第5話 傷付いたヒーローと救われた少女

気がつくと、僕は保健室にいた。もう放課後のようだ。


「コウ君……」


村雨さんが心配そうに僕の名を呼ぶ。


「村雨さん……僕は君に謝らないといけない」


僕は決意を込めて話を切り出す。


「小学生の頃の僕には君を助けるだけの力はなかった……かっこつけたいだけだったんだ。僕はただの偽善者なんだよ……君に好かれる資格なんてない」


言葉と共に涙が溢れてくる。村雨さんもこんな僕に幻滅しているだろう。いっそ、もう嫌ってくれて構わない。僕は誰かの期待に応える事も誰かを助ける事もできないのだから。

自分自身すら失望する程情けないひ弱な男、それが本当の僕だ。しかし村雨さんが口にしたのは意外な言葉だった。


「それでもコウ君が勇気を振り絞って私を助けようとした事は間違いなく本当だから……私にはそれで充分なんです」


その一言は、優し過ぎた。優し過ぎてそれ以上言葉も出なくて、だけどとてもあたたかかった。

自己否定ばかりでひねくれた僕の心の声をいともたやすく黙らせてしまった。





結局、僕は押し切られる形で村雨さんと付き合い始めた。

あんなに優しい言葉で肯定されたら、うん。仕方ないよね。そりゃあ好きにもなるでしょ。一つだけ村雨さんに教えられた事がある。

僕の行動は失敗ではあったが、間違いではなかった。

しかしこれだけは言える。僕、朱神コウはモブでありたい。それは変わらない。

主役とかヒーローになりたい訳ではない。ただのモブでありたい。その方が比較的平和に過ごせる。僕が過去のトラウマで思い知った人生の教訓だ。

だけど、村雨さんを助けた事は後悔していない。

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