滑稽な戦①
私は小さな喫茶店を営んでいるしがない店主だ。若くして投資に大成功してしまい、今は不労所得の身。いわゆるFIRE済みだ。
そんな私の経営する喫茶店は、
客席も少なく、アルバイトも雇っていない。
半ば暇潰しの趣味でやっている店であり、繁盛しているとは言いづらいものの、隠れ家的な扱いを受けており常連客には恵まれている。
さて、現在そんな私の店には一組のお客様。
どこぞの高校指定であろう揃いの制服に身を包んだ、見目麗しい男女が向かい合って座っている。
この組み合わせが私の店に来店するのは初めてなのだが、私はこの2人を認識している。
多少気になる組み合わせだが、所詮私は部外者。わざわざ詮索するようなことはすまい。
注文された珈琲を配膳したらそこで私の出番は終わりだ。
「お待たせしました。こちらご注文の珈琲でございます」
「「ありがとうございます」」
よし。後は去るのみ──
「なぁ、美玖」
「どうしたの、優貴?」
「お前、浮気してるだろ」
!?!?!?!?
や、やっぱそうだよねぇ!?
いやどっちが浮気相手なのかなとかちょっと思ってたんだけどさぁ!?
「っな、な、な、何を言ってるの!
そんなわけないじゃない!失礼だよ優貴!」
「見たんだよ!!」
はい!私も見ました!!!
仲良さそうでした!!!!
...はっ。だめだ、お客様の会話を盗み聞きするなんて。だが狭い店内、あの声量で話されたらどうしても耳に入ってきてしまう。
不可抗力、不可抗力...。
「そんなの絶対に気のせいだよ!
私が浮気なんてするわけないじゃない!」
「はぁ...。小林大我先輩。だろ?
俺はな、お前らがホテルから出てきたところを見たんだ。仲良さそうに手繋いで、キスまでして...」
う、うわぁ...まじかぁ...きっつ...
物語で良く見る脳破壊パターンじゃん...
「嘘よ!そんなことないもん!
見間違いだよ!そんなことしてない!
...ねぇ、優貴。もしかして荒川先輩に何か吹き込まれたんじゃないの?」
「は、はぁ!?なんだよそれ!
美優さんは関係ないだろ!?」
「だって絶対変だもん!
優貴がそんなこと言い出すなんて!」
美優さん。
その名前を聞いて私に電流が走った。
そ、そうだ、私は女の子の方が大我と呼んでいる男と来店してきたのを覚えている。
2人とも見目麗しかったから記憶に残っていたんだ...
だから男の方が浮気を糾弾し始めてそちらにばかり意識がいっていたが、違った、そうじゃない。それだけじゃない。
なぜなら...
男の方もその美優なる女の子と来店してきていた!
なんなら手を繋いで入ってきた気がする!
2人とも見目麗しかったから(以下省略)
ま、まさかこれは...
い、いや!だめだ!お客様のプライベートを盗み聞きするなんて店主失格だ!
それもこんなゲスな勘繰りを...
で、でもまぁ?
聞こえちゃう分には仕方ないよね?
不可抗力だし?
カウンターに私がいるのは承知してるだろうし?
「とにかく美玖、お前は俺を裏切っているのは知っているんだ!もう隠さないでくれ...」
「ちょ、私は裏切ってなんかない!!!!」
「ば、ばか、声が大きいよ!」
「別に他にお客さんいないし!関係ないでしょ!そんなことより──」
「いや、店員さんがいるだ...あれ、いない?」
お、思わず隠れてしまった...
ついカウンターの下にしゃがんで...
「別に他のお客さんがきたら移動すればいいでしょ。それよりも私は優貴の誤解を解かなきゃ」
その瞬間、私は今まで培ってきた技術を最大限に発揮して気配を消して行動した。
[CLOSED]
ふぅ...。
はっ、私は一体何を!?
「大体いきなり何なの?証拠とかあるの?」
まずい、今は自分が何をしているのかなんか関係ない!
とにかく話を聞かねば!!
こんな面白そ...ごほん。
こんな真剣な話に水を刺すわけにはいかないからな。
私は大人として場を円滑に回すための気配りをしているのだ。
そう、気配を消して、邪魔を排除して。
そう、私は彼らのために壁のシミになるのだ。
決して自分の欲を満たすためではない!
「証拠はない。でも簡単だろ?
美玖の携帯を見せてくれよ」
「は、はぁ!?そんなの無理に決まってるじゃない!?」
「どうせ小林大我と連絡取り合ってるんだろ?」
「違うけど!女友達の相談とかあるし見せられないよ!」
「はぁ...。とにかく。美玖は浮気を...
俺以外の男とヤッてるんだろ?」
「だからそんなことないもん!」
「じゃあ小林大我とはどんな関係なんだ?」
「別に、ただの先輩だよ。言い寄られてうざい」
「嘘つけよ!!!」
「嘘じゃないもん!!!!」
あぁ〜...ハラハラドキドキ...
しかし人ってやましいことがあると大声出ちゃうよねぇ。
でも大体こういうのは男が理論で責め立てて女は感情でってのが定番なんだろうけど2人ともやけに感情的なのが気になるところだ...。
大体もっと核心に迫る話してもいいと思うんだがまどろっこしい...
多分気持ちの整理がつかないまま今日に至ったんだろう。
ってことはやはりあの美優なる女の子に背中を押されたか...
てかそうじゃん君も浮気してるよね多分...
「じゃあ携帯を見せてみろよ」
「だから...?」
その時、テーブルの上の男の携帯が鳴った。
「ちょっ──」
「...
美優さん[今日は夜会える?♡]
...ねえ、優貴、なにかな、これは?」
お、面白くなってキタァァァァァァァッッ!
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