嫌な予感
志貴は開口一番、「悪い、少し遅れた」と四人に謝りながら、スマートフォンにイヤホンを装着。
イヤホンからは幻冬の笑い声が聞こえ、彼は「どうしたのですか、志貴殿。声に覇気がありませんぞ」と志貴に指摘した。
瞬は「今の彼は賢者タイムなんですから、当然では?」と下ネタをぶちかましてきた。
それを聞いた冬華は引いたように「うわっ、志貴の奴、キモっ」と声を上げた。
そんな冬華をなだめるのは羅奈で、彼女は「冬華ったら、そんなこと言うのはやめなよ。クズ王子、瞬くんのペースに飲みこまれているよ?」と志貴をかばった。
思わず志貴は「うっとうしいぞ、お前ら」と全員に向けて言ったが、不思議と志貴の心は晴れていた。
皮肉なことだ、と志貴は思った。
自分を元気にさせるのも不安にさせるのも、すべては「えっち会」のメンバーと「青春乙女作戦」次第なのだから。
もっとも、瞬は「青春乙女作戦」を知らないだろうが、いずれは話さなければいけないだろう。
彼らと遊ぶことは元気の源であると同時に、頭痛の種でもあって……まさにこれらは表裏一体。
どうしようもできなかった。
何はともあれ、志貴は羅奈たちと話すことで元気を取り戻した。
話も終盤。
そんなとき、志貴はひらめいた。
ある作戦を。
志貴はおもむろに口を開いた。
「……なあ、瞬。お前、彼女が欲しいか? 活きのいいピッチピチの魚……じゃなくて、活きのいいピッチピチの彼女、欲しいか?
おれが言うのもなんだけど、独りは寂しいぞ」
瞬は「志貴さん!」と声を荒らげた。
「それは愚問ですよ。当ったり前じゃないですか……活きのいいピッチピッチのメスガキなんて、あるに超したことありません。なんなら、お古でもいいので、あるならください。
そしたら、ぼくは今すぐに彼女の全身をペロペロと舐め、ぬめりを取ってみせましょうとも」
「キモい……クズい」
瞬の言動に引いたらしい冬華を、志貴は「うるさいぞ、冬華」と一喝。
もう一度、志貴は瞬の名前を呼ぶ。
「おれは妙案を思いついた。クズのお前にも、恋人ができるかもしれない作戦だ」
「……と言いますと?」
瞬は声を落としながら、志貴に尋ねた。
瞬と同様、志貴も「つまりだ」と声を落とし、それから答えた。
「久々に、おれたち『えっち会』は作戦を開始しようと思うんだ。
その名も……『在庫は一点のみ! クズ少年の運命の相手を見つけろ作戦』。略称、『少年の運命の相手作戦』。
もちろん、舞台はおれたちの学校だ」
「おお! 何やらすごそうな作戦名ですね。ぼく、燃えてきましたよ」
感嘆の声を上げ、燃え立つ瞬。
「作戦かぁ。なんだかワクワクしてくるね。
……あ、でもさ、ボクと冬華のときみたいなメチャクチャの作戦は、もうやめてね。それ以外だったら、全然オッケーだからさ」
作戦が始まると聞いて、胸を躍らせる羅奈。
一方で、新たな作戦が始まると聞いても喜ばない者がいた。
「どうせお前の考えた作戦なんて、失敗するに決まっている。向こう見ずな作戦はやめたほうがいいと、おれは思うのだが」
過去に志貴が考えた作戦で痛い目に遭った幻冬は、素の口調になり、志貴に抗議。
「うーん、ウチが作戦に参加するかどうかは、作戦の詳細次第かな。……ウチもね、もう人を騙すようなことはしたくないから、さ」
現在進行形の「青春乙女作戦」で羅奈に負い目を感じているせいだろう、新たな作戦に乗り気ではない冬華。
やる気のない二人のせいで気が削がれたが、志貴は四人に作戦の詳細を説明した。
朝、登校した志貴たちは学校内を歩き回り、瞬が好みだと思った女子生徒に接触。
瞬は女子生徒に自分のセールスポイントを言い、それを志貴たちがフォロー。
瞬と女子生徒が互いを気に入れば、作戦は成功。
失敗すれば、再び志貴たちは瞬とともに学校内を歩き回って、時間の許す限り、瞬の運命の相手を探し続ける。
それこそが「少年の運命の相手作戦」だった。
けれど、
「おれはパスだ。そんなことをするのなら、普段通りでよかろうに」
「ウチもパス……なんか嫌な予感がするから」
幻冬と冬華は作戦に参加するのを辞退してしまった。
志貴は言葉を失い、二人に反応することができず、少しのあいだ黙りこんだ。
「……分かった。幻冬と冬華は参加しなくてもいい。
――とまあ……羅奈、そして瞬! 絶対に成功させるぞ、この作戦」
「お~!」
「おー!」
それからしばらくして、志貴たちの音声通話は終わった。
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