卒業、さよなら青春
思ったより、石段は登りやすい、そう志貴は思っていた。
が、それは違った。
百段くらい石段を登ったあたりから、見るからに全員バテ始めた。
志貴は自分を含めた全員を鼓舞するため、喉が痛いのを我慢して、こんな言葉を叫んだ。
「おれたちは全員揃って卒業式に出て、ちゃんと青春を卒業するんだろう? なら、立ち止まるな、汗も拭くな……この石段、苦しくても一緒に登り切るぞ!」
それを聞いた羅奈と幻冬と冬華の三人は、雄叫びを上げた。
志貴も雄叫びを上げ、それから思い切り咳きこんだ。
飲み物を持ってくればよかったかもしれない、そう思わずにはいられないほど、志貴の喉の痛みは酷かった。
志貴たちは黙々と石段を登る、登る、登る。
…………。
どれくらい石段を登ってきたのか、もう志貴には分からなくなっていた。
それは分からなくとも、外が明るくなり始めているのは、一目瞭然だった。
ついに石段の頂上が見えてきた頃、唐突に幻冬が言った。
というより、叫んだ。
「おれはー、冬華のことが好きだー!」
思わず志貴は笑い出し、それから酷く咳きこんだ。
すると、冬華も大きな声で叫んだ。
「ウチは~、羅奈のことが好き~!」
今度は羅奈が爆笑し、その羅奈も叫んだ。
「ボクはね~、みんなのことが好きだよ~!」
志貴は――。
「おれは……お袋と姉貴のことが好きだ!」
そう叫び、それからたくさん咳きこんだ。
それからまもなくして、志貴たちは八百段以上もの石段を登り切り、卒業式の会場である尾見神社にたどり着いた。
志貴たちは地図アプリで海の方角を調べ、それからフラフラとした足取りで神社の中を歩き出す。
数分後、志貴たちは潮風の匂いがする崖にたどり着いた。
とうとうたどり着いた、そう志貴は泣きそうになったとき――。
「見ろ、初日の出だぞ……!」
幻冬の声を聞いた志貴は我に返る。
そして水平線の彼方からやってくる初日の出を見るなり、そのキレイな風景に目を奪われた。
太陽ははるか遠くの海からゆっくりと浮かんできて、空と海と大地と……志貴たちを照らした。
今年の始まりを告げる初日の出に喜んでいるのか、カモメたちは元気よく鳴き声を上げ、イソヒヨドリたちはかわいさいっぱいに鳴き声を上げる。
二〇二三年は過ぎ去り、新たな年が……二〇二四年が始まったのだと、眼前の太陽は志貴たちに教えてくれているようだった。
さらに太陽はこうも教えている、と志貴はこのようなことも考えた。
「――きみたちは青春を卒業し、新たな門出を迎えた。よって、きみたちは子どもから大人になった。そんなきみたちが手に入れたものは、青春をしてきた仲間との絆……へへっ、おれにはあの初日の出がそう言っているように聞こえるぜ」
志貴は初日の出から目を離さず、次々とあふれてくる涙をそのままにし、そう仲間たちに言った。
少し遅れたタイミングで、幻冬は「ああ」と言葉を返した。
「おれたちが失ったものは、確かに多かった。……が、得たものも同時に多いのもまた事実」
キャハッ、と冬華は笑う。
「だね。しかもその得たものは、ウチらにしか分かりなさそうだし」
冬華は言い終えるなり、嗚咽を漏らし始めた。
羅奈は「うんうん」と声を上げると、このように言った。
「これでボクたち、青春……卒業だね。ようやく、大人になれたんだね……!」
羅奈はオイオイと泣き出す。
それで冬華も大きな声で泣き叫ぶ。
こらえきれずに志貴もすべての感情を込め、咳きこみながら泣き出し、それでとうとう幻冬も雄叫びを上げながら、号泣。
志貴は泣きながら、このように叫んだ。
「『えっち会』は解散……さよなら。さよなら、おれたちの青春……!」
そんな志貴たちを見守る太陽は、すべてを目撃していた。
太陽は志貴たちの卒業式を……最後まで見届け、祝福しているのだった。
終
卒業、さよなら青春 最上優矢 @dark7
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