第8話 高杉唯我編 下

あの後、村雨さんは茜さんと大喧嘩して一人で帰ってしまった。僕が原因なのがなんとも心苦しい。

いつか、茜さんに僕達の事を認めてもらえるだろうか?そう考えていた時の事だった。

唐突にスマホが鳴る。たぶん村雨さんからの着信だ。もしくは親。だって他の番号は入ってないから(泣)

ポケットからスマホを取り出して電話に出る。やっぱり村雨さんからの着信だった。


「よぉ、主人公クン」


電話の相手は高杉だった。何故だ……?

嫌な予感しかしない。


「村雨さんをどうした……」


かろうじて冷静さを保ちながら尋ねた。


「まだ何もしてねぇよ。これから反傘町外れの廃工場まで一人で来い。そうすれば返してやるよ。言っとくけど、チクったらお前の彼女の安全は保障しない」


高杉はそう言って電話を切った。

怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……!!

でも僕が行かないと……ここで逃げる方が怖い。ここで逃げたら二度と茜さんに認めてもらえないし、何より、そんな自分を許せない!!

僕は迷いを振り切るように走り出す、反傘町の廃工場へと。




反傘町外れの廃工場、そこは不良のたまり場としてよく知られている。

村雨さんがそこに連れ込まれるという今どきヤンキー漫画でも見ないようなベッタベタなテンプレ展開。

これが漫画の中の話ならどれほど良かっただろうか……きっとタイミングよくヒーローが現れて解決してくれるのに。

だがこれは現実で、僕が解決しなければいけない。逃げるという選択肢はすでにない。

身体の震えは止まらないが、進むしかないのだ。

僕は一歩ごとに震える足を無理矢理動かし、廃工場へと踏み込んだ。




「待ってたぜ〜」


僕の姿を確認した高杉は心底嬉しそうに僕を迎えた。その声はこれから僕を打ちのめせる喜びに溢れている。


「それじゃ、リンチの時間だ……」


高杉がそう言った直後、不良達が僕を取り囲み逃げ道を塞ぐ。


「俺をコケにした事を後悔させてやる!!」


高杉が吠える。


「好きにしろよ……けど、村雨さんを開放しろ」


僕はそう言って高杉を睨みつけた。


「村雨?あ~はいはい。いいぜ。でもあいつ、まだ何もしてないのに壊れちまったんだ」


高杉が合図をすると、不良の一人がロープで後ろ手に縛られた村雨さんを連れてきた。

すでに目は虚ろで焦点があっていない。


「村雨さんに何をした!!」


「だから何もしてねぇって。ここに連れてきた時点でこうなってたんだから。なんかトラウマでもあったのかもな。まあこいつの心を折る事はできたし別にいいけど」


そう言って高杉が笑う。


「高杉っ……!!」


「安心しろよ主人公クン。村雨には何もしねぇ。無事に返すよ。テメェをボコった後で、だがなぁ!!」


高杉はそう言って僕の顔を殴る。口の中に血の味が広がった。高杉が動いたのを合図に高杉と不良達合計6人によるリンチが始まった。

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