3-13

 具体的にどう大騒ぎかと言うと――志貴たち三人は騒ぎを聞きつけた複数の教師から逃げるため、校舎内を走り回った。


 三人は必死になって逃げ回ったが、ついに追い詰められ、空き教室で投降を余儀なくされた。


 教師たちはこの騒動を「えっち会」の仕業だと判断したようで、彼らは空き教室に幻冬と冬華を呼び出した。


 幻冬は仏頂面で床を眺め、冬華はべそをかいていた。


 いくら志貴がこの騒動に二人は関与していないと訴えても、教師たちはまったく聞く耳を持たなかった。


 その後、何人かの教師はこの空き教室から出たり入ったりし、何やら忙しそうにしていた。


 どうやらここで自分たちへの説教が始まるらしい、そう志貴は教師たちの話から察した。


 今この場にいるのは「えっち会」メンバー五人のほか、二組の担任教師のスラリとした体躯の島原教諭、一組を受け持つ小ジワのある中年女性教師の山内(やまうち)教諭、生徒指導の厳つい顔をした矢口教諭、その八人だった。


 口火を切ったのは、志貴たちの担任教師の島原教諭だった。


「きみたちは青春をしたいがために、今回の騒動を起こした。そうだな?」


 誰も何も答えない。


 それでも島原教諭は話を続けた。


「そのために誰かが迷惑をこうむるとしても、きみたちは青春のためならば、平気で人に迷惑をかける。そうだな?」


 鎌をかけたような島原教諭の言葉。

 思わず志貴は言い返しそうになったが、それをグッとこらえた。

 結果、誰も何も答えない。


 島原教諭はため息をつく。


「わたしは主にきみに訊いているのだがな……どうなんだ、東堂くん」

「え、おれ……?」

「そうだ、きみだ」


 志貴は自分だけが名指しされたことに怒りを覚える一方、それについて納得もしていた。


 なぜなら――。


「先ほど、大宮くんと工藤さんから聞いたよ。……きみがすべてを企み、今回の騒動を起こした、とね」

「……そのとおりです」

「作戦だかなんだか知らないが、きみは仲間の二人がしたくないと嫌がってもなお、仲間の二人を差し置いて、それをやる価値があると思っているのか?」

「思って……いました」


「あきれたな。何が青春サークルだ、まったく。

 きみは青春のためなら、何をしてもいいと思っているのか? そうじゃないだろう。

 仲間のために想っていたのなら、もっと結果は違ったものになっていたはずだ。……もっと周りを見なさい、東堂くん。そこに現実がある」


 志貴は羅奈が自分をかばってくれると信じていたが、どうやらそれもないようだった。


「現実……ですか」

「まだ分からないようだな。では尋ねるが……きみは大宮くんが難関高校を受験するために塾に通い始めたこと、工藤さんの体調が優れないこと、そのどちらも知らないのか?」


 一瞬だけ、志貴の目は大きく見開かれたが、それもすぐに元通りになった。


「冬華の体調が優れなくて病院に行っていたことは知っていますが……幻冬の件は知りません、初耳です」

「その様子だと、そのようだな」


 幻冬が難関高校に受験するため、塾に通い始めた――。


 それはたぶん、幻冬の意向ではなく、両親の意向なのだろう。


 それでも志貴は幻冬に裏切られた気分になり、目に涙が浮かんだ。


 が、島原教諭は追及の手を緩めない。

 どころか、さらに志貴を追い詰める。


「きみは仲間であるはずの二人のことを何も考えずに、今回の騒動を起こした。それは暴走しがちなきみの悪いところだ。

 そして覚えておくことだな、東堂くん。

 きみの信じている青春では何も成長しないし、誰も幸せにはなれない。……きっとそれは独りよがりの青春なんだろう」


 志貴は膝から崩れ落ち、たくさんの涙をこぼす。


 最後に島原教諭は言った。

 志貴たち全員に向けて。


「きみたち、間違ってはいけないよ。――子どもから大人になるための第一歩は何か、それは青春を卒業すること。

 だからきみたちも、いつかは青春を卒業しなくてはいけない。大人にならなければいけない。子どもから卒業しなくてはいけない。……それを忘れるな」


 そのとき、志貴には聞こえた。

 自分の信じた青春にヒビが入る音が……聞こえた。

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