第14話 幕間 昨日の自分を超えろ!烏丸先輩式トレーニング

あれから僕は、いつかは自分の力で葵さんを守れるように烏丸先輩にトレーニングのコーチをお願いした。


「良いだろう……しかし条件がある」


交渉そのものは、プラモデル制作が趣味らしいので欲しがってた最新のガ○プラいくつかを先に入手してプレゼントしたらあっさりOKもらえたけどそこからが大変だった。

まず5月いっぱいくらいまで体力作りに通常の筋トレとビ○ーズブートキャンプ、手始めにグラウンド3周の走り込み。この学園のグラウンドは一週約350mなので単純に1㎞走る所から始まり、

それから体育館に移動し筋トレに入るのだが、筋トレ事態は卓球部のものを流用し鳥丸先輩のアレンジを加えたものを採用。

まぁ卓球事態テーブルみたいな台で白い玉を打っているだけの筋トレとは無関係のものだと最初に思っていたが……

現実は甘くは無かった。筋トレのメニューは以下のものとなる



・腕立て伏せ50回

・腹筋50回

・両手離し腕立て伏せ20回

・背筋50回

・スクワット50回

・バービースクワット50回

・反復横飛び60回


クールタイム時インナーマッスルメニュー

プランク30秒2セット

・バックブリッジ30秒2セット

・サイドブリッジ30秒4セット

・ハンドニー30秒2セット

・ハンドヒール&バック30秒2セット



正直……卓球というスポーツをなめていたかもしれない。

だがこれらを猛烈な筋肉痛になりながらも歯を食い縛り1ヶ月耐え抜いた。

その後、6月からは実践的な格闘技の指導と、加減しているとはいえ烏丸先輩とずっと組手。

一応、烏丸先輩は手加減しているようで打撃技無しで柔道とか合気道関連の投げ技メインの対応。

何度も投げ飛ばされたけど、基本的に習った格闘技の実践と格上相手の手合わせで経験値アップといざという時に緊張に打ち勝ち身体を自由に動かせるようにする訓練らしい。

それなりに身体が慣れてきた頃、剣道の指導も受けることに。

理由としては心、技、体が同時に養える事。


「うってつけの講師を呼んでいる。今後剣道に関しては彼女に聞くと良い…事情は話してある」


「鳥丸先輩は一緒じゃないんですか?」


「あいにく御影に呼ばれてな…とりあえず剣道がある日は俺は居ないものと思ってくれて良い…それじゃ後は任せる」


そういうと鳥丸先輩は道場を後にすると、何もしゃべらない鳥丸先輩が呼んだとされる女性講師がジっと見つめていた。


「あ、あのー……よろしくお願いします」


「3年の月崎 シンコだ、言っておくが手加減は一切しない。私から教えることはただ1つ……私を殺してみせろ」


開幕から明らかにヤバい雰囲気と殺意が込められた言葉に息が詰まる……

てか……この先輩……女性だよな?どうも言動が男勝りで女とは程遠く見えるが……

鳥丸先輩が講師を任せただけはある。

こうして新たに月崎先輩の剣道の指導が始まったのだが、最初は剣道というものはどういうものなのか正座で2時間座学を行い、剣道の防具の付け方、礼儀、竹刀の構えかたそれらを細かく頭に叩き込まれた。




いざ剣道の試合形式で組手を行ったが、月崎先輩の絶対に敵に回してはいけない威圧感と絶対に殺す静かな殺意に恐怖し思わず竹刀が手からスッぽ抜けてしまった。


「基本は教えた筈だ、早く拾え」


「は、はい!!」


竹刀を拾い再び構え試合をしたが、手も足も竹刀も出ずボロボロに敗北した。そこにあったのは人間という生物の根底にある恐怖……死というものを疑似的に体験しているようだった。

