第20話 最悪の決着
「な……何者ですか。あなたは……」
セリナに対し、目の前のゴーレムは答えない。そもそも、この前出てきたのは100m以上サイズとしてあったはずだ。にもかかわらず、このゴーレムはあって2、3メートルだろう。
そのままゴーレムは一気に殴りかかってくる。
それをセリナは窓から落ちるようにしてかわす。そこは二階であったが、彼女は落ちながら、自身のすでに装備していたハルピュイアの羽毛を背中にして、地面へと落ちていく。落ちた先で、そのまま彼女は逃げ出した。
危機を脱した彼女であったが、不安が渦巻いていた。
フレイがテミスになることまで、何者かが計画していたことなのではないかということ。そして、あのティタンが必ずしも味方とは限らないこと。
でも、とりあえずは。
(フレイを助けたい。)
* * *
巨大褐色美女はがれきを投げつけていたが、効果はない。
毛皮で防がれてしまう。さらに、サテュロスの能力で足場を次々に変えられていた。
「スキがねぇ」
「でしたら、スキを作るか、ですね」
テミスの言葉の意味が分かった。フレイはため息をつくと、呟く。
「人格代ってくれ」
「了解しました」
そこでフレイの意識が消え、テミスの意思が残った。
そのまま一気に突撃していく。
「は?」
サテュロスはその様子に思わずつぶやき、次々に腐敗が進むがれきを投げ込むが、まるで効果を成さない。テミスの体は次々に溶けているにもかかわらず。
「な、なんだてめぇ!」
さらに、サテュロスはそのパンチを腹に食らわせ、褐色の腹に穴をあけるも、それは一瞬で再生。さらに構わず毛をむしり取り、さらに角を持たれてしまう。
「こいつ……!」
掴まれた腕を溶かそうとするも、溶かしたそばから再生。さらに、その巨大褐色女神は恐ろしい力で角のうち一本を引きちぎった。
「がっ」
そして引きちぎった角を構える。
「君の体の一部であれば、その腐敗にもやられないかなと思いまして」
一気に振り下ろした。
だが。
突如、下からせりあがってきた地面にテミスは対応することができなかった。
そのまま吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、テミスの意思は勝手にフレイへと戻ってきてしまった。
「ぜ、ぜんしんいでえええ」
「す、すいません。でもこれ……」
せりあがった地面から現れたのは二体目のクレイオスであった。
「……やっぱり」
その様子を見て、アスラは呟く。二体目。これがクレイオスの厄介な性質であった。一体でも強力なのには変わりない。それが二体目というのは正に傷口に塩を塗るようなものだ。
テミスは、そこからでも次々にがれきを投げつけるのだが、当然ながらダメージにはならない。その両手の腐敗させる能力はサテュロスが互いに持っている性質である。
さらにサテュロスから攻撃は仕掛けられていく。
巨大褐色美女は次々に避けようとしていくも、サテュロスの攻撃が脇腹をかすめた瞬間、白い煙と共に肉がかすめとられてしまう。
「が、うっぐうううう」
その激痛が体に衝撃を与える。
「ど、どうしましょう。また人格代りますか?」
「でも、これだと、再生しきれないんじゃない?」
「そうなんですよね……ちょっとまずいかもです」
二体のクレイオスは叫ぶ。
「このまま、人間界をめちゃくちゃにしてやるぜ!」
その言葉が聞こえたのはテミスだけではない。アスラも聞こえていた。彼の脳裏に大穴に落とされる孤児院の子どもたち、そして、撃墜されるパーティの仲間たちが思い浮かんできた。
そんな中でエデンはひるまずにサテュロスへ矢を放つ。
だが、起爆するも攻撃は届かない。そんな彼女の方角へサテュロスは視線を向ける。
「あ、あそこにまだこんな戦う人がいるんだー」
そういうと、サテュロスはがれきを手に取る。それを数回掌の上で転がすと、白い煙を立て始めた。
「マズイ……」
テミスは慌てて、サテュロスに対して突撃するも、放たれた投擲物はフレイの体を軽く貫いた。そのままエデンとレイアのもとまで殺到する。
そんな彼女たちの前に一体の巨人が現れた。
それは長い髪を持つ白い民族衣装のローブを着た長い髪を持つ巨人。
巨人が手をかざすと、周囲から水が集まり、それはがれきを防いで見せた。
「あの。巨人は……」
