第14.5話 烏丸ユウゴside
とりあえず、2ヶ月でこれほど成長するとは驚きだった。
正直……最初の1ヶ月の基礎トレで挫折すると思っていたがそれでも朱神は食らいつき耐えてみせた。
「朱神の彼女を守りたいという思いはそれ程までに大きなものだったと認めざるをえないな」
「彼の執念………剣道に向いているが故に惜しいものだ…ひとまずやるべきことは成し遂げた、約束は守って貰おう」
月崎に朱神の講師をお願いする条件として彼女が提示したのは……
俺との剣道による一本勝負。
以前剣道の大会に出場する為に剣道の顧問に助っ人として出てほしいとお願いされたのだが、唯一反対するものがいた。それが月崎 シンコ…彼女である。
彼女は穴埋めのためだけに部外者を大会に出す顧問の意向が納得出来ず、実力行使にでたが…
結果的に彼女は完全に敗北し、やむ無く俺を穴埋めとし大会に出場し見事、全国大会への切符を手にした
だが、あの時の屈辱を忘れられず、今こうして借りを返しに来たというわけだ。
「私はまだお前のような半端者を認めたわけではない…」
「結果的に全国いけたから良いだろ?」
「結果論を討論したいんじゃない。天賦の才能だけで乗り切れるほど剣道は甘くはない…」
そう言うと彼女があるものを俺に放り投げた。
それは、京都とか奈良とかのお土産であるような木刀であった。
「…………」
「今日でケリをつける……私が勝ったら今後一切他の部への助っ人行為を禁止として貰おう……」
「逆に君が負けたらどうするんだい?」
「決まっている…我が道であり一部でもあった剣道を引退する…ここに退部届けもちゃんと用意はしてある…本気だ」
達筆な退部届けの文字から彼女の意識の強さが伺える。
しかも木刀まで用意して……
「良いだろう。その条件をのもうじゃないか…ただし引き分けの場合、この話は無かったことにしよう」
「構わん……まぁ一本勝負に引き分けなんてありえないがな……」
お互いの要求を出し終えると双方木刀を手に取り構えた。
「たぁああ!!!!」
「…………」
最初に仕掛けたのは月崎の方だった。
素早い踏み込みで一気に距離を詰め、面を取りに来たがそれを木刀の刀身で受け流す。
彼女の木刀は床を突き、俺は彼女の背後をとるが、
「!!!」
月崎は一歩踏み出した足を軸に、床に着いた木刀の矛先を滑らせるように薙ぎ払った。
これには流石に木刀を縦にして防ぐが、木刀同士がぶつかる反動が大きくよろめく。
「もらったぁあ!!」
彼女がそう叫ぶと飛び上がり全体重をのせた面を繰り出した。
これ……防具着けたとしても完全に殺しにかかってるな……
俺は木刀の柄と逆刃の部分を持ち受け止める体勢にはいる。
彼女の一撃がまたしてもぶつかるが、俺が完全に受け止める体勢であるためよろめくことはなく切り払うと、彼女は宙で回転しながら後方に下がり距離を取った。
「らしくないぞ!!防御一点ではこの私に勝てんぞ!!」
「だよね、それじゃーボチボチ……」
俺は木刀の矛先だけを床に着け、一呼吸いれ……一直線に駆け出した。
一瞬で距離を詰めた俺は下から上へと木刀を切り上げると彼女はバックステップで回避するが、この一手はダミーだ。
彼女が後ろへ下がるこの瞬間に畳み掛けるように木刀を振り上げ間合いを詰め、振り下ろす。
何とか彼女はそれを木刀を横に構え受け止め、俺の木刀は床へと突き刺さると見せかけて寸前の所から刃を上へと回転し木刀を掴むとそのまま切り上げた。
これはかの有名な剣豪…佐々木小次郎が使っていたとされる燕返しと呼ばれる剣技だ。
これにより強烈な下からの意識外の一撃に月崎の防御は崩れ無防備になると思いきや……まさか彼女は木刀がぶつかる瞬間軽くジャンプして威力を分散していたのだ。
月崎はその体勢から急降下の一撃を繰り出した。
俺は何とか片手で木刀を再び掴み無造作に一撃を横へ払うが既に彼女は空中へは居らず、俺の真下から木刀が突き上げてきた。
間一髪の所で身体を後ろへ反らしギリギリ躱すとそのまま後方へとバク転をして距離を取った。
だが着地した頃には既に彼女は俺を追いかけるように距離を詰めていた。
後3、4歩ぐらいの間合いで瞬時に右から左手に持ちかえるスイッチングを取り、2歩目の間合いで彼女が渾身の面を繰り出そうとし、
そして完全に間合いに入った瞬間……互いの一撃がぶつかり合い、ついに双方の木刀が限界に達し、綺麗に真ん中あたりで真っ二つに折れてしまった。
これは………
「引き分けだね」
「な…………こ、こんなことが……」
結果はあり得ない引き分けで幕を閉じた。
「約束は約束だ、この話しは最初から無かったことにさせて貰うよ」
「………………了承しよう…………」
そういうと月崎は懐にしまった退部届けをビリビリに破いて約束を果たした……
「…………初めからこれを狙ったわけではないよな?」
「というと?」
「あまりにも木刀が真ん中から綺麗に折れたんだ……最初から引き分けに持ち込む為にあえて互いの木刀の中心で受けたり狙ったのではないかと…………じゃなければこれ程までに綺麗には折れない……」
「流石にそこまでは狙って出来るようなものじゃない。本当に偶々だよ。それじゃー帰ってプラモ組み立てるとするか~」
俺はその場を後にした。
彼女は薄々感づいていたかもしれない…俺ははなっから勝つ気は毛頭ない、ましてや負ける気もだ。
正直な所、俺は彼女に10回は勝っていたと思うが…わざわざ正面での戦闘を主体で戦ったのは早めに木刀の耐久を下げる為だ。その気になればいくらでも手数はあるが、俺に負けた程度で彼女が失うものが余りにも見合っていないからだ。
そもそも助っ人行為も相手から頼まれてやっていることであって目立ちたいからやっているわけではない。
誰かが困っているなら助けてあげたい、手を貸してあげたいという思いからきている。
これを言った所で彼女は納得しないだろうが……
少しはスッキリしただろ。
これはこれで解決したが………この2ヶ月……ずっと俺達のことを見ていたというより監視している奴がいた。
相手は一年の女子生徒だが、明らかに朱神を狙っていた。恋愛感情で狙っているわけではなかったが、ひょっとして……朱神の彼女絡みである可能性が高い。
一応予防線は張っておくが、本当に彼は厄介事に巻き込まれる。ある意味主人公補正であるかのようだ。
「可愛い後輩を持つと苦労するものだ…」
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