第24話 夜海篝/篝火43編 中
翌日の学校。めちゃくちゃ眠い。
「朱神さん、寝不足っスか?」
休み時間、僕のクラスを訪ねてきた日陰さん。実は、僕に「クロムエッジ&バレット」を勧めたのは日陰さんなのだ。
「おかげさまでね。毎晩寝る前にクロムエッジ&バレット三昧だよ」
「夜ふかしは駄目だよ。でもコウ君がそこまで楽しいって言ってるから私も始めてみようかなぁ……」
僕に注意しながらもクロムエッジ&バレット参戦に乗り気な葵さん。マジ?
葵さんがクロムエッジ&バレット始めたらリアルでもゲームでもデートできるな……なにそれ天国?妄想が膨らむ。
「始めてみる?僕でよければ教えるけど」
「本当?」
葵さんの表情が喜びの感情で輝く。実際、めちゃくちゃ可愛いので物理的に輝いているかのように錯覚した。
「やめておいた方がいいっス。クロムエッジ&バレットは女子供が生き延びられるような甘い世界じゃあないっスから……」
日陰さんが真剣な表情を作り、芝居がかった態度でそんな事を言った。そこはかとなくハードボイルドな雰囲気。
「そもそも日陰ちゃんも女だし子供だけど……」
「ナハハハハ痛いところつかれたっス」
葵さんに的確なツッコミをかまされて楽しげに笑う日陰さんだった。そういえば、今日は金曜日。という事は……
「ゲーム三昧しても大丈夫っスね。クロムエッジ&バレット祭りっス」
ちょうど日陰さんと全く同じ事考えてた。僕もすっかりはまってしまったようだ。
その日の夜。明日は学校休みだからクロムエッジ&バレットにログインして遊びまくったあとの事。
篝火43
唐突だけどさ、オフ回とかどう?
レッドチリチキン
本当に唐突ですね。でも僕、学生だからあんまり遠くの町までは行けませんよ
篝火43
そうだね。とりあえずボクは静岡県H市に住んでるけどレッチリ君的には大丈夫そう?
レッドチリチキン
本当ですか?僕もH市です。待ちあわせ場所は反傘町の○ックとかどうですか?
篝火43
いいね。ハンバーガーは大好きだよ。今はちょうどシャ○専用○ックが期間限定メニューであったっけ。じゃあ今週の日曜って事で
レッドチリチキン
友達も呼んでいいですか?僕達のチームの日陰物さんが実はリア友なんですよ
篝火43
そうなの?そういえばあの人とはあんまり話した事なかったね。レッチリ君を紹介してくれた時くらいしかまともに話してない……
レッドチリチキン
良い機会ですし、どうでしょうか?
篝火43
OK
というようなチャットをした。
日曜日の予定、日陰さん誘って篝火さんとオフ回。
そして日曜日、僕は日陰さんと反傘町の○ックに来ていた。あらかじめ僕のメールアドレスを篝火さんに伝えてあるのでぬかりはない。
「私は適当にハンバーガー食べて待ってるっス。すみませ~ん、辛ダブルチーズ一つ」
とにかく自由すぎる日陰さんであった。日陰さんがハンバーガーを注文しに行った直後くらいにメール着信。
「今到着しました。黒い服で髪が長くて身長の高い女子がいたらボクです。 篝火43」
とりあえず返信。
「わかりました。今、店内にいるので見かけたらこちらから声をかけます レッドチリチキン」
返信後、店の入口の方に目を向ける。篝火さんの特徴は聞いたので店に入ってきたらすぐにわかるはず。黒い服に髪長くて身長の高い女子ねぇ……
いた。ほとんど日に焼けてない色白の肌に長い黒髪で黒いワンピースの、モデル体型で美人な女の子が。僕には葵さんがいるけど思わず目を奪われてしまった。めちゃくちゃ美形じゃん………
もしかして、あの人が篝火さん?とりあえず声をかけてみよう。
「あの、人違いならごめんなさい。篝火さんですか?」
僕は慎重に声をかけた。
「……………はい。ボクは篝火43です…………」
蚊の鳴くような小さな声で女の子はそう答え、赤面して黙り込む。口下手なのかもしれない。
「良かった。僕はレッドチリチキンです」
「…………レッチリ君?」
それだけ言って篝火さんはまた黙ってしまう。
どうしよう……会話が続かない。
「朱神さん、注文何にするっスか~?」
日陰さんがカウンター前からそう尋ねてきた。
「ハンバーガーセット、ピクルス抜きドリンクはコーラ。絶対にピクルスは抜き」
日陰さんに注文を聞かれたのでピクルス抜きの部分に念を押して答えた。
「篝火さんは注文どうしますか?」
沈黙を破るべく篝火さんにそう尋ねてみた。なんか、篝火さん普段のチャットの時と比べて引っ込み思案な気がする。これが素なのかもしれない。
「………辛ダブルチーズ。ドリンクはアイスティー………」
「だそうです。日陰さん、注文よろしく」
「…………もしかして、日陰物さん………?」
「もしかしなくてもそうっスよ。これで全員揃ったっスね」
こうして予定通りオフ回が始まった。最初はぎこちない空気感だったが、クロムエッジ&バレットの事に話題が切り替わるとみんなすっかり打ち解けていた。その日はとても楽しいオフ回となった。
それから時は流れて7月中旬頃、とんでもない出来事が起こる。
事の発端は、僕のクラスに中途編入で新しく一人の生徒が来るというニュース。誰が予想したであろうか、その生徒とは篝火さんだった。
篝火さんが実は蒼春学園創設に関わった企業グループのお嬢様で、僕のクラスに編入してきた。
何を言っているかわからないと思うが、僕も訳がわからなかった。順を追って説明すると、
「
つい最近まで引きこもりだったそうだが、どういう訳か今になって蒼春学園に編入してきたのだ。
色めき立つクラスメイト達。そりゃあそうだ。なんせ葵さんに劣らないレベルの超絶美形でお嬢様でボクっ娘。キャラ盛りすぎだと思う。
そういう訳で夜海さんはクラスメイトの注目の的となり、当然と言えば当然だけどクラスメイトから質問責めに遭う事となる。
そりゃまあ、みんな悪気はないと思うよ。どこの学校でも転校生とかみたいな新入りはそれなりに注目されるし。
けど、それはそれとして僕はクラスメイトに囲まれて困っている夜海さん……篝火さんを放っておけなかった。
一応面識あるからわかるけど、人間関係を構築するのが苦手なタイプだと思うから。
とりあえず僕は具合が悪そうだから、と適当に理由をつけて夜海さんをクラスメイトの輪から引き離して保健室に連れていった。
「ひとまずここで休んで、ほとぼりが冷めた頃に戻ればいいよ」
僕はそれだけ言って、保健室をあとにする。
「…………レッチリ君…………」
夜海さんに呼び止められた。
「…………ありがとう…………」
どういたしまして。
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