

 羊、もしくは羊型植物モンスターがパンを食べるのかどうか、という疑問も感じましたが、問題は無いようです。


 バリバリ(クープは香ばしく歯ごたえがすばらしい)

 パリパリ(クラストは軽やかだがしっかりしている)

 モチモチ(クラムは柔らかくももっちり)


 バリー!(マーヴェラス!)

 パリー!(追加オーダーを!)

 モチー!(バターをつけていただこう!)


 お気に召したようです。

 バロメッツたちは、どこからかバターやチーズ、ピーナツバターなどを出して、追加注文をしてきました。

 食事効果が発生したことを示しているのか、周囲に光の粒子が舞い散っています。


「四千PPでいいでしょうか?」


 さすがにまた八千PPもらう気にはなれません。


 メー (了解した)

 メエェ(振り込みを完了した)

 メメェ(饗宴を続けよう)


 ふたつめのプチフランスを器用に分割し、バターやチーズ、ピーナツバターなどをつけて食べるバロメッツたちを横目に、私も秀逸なプチフランスを手に取り、口に運びます。

 パリパリした皮の歯ごたえ、もっちりした内層クラムの食感、小麦の甘みと香りが広がって――。

 気が付いたときには、手の中からなくなっていました。

 頬袋に木の実をつめ込むリスのような勢いで食べることに没頭してしまっていました。

 美味しいとか美味しくないとかいう次元を超えて、ただ食べることに夢中にさせてしまう魔性を持った食物。

 そういうもののようです。

 禁断の果実、という言葉が脳裏に浮かびました。

 レアでこうなると、エピックやレジェンダリーというのは一体どういうものなのかと恐くなります。

 食事効果が発生したようです。周囲に光の粒子が舞い散って、


 ストレンクス(小)が付与されました。


 というメッセージウィンドウが表示されました。

 バロメッツ達が二つ目のプチフランスを平らげます。


 メェ (おかわりだと言いたいところだがやめておこう)

 メエェ(バザールのチュートリアルに使うものがなくなってしまう)

 メメェ(メインイベントに取りかかろう)


 メー♪

 メメメメー♪

 メーメー♪


 歌うような声を上げたバロメッツ達はまたどこからか赤いテーブルクロスや、正体不明の銀の大杯を出すと、その上に神餐のプチフランスを乗せ、小皿に乗せたバターとチーズ、ピーナツバターと一緒にテーブルに並べ、さらにティーセットを出して器用に紅茶を淹れました。

 

 メェ (準備完了だ)

 メエェ(掛けたまえ)

 メメェ(立ったまま口にして倒れてはいけない)


 事故対策のようですが、随分大げさです。

 レアパンの段階で心神喪失状態になりかけていますので、エピックパンとなると確かにどうなるかわかったものではありません。

 勧められたとおり席に座ると、バロメッツが紅茶を注いでくれました。


 メー(茶葉はイングリッシュブレックファストだ)


「ありがとうございます。いただきます」


 神餐のプチフランスを手に取り、割ってみると、金色の粒子の混じった湯気と香気がふわりと広がりました。


 ジュル (なんと濃密で優雅な香りか)

 ジュルル(女神の肌のごとき美しきクラム!)

 ジュルリ(アートを超え最早テロリズム!)


 バロメッツたちの様子がおかしくなっていきます。


 ジュル…… (ぐっ、いかん、これは)

 ジュルル……(これほどまでの衝動を呼び起こされようとは……)

 ジュルリ……(我々の正気が残っているうちに口に運んでくれ……)


 バロメッツ達の声に押されるまでもなく、私自身もたまらなくなっていました。

 半分に割った神餐のプチフランスの一方を口に運び、歯を立てます。

 濃い香気が嗅覚を蕩かし、パリパリと音を立てる皮の部分が歯の神経と聴覚を心地よく刺激します。

 弾力を保ちながら、ふわふわと軽やかな感触が、わずかな塩の味と、頭の芯が痺れるよう旨味を残して喉を通り抜け、お腹の中に落ちて行きます。

 お腹の底に温もりと、陶酔に似た幸福感が染み渡って――。


 メェ? (レディ?)

 メメェ?(大丈夫か?)

 メエェ!(気をしっかりもつんだ!)


 バロメッツたちの呼びかけで、はっと我に返りました。

 エピックパンがもたらす五感、精神への刺激が強すぎて、意識が飛んでしまっていたようです。

 目をやると、神餐のプチフランスの半分がなくなっていました。


 ジュルルル (すまないが、急いで欲しい)

 ジュルルルル(理性がどんどん削られている)

 ジュルジュル(ハァハァ……)


 冗談ではなく本当に必死で自分を抑えている様子でバロメッツたちが訴えたとき、

一枚のメッセージウィンドウが表示されました。


 ステータス異常、アンデッド因子感染症(潜伏型)が治癒しました。

 ステータス異常耐性(大)ストレンクス(大)プロテクション(大)が付与されました。


 ジュル! (これはっ!)

 ジュルル!(信じられん!)

 ジュルッ!?(半分だけで効果が!?)


 バロメッツたちが驚愕の声をあげます。

 ステータス画面の記述も、

 

 ステータス異常:なし


 と変化しています。

 神餐のパンの状態異常回復(強)の効果は、半分口にしただけで出たようです。

 なんとなく、これ以上は食べなくていい、またはこれ以上食べると良くない、という直感のようなものが働いたのですが、正解だったようです。

 残っているパンを鑑定してみると、


 神餐しんさんのプチフランス(半)

 レアリティ :エピック

 品質    :食べかけ

 食事効果  :バイタル全回復

        メンタル全回復

        ステータス異常耐性(大・24時間)

        ストレンクス   (大・24時間)

        プロテクション  (大・24時間)


 となっていました。

 品質が『食べかけ』になって、ステータス回復効果がなくなっていますが、それ以外の性能は変化していません。

 残った半分はナイフとフォークで三つに切り分けました。


「食べてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る