第10話 朱神コウは村雨葵のヒーローでありたい
村雨さんを人質に取られている為、何もできず僕は何度も殴られ蹴られたが、その度に立ち上がった。高杉が許せない。その思いだけがボロボロの身体を支えていた。
「マジでしつけぇな……ゾンビかよ」
高杉は床に転がっていた鉄パイプを拾い上げ、手に取った。たぶん僕はこのまま殺されてしまうのだろう。けどすでに恐怖はなかった。何もできなかったけど息絶えるその瞬間まで高杉を睨みつけてやろう、死んでからも許さず呪い続けてやろう。そう覚悟を決めたその時、
「テメェらブッ○○してやる!!」
以前に高杉をのした時のようにバーサーカー化した茜さんが廃工場へと飛び込んできた。
「殺すな殺すな……ギリギリ間に合った……みたいだね。ナイスガッツだ、朱神コウ」
そして茜さんと一緒に来た黒髪ロングヘアーに眼鏡の美人だけど冷たい印象の先輩がそう言って僕に歩み寄る。
「近付くんじゃねぇ!!」
高杉が凄むが黒髪眼鏡の先輩は怯む様子もない。
「さて、拉致に暴行、殺人未遂に強○未遂、といったところか。茜、軽く蹴散らしてやれ」
黒髪眼鏡先輩がそう告げると、茜さんは鉄パイプを持った高杉に身体ごと吹っ飛ばす程の右ストレート、2連回し蹴りで二人の不良の胴を薙ぎ連続ダウンさせて、さらに一人を背負い投げして残りの二人に衝突させて倒した。
高杉は一人だけ這いずって逃げようとするが、そうは問屋が卸さない。
満身創痍の僕は痛む身体を引きずって高杉の前に立ちふさがった。
「しつけぇんだよ陰キャが!!」
高杉が何か喚いているが頭に血がのぼりすぎてよく聞こえない。まあどうでもいい事だ。
そんな事より今はこいつを叩きのめせる唯一無二のチャンス。村雨さんの心を傷付けたこいつだけは許さない……
「もう二度と……僕達に関わるな!!!」
僕は渾身の力で高杉の顔を何度も殴る。高杉の鼻が折れた。まだ殴る。次は前歯が折れた。まだ足りない。まだ、まだ、まだ、まだ、
「ストップだ、朱神コウ。こんな奴はもういい。それより君の彼女の方を気にしろ」
黒髪眼鏡先輩の声が僕を正気に戻す。完全に怒りで我を忘れていた。僕はぐったりしている高杉から離れて村雨さんに駆け寄る。
「村雨さん……もう大丈夫、全部終わったよ」
僕は村雨さんを抱きしめた。
「コウ君……」
村雨さんは安心したようでそのまま意識を失った。
その後、黒髪ロングの先輩、黒崎御影さんが警察に通報した事により高杉と不良達はその場で逮捕。
僕達も事情聴取を受けるが、御影さんが提出した高杉達の犯罪の証拠と、僕と村雨さんはあくまでも被害者であった事、状況が状況だった事により厳重注意で済んだ。
それと、茜さんは僕の事を少し見直したようだ。
ちなみに、何故僕らの居場所がわかったかというと、村雨さんのスマホに付いている可愛らしい狐のマスコットストラップ……これには盗聴機能付き超小型GPS発振器が仕込まれているらしい。(御影さんのお手製だとか)
それで大まかな場所を割り出して会話を盗聴し、ギリギリのところで助けに来れたとか。シスコン印の妹セ○ム恐るべし……
事情聴取の間も眠ったままの葵さんはこの事を知らない。
実際、御影さんと茜さんがいなければどうなっていた事か……
僕は、ヒーローにはなれない。それはこの一件で改めて思った。
けど、村雨さん……葵さんだけのヒーローにならばなれるかもしれない。
あれ以来葵さんは僕に依存気味だけど、それさえも背負っていくつもりだ。
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