その様子を空に浮かびながら見ているクロノスは呟く。
「へぇ、やるんだ。オケアノス」
「そう、みたいですね」
リラはその返答をし、見下すようにその巨人たちの戦いを眺めていた。
また、巨人に助けられてしまった。
エデンはそんなことを思いながら、少し俯く。だが、隣ではレイアがおり、呟いた。
「まだ、終わってないよ。エデン。ここから」
「でも、どうすれば……」
そうつぶやいていた彼女の下に駆け付ける姿があった。それは先ほど、フレイにダルがらみをしていた少女で。
「え、ちょ、逃げろって言っただろ……ってあれ?」
その彼女はキメラの羽を身にまとっている。
「なんで、それを……?」
「私は、ギルドに武器を提供しているセリナです」
「セリナって……あ!?」
エデンは自分の装備を見渡す。そして、フルフルと震えながら、言った。
「もしかして、この武器も全部……?」
「そうです。こうして顔を合わせるのは初めてですね。エデンさん」
彼女は微笑むが、それどころではないとエデンは慌てる。
「話している場合じゃないんだが。どうするんですか?」
「これを使っていただけませんか?」
そう言いながら、セリナは何か白い小さなかけらを差し出してきた。
「さっき、フ……あの、巨人が引き抜いた角から軽く削り出したものです。これであれば、あの腐敗させる成分も貫通できるのではと」
説得力はあるが、先ほどから自分のことを貶めようとしていることには違和感があった。
手を出せず、エデンは戸惑っていたが、セリナははっきりと言った。
「先ほどはからかってすいません。でも、助けたいんです。ギルドメンバーの方々を」
その言葉には本心が感じられた。エデンはセリナが差し出すそれを矢じりに付け替える。
一対一。
オケアノスはそのまま何も言わずクレイオスの一体を相手にし、フレイもまたクレイオスの一体を相手にしていた。だが、コンビネーションとしてはあちらの方が明らかに優れており、次々に襲い掛かる連撃を前に、苦戦していた。
そこでフレイはあるものに目が行った。
「落ちている角……」
その角を拾うと、サテュロスは一気にとびかかってくる。そんなサテュロス相手にフレイは角を突き出した。突き出した腕は白い煙を上げるが、角はサテュロスの首元を貫く。そのままバタバタとうめきながら、地面で動き回るも、そのうち動かなくなった。
オケアノスはまるで手が出ない。水流や槍で攻撃するも、効果はない。このサテュロスと言う怪物は水すら腐敗させ、蒸発させていた。
「クソ……勝てない」
サテュロスがとびかかり、オケアノスは再び水で防ごうとするも、そのクレイオスの手には白い煙を出すがれきが握られている。
思わず、体をうずめるようにするが、攻撃が来ることはなかった。
ひゅっと音がしたかと思うと、サテュロスの脳天が大爆発を起こし、首が吹っ飛んだ。そのまま残った体は肉塊と化し、地面へと伏せていった。
「な……」
その方向を見ると、エデンと二人の少女がガッツポーズをして立っていた。
そんな彼女たちにオケアノスは軽く微笑むも、目の前の巨大褐色美女に向きなおす。彼女は両腕に白い煙をあげながら立っていた。
そこで。ふっと、目の前の彼女の存在がいなくなる。オケアノスはそれと同時に変身を解除した。
変身解除したフレイはそのまま、レイアたちの下へ駆け出していった。
「よかったー! みんな生きててー」
「ちょっと、フレイさん何やってたんですか?」
「そうですねぇ……」
「お疲れ様、フレイ」
三人の女の子から声を浴びるフレイであった。
が。
不意にその動きが止まり、地面へ倒れていく。
胸のあたりに鋭い痛み。そこには心臓をたがわず貫く一本の矢があった。そして、背中側に気配を感じる。
「な……に……」
気合で後ろを振り向くと、そこに立っていたのはアスラであり、ちょうど弓を放った瞬間だった。さらに、そのまま瞬時にフレイへ近づくと、耳元でつぶやく。
「じゃあな」
瞬間、フレイのナイフはアスラに奪われ、右手首が切り落とされる。
腕輪が地面の小石にあたり、金属音を奏でた。
遠くで悲鳴が聞こえる。
それもフレイの耳には一瞬で入ってこなくなった。
視界が闇に落ちていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます