第12話 エブリンの縁は"魔王"へと繋がる

「ぐぎゃあああッ!!」


「ぐわぁああ!? ぐわぁあああああッ!!」


 ふたりの男がのたうち回る。

 エブリンの拷問が始まった。

 微粒子レベルにまで小さくした破壊粒子を彼らの体内に侵入させ、蝕(むしば)んでいく。


 体中に張り巡る血管や神経は勿論、骨の芯までゆっくりじっくりと破壊していき、凄まじい激痛を伴わせた。

 エブリンは彼等を横目に翼を元に戻すや、散らばっている資料に足を運び、拾い上げながら冷徹に語り掛ける。


「仲間や部下が来るまであと7分くらい。それまでたっぷり苦しんでもらいます。……あー、その前にアナタ方の持っている情報も欲しいですね。喋って、ホラ」


「だ、誰がしゃべ……んがぁああああああああッ!!」


「やめろぉ……こんなことしても、俺たちは……あ゛ア゛ッ!!」


 まるで毒を盛られた野獣のように、元帝国軍兵士であるふたりはさらなる断末魔を上げる。

 見かねたエブリンは、そのひとりのところまで近づき、ショーツが見えないようスカートを左手で抑えながら右足を上げた。

 

 そして勢いよくその男の顔を踏みつける。

 男の鼻や口からは鮮血が、歯も何本か折れてしまった。


 凄まじい激痛に襲われる彼を、エブリンはゴミを見るような目で見つめる。

 蝋燭の柔らかな光によって照らされる彼女の肌は、まるで陶器のような艶やかさと冷たさが滲み出ていた。


「ヒトのお腹殴っておいてよくそんなことほざけますね。じゃあいいです。アナタはもっと苦しんで死んでください」


 次の瞬間、右足の靴底に魔力が宿る。

 炎の魔術を展開し、まるで焼き印のように踏みつけている男の顔に思いっきり押し付け始めた。


「うがっ! あがああああッ!!?」


「ひぃい!! ひぃいいいッ!!?」


 ほんの少し頬をほころばせながらその光景を見下ろす彼女は、まさに悪女そのものと言っても過言ではない。

 地獄のようなその光景に、もうひとりの男は甲高い悲鳴を上げた。

 彼は先ほど両腕を破壊粒子の翼によって砕かれた男。


 出血多量で満足に動くことも出来ない。

 もうすぐ死ぬとしても、エブリンがそうさせないのだ。

 彼には回復させつつ破壊粒子でズタズタにするという手法を取っている。


「んッ! ……あらら、気絶しちゃった。やり過ぎたかな?」


「な、なんてことしやがるッ! こんなことしてタダで済むと思ってんのか!? ……貴様ら帝国の悪行……、『魔王』が黙っちゃいないぞ!?」


「魔王? ……魔王ってあの?」


「そうだ! 俺たちの、最後の……希望だぁあッ!」


 ────魔王。

 御伽噺に出てくるような魔物を引き連れる王、ではなく、現実においては別の意味合いを持っている。

 それはエブリンから見ても他人事とは思えない存在なのだ。

 

 そのワードを聞いたエブリンは喚き散らす彼をそっちのけで、散らばった資料へ再度歩み寄り漁る。

 すると運のいいことに、ほんの一部分ではあるが、魔王に関連する情報が記載されているものを発見した。


(魔王……それはかつての施設の子供たちの中のひとり。魔力炉を植え込まれ、戦場で自我を失いかけた直後に強大な力に覚醒。その超人的な強さで皇帝の頭を悩ませ続ける孤高の魔導戦士。人は皆彼のことを"魔王"と呼ぶ。反乱軍の中には彼を神の如く崇めている者も多い。まさか、こんな所で魔王の名前を聞くとはね)


 エブリンはなにかしらの縁を感じた。

 地上最強の魔術師である皇帝を殺すのは自分自身であることに揺らぎはない。


 だが、もしも彼ほどの人物を秘密裏に仲間にすることが出来たら……。

 我が復讐劇においてこの上ないアドバンテージになるのではないかと、ふと考える。


 魔女に魔王の協力を得ればまさに最強だ。

 本来であれば彼は障壁に違いない。

 だが、敢えて逆に考える。

 

 魔王はそんじょそこらの雑魚とは違う。

 そして彼もまた皇帝に、世界に果てしない憎しみを抱いているのだ。

 

 エブリンはここで魔王にシンパシーを覚える。

 彼もまたエブリン同様復讐にて覚醒した者のひとりではないかと。

 

(……でも、どうすれば会えるかしらね。早い目に会って協力するように説得してみないと。……あー、でも、難しそうね)


「……────オイ、この女(アマ)ッ! 聞いてんのか!?」


「うるさいなぁ考えごとしてる最中に……。うん、もういいですよ。死んでいただいても」


 エブリンは懐から手裏剣のような刃物を取り出し、一切彼を見ずに投擲する。

 ザクリと音を立て、彼は血を噴き出しながら一気に脱力した。

 エブリンはもう微塵の興味も抱いておらず、破壊粒子によって風化していくふたりを余所に、資料を眺め続ける。


 そして1分くらいした後、仲間や部下が入ってきて、資料等を回収し始める。


「流石はエブリン中位師、奴等の隠し部屋をこうも簡単に見つけられるとは」


「いえいえ、大したことはありませんよ。こうして帝国と皇帝陛下のお役に立ててなによりです」


 隠し部屋から出て、長い廊下を歩き、ようやく外へ出るエブリン。

 涼やかな風に吹かれながら、エブリンは一仕事終えて軽く伸びをする。

 今回の手柄も含めて、自分の評価は更に上がるだろうとエブリンは考えた。


(出世と復讐の道はコツコツ進む。地道に愚直に。……チャンスは必ず訪れる。だってこの私には魔女の知恵があるのだから。……隠し部屋のはちょっと油断しただけだし、うん、あれはノーカンよノーカン。誰にも知られなければ評価などされないのだから。フッフッフ)


 ボロボロになった反乱軍の隠れ家をはたに、エブリンは鼻歌交じりに帰還の準備をする。

 エブリンが考えるのは次の"行動"だ。


(魔王への接近はアルマンドとじっくり考えますか。それと、復讐相手探しもね。これは絶対欠かせない。今目星をつけているのは、貴族連中のうちの何人か。その中のひとりが、私をこんな人生に追い込んだクズ野郎のひとりってわけ)


 帰ってからもやることが多い。

 しかし、エブリンは充実していた。

 これまで築いてきたものが、しっかりと実がついていってる。


「さぁて、我が人生にもう一手間かけないとね」


 



 

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