澄田薫子は、茶色く染めた髪を肩まで伸ばしていて、少し根元が黒ずんでいる。


 顔の輪郭は少し丸みを帯びているが、小さくこじんまりともしていて、全体的にそれぞれのパーツの配分がよく(私の好みなのかもしれないが)大きく猫のような形の目には、それこそ猫の髭のように長いまつげがすましたようにカールしていて、その中の瞳は茶色く、上辺の方に寄っていて所謂三白眼さんぱくがんというやつだった。


 彼女の素晴らしいところは、特にこの三白眼にあるようだった。


 三白眼というものは厄介で、通常これを持つ人間は目つきが悪く、ふてこい印象を与えてしまうようなのだ。生憎と、私はそもそも目が小さいものだから(これはこれで目つきが悪いと言われてしまうのだ、困ったものである)四方の辺にしっかりと触れた瞳をしていたが、彼女はそういう世間一般的な三白眼に対する風評をはねのけてしまうほどに愛想のよい印象を与えるのだった。


 何故そういう印象になるのだろうと考えると、お次は鼻と口になるが、鼻は低くも高くもなく、しいていえば頂上に丸みがあって、何だかつんとそっぽを向いたような、どこかふてくされたような少女のもので、口元は少し厚ぼったくて妙な淫靡いんびさがあって、大人の女性の、それも手慣れた女性の唇で、その鼻と口の正反対な雰囲気が妙な愛想に繋がっているのかもしれない。


 女性の身体について詳らかにするのは些か配慮に欠けているとは思うのだが、私は彼女の魅力を伝えたいのだし、この文章を書く上で損じたくはない部分であるから、いやに変態っぽく聞こえるかもしれないが、どうか許してほしい。


 私は清廉潔白な日本男児であり、誓って犯罪に手を染めたことがないことも重ねて詳らかにしておく。彼女の身体――断ったことだし、最適な表現として肉体と言おうと思う――肉体を語るならば、まずは身長からだと一番イメージしやすいかもしれない。


 澄田薫子の愛らしさの一番分かりやすい部分なのかもしれないが、彼女は身長が高くはなかった。となれば、愛らしさと言うのだから、兎に角小さいのかと思われるかもしれないがそうでもなかった。私の身長は173センチであるのに対し、彼女はおよそ159センチであり、背比べをすると頭一つと半分いくかいかないかくらいの格好になる。


 この中途半端さがどこかあどけなさと成熟さの混在が分かりやすく垣間見え、そう、兎に角、彼女には極端な二つの魅力があったのだ。


 全体的には幼い印象を与えるが、随所に隠れている妖艶さがあった。とりわけ、これはもちろん出会って間もないころに分かるものではなかったが、随分と着やせするタイプのようで、意外と胸が大きく、また乳首もデカかった。まさしくおっぱいだった。胸でもなく、乳房でもなく、おっぱい。それが正しい表現の仕方である。再度申し立てるが、私は清廉潔白な日本男児であり、他意はないのであしからず。そして彼女は股の間だけ、陰毛が濃い。


 スポーツは苦手らしく、程よい肉つきはあって、だけど太っている訳ではなく、むしろスリムな印象があって、それはすべてを曝け出したあとも変わらぬものだった。私を真に虜にしていったのは、恐らくはこの肉体の方なのかもしれないと思う。彼女の愛らしさに芯の臓を撃ち抜かれ、そして瀕死のところをじわじわと毒で追い打ちをかけられたかのような次第だった。


 まだまだ、澄田薫子について語りたいことは山ほどあるのだが、どうせいつかは話してしまうのだし、最初にすべてを言ってしまうのも、要領が分かってなくていけない。


 小出しにして、色々なあれこれを経てから、澄田薫子の全貌を知るというのも、ストリップショーを見ているようで、たいへんよろしいと思うのだ。


 それにしては少し語りすぎてしまったきらいがあるが、それはともかく、そろそろ、話を進ませねばなるまい。


 差し当たっては、私と澄田薫子のファーストコンタクトだが、これは随分と平坦なものだった。彼女は入って来たばかりだったから、では当然自己紹介をしなければならない。禿げ頭デブ店長が最初の仕事として割り振ったのは、その自己紹介で、澄田薫子はその時にシフトに入っていた面々に挨拶回りをした。


 正直なところ、私は自己紹介というやつが心底苦手だった。


 そもそもが生来の人見知りであり、また内弁慶であったから、初対面の、それも女子と話すこと自体が苦手なのだ。

 それに加え、自分の名前やら何やらと、時と場合によれば、何故だか趣味まで語らなくてはならない時があって、なんで、てまえなんぞに私のご高尚な趣味諸々を教えにゃならんのだ、という気持ちだったし、その諸々を語るには、それなりの文字数を言葉にしなければならないわけで、こうして文章を組みたてるのは得意でも、それを瞬時に口から発するのとは、文字通り別口なわけで、あれやこれやと、まあありていに言えば見栄を張るべく、見栄えを取り繕うべく、どうにかこうにか自己紹介をしても、結局は絶対に上手くいった試しがなかった。


 トラウマなのだ。私は負け戦はしない主義なもんで、極力自己紹介も避けるようにしていた。


 とはいえ、自己紹介に来た新人の女子高校生を無下に出来るほど、私は極悪非道でも勇猛果敢でもなかったから、不承不承ではあるものの、まあ、当たり障りなく、殊更さりげないふりをしながら、卒なくこなしたのだった。


「えっと、澄田薫子です。よろしくお願いします」


 澄田薫子はそう言って、ぺこりと頭を下げた。それはほんとうに「ぺこり」というのが似合うお辞儀だった。


 あどけなく、あざといお辞儀。


 その時の私は自分がどう答えるべきなのかを必死になって考えていて気が付かなかったけど、一日の終わりに、今日を振り返って特筆すべきことはこの澄田薫子の自己紹介しか思い当たらなかった時に、ふと、そのぺこりとしたお辞儀をしていたことに気が付き、私は暫くの間、具体的には二週間ほど、そのぺこりが頭から離れなくなっていた。

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