第4話 巨大女神の初戦
「え?」
キメラの体を吹き飛ばしたまではよかったが、フレイは自身の変化に驚愕する。
体をまさぐり始めると、それは女性の肢体であった。胸部と秘部だけが白い布で覆われており、それがぴったりと肌に張り付いていることもあり、スタイルが露になっている。
筋肉質であり、健康的な肉体。細身であるが、メリハリのある体つきをしている。
その顔と言うのは緑色の瞳に鼻立ちも整っている。この白髪は青年のように前髪を分け、耳を多少覆うほどまでの短髪であった。その姿と言うのは先ほどまでフレイがみていたテミスそのもの。
「ど、どうなっているの、これ……」
触れてみると確かに自分の体のようで。そして、巨体であった。
吹き飛ばされたキメラは体を起こすと、その足で突撃してくる。ここでキメラを見ると、その体は高さとしては自身の半分ほどしかない。
この美女の大きさは推定100m近くあるだろう。
フレイもキメラに向けて駆け出すとその肉体を一気に抑え込む。
それがあっさりとうまく行ってしまった。
いとも簡単に止めることができてしまう。
「こんな力あっていいのかよ」
「あるんですよ。それが」
不意にテミスの声がフレイの脳内に響く。
彼女は続けて言った。
「今、フレイさんと私は一心同体です。一緒に戦いましょう」
彼女がそうつぶやいたとき、右手に何かが握られていた。それは一冊の本のようであった。
辞書のように分厚い。
これを使えと言うことなのか、フレイはそう思い、本を開こうとするが、開けない。接着剤でぴったりとくっついているというよりかは、もともとページが開くことのないほどである。
これではただの鈍器だが。
「す、すいません。私も使い方知らなくて……」
「えぇ……」
だいぶ物忘れが多い腕輪らしい。フレイはため息をつきながらもこの鈍器を構える。受け止めたキメラは飛び上がりながら噛みついてくるも、その攻撃が来る前にこの鈍器で顔面を横殴りする。
瞬間、キメラの体は建造物を蹴散らしながら勢いよく吹き飛んでいった。
「す、すごい……」
仮にも禁止級と呼ばれ、攻略することは不可能に近いと言われていた怪物である。その怪物に対し、互角いや余裕で渡り合っている。
この肉体があれば。
あらゆるダンジョンボスの攻略も問題ない。
そう思ったとき、不意に吹き飛ばされたキメラがいないことに気づく。
キメラは空中に浮かんでいた。そのまま仕掛けてきたのは獅子の口から打ち込んできた火球であった。
この火球の効果を脳内でイメージし、予想する。
見えた。
この火球であれば、この腕で叩き落せる。
今の自分にはその力がある。
フレイは確信し、火球に左手のこぶしを叩きこんだ。
その瞬間であった。
左手が破裂した。
はじけ飛び、手が粉々になっている。残った親指だけがだらりと垂れていた。
それと同時に血が噴き出す。そして脳を突き刺すような強烈な痛みが襲った。
「グアアアああああああああ!」
こんな痛みは体験したことがなかった。これまで後方支援と言うこともあったが、予言はすべてがうまく行っていた。なんだ、この火球は。
燃えるでもなく、はじけ飛ぶ、だと。こんな事予想できるわけがない。脳内がかき乱されていく。
「ど、どうしたの?フレイ!」
慌てているようなテミスの声が聞こえたが、今の彼女はむしろ冷静であった。すると、フレイは痛みに悶えているにもかかわらず、勝手に足が飛ぶように動いた。すると、キメラは当然のごとく、次々に火球を打ち込んでくる。
それらはフレイに突き刺さり、絶望的な痛みが全身を襲っていく。
もはや声すら上げられなかった。だが、自身の体はジャンプでキメラの頭上まで移動すると、持っていた鈍器を翼に叩きつける。
翼はその一撃でもとの方から折れてしまった。
キメラの体は地面へと落下する。
遠のく意識の中でフレイは気づくが、自身の体は次々に再生していた。全身の関節中が伸びていく感覚がある。
この巨大褐色美女。彼女そのものが怪物であった。
地上に降り立ったキメラは再び火球を放つも、彼女は受けながら進撃していく。
その獅子と羊の瞳が緑色に輝いた。
自身が傷つくことも厭わず、鈍器で殴りつけていく。殴りつけていくたびに目の前のキメラから緑色の血は散っていく。この美女の体も次々に散っていくが、テミスが気にする様子はなかった。毎秒、この肉体は恐ろしい速度で再生し続ける。
獅子の頭を鈍器で何度も何度もつぶすと、途端に緑色の血が噴き出す。戦いは終わっていた。キメラは動いていない。さらに彼女は羊の頭を蹴りで吹き飛ばし、血が噴き出すのを平然と浴びていた。
「終わった」
その瞬間、彼女の体は一気に元に戻っていった。
元のフレイの姿へと変貌する。周囲は血まみれ。フレイの体はキメラの肢体の方へと向くも、そこで彼の体は膝をついた。
全身に疲労が一気に回る。
そのまま彼の体は地面にのめりこむように、倒れていった。
* * *
フレイが去っていったダンジョンの奥。
残ったアスラパーティの三人はその扉を開いた。
その先は妙に明るいことに気づく。
そこはまるで誰かがいたかのように。誰かを導くようにその場所は存在していた。
奥の方に何か箱のようなものが置かれている。
「なんだここは……?」
茶髪の男、デロが呼びかける。それに対し、返事はない。
フレイを追放してから、アスラには明らかに活気がなかった。
デロはつぶやく。
「とりあえず、行きましょう」
そう言いながら、前に進んだ時、彼は気づいた。
何かが空中に浮かんでいることに。
それは。
「腕輪……?」
腕輪。それが四つ。空中に浮かんでいた。
そして、そのうちの一つがデロの首に飛び込んでくる。
瞬間、彼は目から出血した。そして、吐血。そのまま倒れてしまう。
彼の下に駆け寄ったリラ。彼女にも一つの腕輪が右足首に飛びついた瞬間、倒れこみ、そこからは血だまりが広がっていった。
だが、その姿を見て、アスラは慌てることもなかった。
腕輪の一つが彼の左手首に飛びつき、彼もまた全身の穴から血を吹きださせると、そのまま倒れていった。
【あいさつ文】
お世話になっております。やまだしんじです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。よろしければ、作品のフォローや↓の☆☆☆を★★★にする、または感想や応援レビューなどをしてくださると大変うれしいです。執筆のモチベーションにもつながります。
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