4-8

 思ったより、石段は登りやすい、そう志貴は思っていた。

 が、それは違った。

 百段くらい石段を登ったあたりから、見るからに全員バテ始めた。


 志貴は自分を含めた全員を鼓舞するため、喉が痛いのを我慢して、こんな言葉を叫んだ。


「おれたちは全員揃って卒業式に出て、ちゃんと青春を卒業するんだろう? なら、立ち止まるな、汗も拭くな……この石段、苦しくても一緒に登り切るぞ!」


 それを聞いた羅奈と幻冬と冬華の三人は、雄叫びを上げた。

 志貴も雄叫びを上げ、それから思い切り咳きこんだ。


 飲み物を持ってくればよかったかもしれない、そう思わずにはいられないほど、志貴の喉の痛みは酷かった。


 志貴たちは黙々と石段を登る、登る、登る。


 …………。


 どれくらい石段を登ってきたのか、もう志貴には分からなくなっていた。

 それは分からなくとも、外が明るくなり始めているのは、一目瞭然だった。


 ついに石段の頂上が見えてきた頃、唐突に幻冬が言った。

 というより、叫んだ。


「おれはー、冬華のことが好きだー!」


 思わず志貴は笑い出し、それから酷く咳きこんだ。


 すると、冬華も大きな声で叫んだ。


「ウチは~、羅奈のことが好き~!」


 今度は羅奈が爆笑し、その羅奈も叫んだ。


「ボクはね~、みんなのことが好きだよ~!」


 志貴は――。

「おれは……お袋と姉貴のことが好きだ!」

 そう叫び、それからたくさん咳きこんだ。


 それからまもなくして、志貴たちは八百段以上もの石段を登り切り、卒業式の会場である尾見神社にたどり着いた。

 志貴たちは地図アプリで海の方角を調べ、それからフラフラとした足取りで神社の中を歩き出す。

 数分後、志貴たちは潮風の匂いがする崖にたどり着いた。


 とうとうたどり着いた、そう志貴は泣きそうになったとき――。


「見ろ、初日の出だぞ……!」


 幻冬の声を聞いた志貴は我に返る。

 そして水平線の彼方からやってくる初日の出を見るなり、そのキレイな風景に目を奪われた。


 太陽ははるか遠くの海からゆっくりと浮かんできて、空と海と大地と……志貴たちを照らした。

 今年の始まりを告げる初日の出に喜んでいるのか、カモメたちは元気よく鳴き声を上げ、イソヒヨドリたちはかわいさいっぱいに鳴き声を上げる。


 二〇二三年は過ぎ去り、新たな年が……二〇二四年が始まったのだと、眼前の太陽は志貴たちに教えてくれているようだった。

 さらに太陽はこうも教えている、と志貴はこのようなことも考えた。


「――きみたちは青春を卒業し、新たな門出を迎えた。よって、きみたちは子どもから大人になった。そんなきみたちが手に入れたものは、青春をしてきた仲間との絆……へへっ、おれにはあの初日の出がそう言っているように聞こえるぜ」


 志貴は初日の出から目を離さず、次々とあふれてくる涙をそのままにし、そう仲間たちに言った。


 少し遅れたタイミングで、幻冬は「ああ」と言葉を返した。


「おれたちが失ったものは、確かに多かった。……が、得たものも同時に多いのもまた事実」


 キャハッ、と冬華は笑う。


「だね。しかもその得たものは、ウチらにしか分かりなさそうだし」


 冬華は言い終えるなり、嗚咽を漏らし始めた。


 羅奈は「うんうん」と声を上げると、このように言った。


「これでボクたち、青春……卒業だね。ようやく、大人になれたんだね……!」


 羅奈はオイオイと泣き出す。

 それで冬華も大きな声で泣き叫ぶ。

 こらえきれずに志貴もすべての感情を込め、咳きこみながら泣き出し、それでとうとう幻冬も雄叫びを上げながら、号泣。


 志貴は泣きながら、このように叫んだ。


「『えっち会』は解散……さよなら。さよなら、おれたちの青春……!」


 そんな志貴たちを見守る太陽は、すべてを目撃していた。

 太陽は志貴たちの卒業式を……最後まで見届け、祝福しているのだった。


                終

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卒業、さよなら青春 最上優矢 @dark7

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