第18話 加賀美ナル編 上

「黒崎先輩、相談があるっス」


7月上旬くらいのある日、ボードゲーム部の活動中、葵さんが用事で部室を離れた時に日陰さんが御影さんにそう切り出した。


「おやおや、物部日陰がわざわざ私に相談とは珍しい。嫌味なクラスメイトからの自衛か?それともいじめの打開策か?自他ともに認める性格悪い女代表の私に頼むくらいだからそんな感じと見た」


御影さんが物騒な事を言っている。だが概ね事実だ。御影さんは学園内で孤立しているけれどいじめの対象とかにはまずならない。たいてい相手の方が手痛い反撃を受けるからだ。自身に対していじめを行う相手をあの手この手で逆に陥れるその腹黒さと厄介さゆえにスクールカーストから外れた独特の立ち位置を獲得している。


「はいっス。黒崎先輩なら勘違い陽キャの対処法とか詳しいと思って……」


「話を聞こう。面白……後輩の頼みだ。無下にはできん」


「今、面白そうって言いかけた!?」


僕は確かに聞き逃さなかった。この人、明らかに面白がってる


「同じクラスの加賀美ナルっていう自意識過剰ナルシスト勘違い陽キャ女子の事なんスけど、こいつが私に嫌がらせしてくるんスよ。私だけならともかく、葵さんの陰口まで……」


日陰さんは苦々しい表情で吐き捨てる。

加賀美ナル。1年生女子の中でも葵さんと男子人気を二分するスクールカースト上位者。しかし日陰さんの話を聞くと、加賀美ナルは確かに見た目は可愛いが「彼氏を取られた」など女子からの評判が悪く、そもそも日陰さんが不登校になった直接の原因でもある。

特に関係ないけど、同じくスクールカースト上位の葵さんが他の誰でもなく僕を選んだのは改めてとんでもない話だと思った。それはそれとして、


「村雨葵には聞かれたくなかった訳だな……では勘違い陽キャの対処法を教えよう」


御影さん曰く、

勘違い陽キャはたいてい周りにどう見られるかをものすごく気にする。なので、一番手っ取り早いのは化けの皮を剥がして醜い本性を暴く事。それだけで向こうには打撃となる、という事だった。

具体的な方法としては向こうが派手なアクションを起こした際にそれを押さえ、そういうゴシップを面白半分で騒ぎ立てる奴に情報を売り込むとか、相手が無様な姿を晒すように仕向けるとか。


「まあ私から助言はした。あとは自分でどうにかしろ。結果が楽しみ……ではなく、当人どうしの問題に部外者が立ち入るのもな……」


御影さん本音が出まくってる。やっぱり性格悪いのは本当らしい。


「黒崎先輩、ありがとうございますっス!」


日陰さんがお礼を言った直後、葵さんが戻ってきた。


「日陰ちゃん、御影先輩と何話してたの?」


興味本位で葵さんが尋ねる。


「厄介な害虫の対処法っスよ。蚊とかカメムシとか」


日陰さん、嫌いな相手には辛辣……

確かに葵さんに対する陰口はムカつくけど、向こうは僕など気にも止めてないだろうし僕に対して何かしてくる事はないだろうと僕は思っていた、その時までは。





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