だが、その甲斐があってか投げ技メインの鳥丸先輩との特訓の際にわずかだが鳥丸先輩の動きを見切れるようになっていた。

そこから投げ技に持っていくのはまだ無理ではあるが剣道の経験が活きていると実感が持てた。


それからある日剣道でまたしても月崎先輩にボコボコにやられ、左腕に違和感を覚えたので手当ての為保健室に向かう。


保健室のドアを開けるとそこには……


「…………」


ジョ○サン・ジョー○ターほどの体格(身長190cm以上)はあろうかという筋肉質な巨漢がいた。

周囲の空気が重く感じるほどの威圧感を纏うその姿は烏丸先輩や月崎先輩と雰囲気は似ていたがそれ以上にただ者ではない事がビリビリと伝わってきた。


「……失礼しました~」


逃げるが勝ち。

とりあえずこの場を離れよう。もしあの人が保健室に入り浸る不良だったら僕など瞬殺だろうから。

葵さんの為ならともかく僕は無意味な争いはしない主義だからね、基本的にヘタレですので。

僕は一度開けた保健室のドアを閉める。


「…………保健室に用があるのか……?」


大男が僕が閉めようとしたドアを右手だけで抑えた。僕は両手でドアを閉めようとしているのにびくともしない。


「………左腕…怪我してるな。先生はいないが俺でよければ……」


大男は左手で僕の制服の襟を持ち、猫でもつまみ上げるように保健室に連れ込んだ。

めっちゃビビッたけど、どうやら手当てをしてくれるらしい。


「………俺は保健委員の早乙女イワオ……時々先生に頼まれて保健室で怪我の手当てとかしてる……」


大男はぶっきらぼうに自己紹介した。

早乙女イワオ先輩、名前だけは聞いた事ある。

烏丸先輩と共に運動部の助っ人として参加する事が多い事で知られる。烏丸先輩と早乙女イワオ先輩はうちの学校で最強のアスリートコンビとして名高い。

イワオ先輩はゴツい体格に似合わず丁寧に僕の傷の手当てをしている。

しかし妙に距離が近い気がする。擦り傷の消毒が一通り終わった。


「………もしかしたら脱臼しているかも………上着を脱いでくれ……」


そう言って何故か赤面するイワオ先輩。

ま……、まさか……もしかして、イワオ先輩ってゲイ、いわゆるそっち系ですかーーー!?


「あのー、脱臼であれば病院いくんで大丈夫です……」


身の危険を感じた僕は恐る恐るイワオ先輩から離れようとする。


「………すまなかった……怖がらせるつもりはなかったんだが……」


少しシュンとするイワオ先輩。

さっき身の危険を感じたのは確かだが、人は見た目によらないという言葉が存在する通り…ただの勘違いという可能性も…

と、とりあえず上着を脱いで丸い椅子に腰かける。

慣れた手つきで触診を行うイワオ先輩。

だが……どこぞの敵をワンパンで葬る漫画に出てくるキャラクターみたくイワオ先輩から『ドドドドドドッ!!』という激しい鼓動が耳に響き……息づかいもヤバい意味で荒くなっていくのがはっきりわかる。

あれ?なんかこの作品BLっぽくなってない?違いますよ!?この小説は健全なラノベ系恋愛作品ですよ!?

そもそも僕、彼女いますから!!

一頻り触診が終わると……


「やはり…………左腕が脱臼している…………この程度なら治せる」


そういうとイワオ先輩は左手で左肩を抑え右手で左腕を掴むと一瞬で脱臼を治しそこから湿布を張ってもらい事なきをえた。


「3日は絶対安静…………痛むようであれば…………ここへ」


手渡されたのはどこかの病院のパンフレットだ……その病院の名前には『早乙女クリニック』と書いていた。


「親がやっている病院だ…………治療費は割安にしてくれる……」


「あ、ありがとうございます。」


「ユウゴから話しは聞いている…………応援している…………」


人を見た目で判断してはいけない。イワオ先輩は確かに見た目こそ危険な香りしかしないが……

心は誰よりも清らかで女子力の塊のような人格の持ち主であった。



色々あったが最終的に先輩方のおかげで短い期間でそれなりには仕上がった。烏丸先輩からもトレーニングの継続と技術の応用が伴えば、『そこら辺のなんの技術もなく無軌道に暴力を振りかざすレベルの不良には負けない』と太鼓判を押してもらった。

月崎先輩からは一本は取れなかったものの本気の攻撃を一部は躱し、こちらから攻撃を入れたことに評価され『心ない無粋な者の攻撃は見切れるだろう、だが常に冷静であることを忘れるな』とアドバイスをもらった。


短期間だったが烏丸先輩の教えで一番重要な事は、『こうやって格闘技を習うと未熟な奴ほど、喧嘩とかで実際に試したくなる。なんの為に鍛えようと思ったのか初心を忘れるな』

これに尽きる。

僕は最低限、葵さんを守れるようになりたかっただけだ。力を誇示する趣味も無ければそうする理由も無い。

超えるべきは過去の弱い自分。それさえ間違えなければたぶん大丈夫。僕は誰かに勝ちたいのではなく、葵さんを守りたいだけなのだから。

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