第11話 ようこそボードゲーム部へ
入学後三週目の金曜日、
高杉の一件で忘れていたが、僕たちはまだ何の部活にも入っていなかった。
やはりこの学校も部活動への参加は必須らしい。しかし僕はどの部活に入るか決められずにいた。
「入りたい部活が……ない……」
運動部とかは自信ないし、文化系ももうコミュニティが作られた後だろうし今から参加しても浮くだけだ。現に僕のクラスメイトもすでに何かしらの部活に入っていた。
「何をこの世の終わりみたいな顔をしている?朱神コウ」
聞き覚えのある圧力を伴った冷静な声、黒髪ロングに眼鏡の美人。三年の黒崎御影先輩だ。
高杉の事件の時助けてもらったが、正直この人はなんか怖い。高杉とはヤバさの意味合いが違う。底知れない雰囲気というかなんというか。
「それで……?部活の事で悩んでいるのか?」
どうやら全て聞かれていたらしい。正直に白状した方が良さそうだ。
「その通りです」
どんな無茶な事を言われるか警戒していたが、御影さんは以外な提案をした。
「村雨葵と一緒にボードゲーム部に入らないか?」
なんですと?
「村雨葵をボードゲーム部に勧誘したら、お前が参加するなら、と言われてな。ボードゲーム部は部員が少ないんだ。断ってもいいがお前は私に恩がある。それを忘れないようにな、朱神コウ」
なんかめっちゃ圧をかけてきた……もはや部活の勧誘と言うより強制だよね?
「わかりました。入部させていただきます」
御影さんが怖いのもあるけど部活問題が解決できるのは好都合だったから僕は素直に従う事にした。
その日の放課後、葵さんと一緒にボードゲーム部の部室に向かう。いったいどんな魔境が待っているのかと緊張しながらドアを開けようとした時、
「ロードローラーだァ!ウリィィィヤアァァァ!!ブッ潰れろォォォ!!!」
などという最高にハイな叫び声が聞こえてきた。
「この部……大丈夫?」
葵さんがそう尋ねてきた。無理もない。僕もそう思ったし。
僕がドアを開けると、先程奇声を発したと思われる男子生徒と御影さんがボードゲームをしていた。
「遅かったな、朱神コウ」
御影さんがサイコロを手に持ち、僕たちを迎える。
「いったいどんなボードゲームをしてたらあんな奇声を発するんですか?」
僕はなかば呆れてそう尋ねる。
「ゲーム名はワールドエンドサバイバーだ。これはゾンビ映画とかでありがちな状況からの生還を目的としたゲームだ」
御影さんがゲームの説明をする。
ゾンビから逃げながらボード上の武器アイテムやロードローラーなどの車両オブジェクトを駆使して時にゾンビを倒し臨機応変に生き延びるゲームのようだ。
ゾンビに殺されても自身のキャラをゾンビ側として操作する事ができ、人間側キャラは生還してゲームから抜けるか全滅する事で終了となる。
「今日は一人いないがちょうどよく入部希望者もきた事だし仕切り直して最初からやるか」
御影さんがそう言ってボード上のオブジェクトやアイテムを配置し直す。
「この二人入部希望者だったんですか?マジか……入部早々変なとこ見せちゃったな。ちょっとテンションがハイになってただけなんだよ」
先程奇声を上げていた2年の先輩がそう言いながら照れくさそうに頭を掻く。
「俺は東カイト。よろしく」
「朱神コウです」
「村雨葵です。これからよろしくおねがいします、ロードローラー先輩」
葵さんが早速先輩にあだ名をつける。ちょっと失礼じゃない!?初対面のインパクトが強かったのはわかるけど……
「葵さん、流石にその呼び方は……」
「OKOK。気にしてないよ」
いや、いいんかい!?
かくして東先輩はロードローラー先輩と呼ばれる事となった。
その後、初心者向けルールとして全員が人間側でゲームがスタートした。
ワールドエンドサバイバーはプレイヤー全員が最初から人間側で生還のみを目指すルールとゲーム開始時に何人かのプレイヤーがゾンビ側にまわる上級者向けルールがあるようだ。
一巡目 1番手 御影さん
「ここは手堅く警察署の探索だ。まずは武器がほしい」
リボルバーを入手。銃やチェーンソーなどの一部武器は音でゾンビを呼び寄せてしまうリスクがある。具体的には攻撃時に攻撃の成功失敗とは別にもう一度サイコロによる判定を行う。
そのリスクを考慮しても武器の入手はかなりのアドバンテージと言える。ゾンビ出現判定、サイコロは3の目が出た。奇数なのでエンカウントなし。
一巡目 2番手 葵さん
「私も警察署の探索で」
警察車両の鍵を入手。警察車両を移動に使えるようになった。ゾンビ出現判定に入る。サイコロの目は4。偶数なのでゾンビとエンカウント。逃走を選択して判定、逃走成功。
一巡目 3番手 東先輩
「一度集まろう。車両が使えるようになったから朱神のターンに全員で移動だ」
警察署の車庫に全員が集まる。ゾンビ出現判定。サイコロは5を示した。エンカウントなし。
一巡目 4番手 僕
「じゃあ全員で移動ですね」
全員で車両に乗り込み移動開始。ゾンビ出現判定、結果は……2。エンカウント。逃走を選択して判定開始。逃走成功。
そうしてゲームは進み、各自武器を入手したりゾンビの大群から逃げたりして運良く誰一人欠ける事もなく遂に最終局面。
七巡目 1番手 御影さん
ゴールまでの移動を選択、エンカウント。
そのままゾンビに攻撃。攻撃判定、失敗。
「マジか……」
リボルバーの発砲音によるゾンビ出現判定、さらにエンカウント。キャラクター死亡、ゾンビ化。
七巡目 2番手 葵さん
ゾンビとの強制戦闘中、
「フフフ……死こそ生命に許された唯一の安らぎ……貴様らにもそれをくれてやろう」
キャラクターがゾンビ化した御影さんがそんな恐ろしい事を言っている。御影さん意外とノリいいな……もはやラスボスの風格だ。
「じゃあ攻撃します」
何のためらいもなく攻撃を宣言する葵さん。
葵さんはショットガンでゾンビを複数攻撃。攻撃判定、成功。御影さんのキャラクターもろともゾンビを粉砕した。発砲音によるゾンビ出現判定、エンカウントなし。
「私だけが……死ぬ訳がない……貴様の心も一緒に連れて行くゥ……」
なんか御影さんがハンドメイドのMSに乗って戦場に出たらコックピット貫通されて死んだ某ニュータイプのようなセリフを言ってる……
こうして御影さん以外は全員生還してゲームは終了した。
「さて、これがボードゲーム部の主な活動だが、楽しかったか?」
ゲーム終了後、御影さんが僕たちにそう尋ねた。
「はい。最初はこの部活大丈夫か?とか思ったけど楽しかったです」
僕は正直に答える。
「私はコウ君と一緒にいられればそれで……」
葵さんが少し恥ずかしげにそう呟いた。可愛い。なんとも可愛い。
「1年でもう彼女持ちかよ……リア充爆発しろ、このラノベ主人公め……」
東先輩がかなり悔しそうに歯を食いしばった表情で毒づいた。
「何か言いましたか?ロードローラー先輩」
そこに笑顔で圧をかける葵さん。
「な、何でもないです……」
東先輩がビビッてる。女子って怖いな、と思う僕であった。
「まあ、とりあえずボードゲーム部にようこそだ。朱神コウ、村雨葵」
御影さんはそう言って入部届の用紙を2枚差し出した。
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