第10話 反乱軍の隠れ家で、エブリンは鼻歌を刻む
エブリンは中庭に集まっていた50人からなる小隊に加わり、反乱軍の隠れ家がある東の方へと進む。
反乱軍の数はおよそ70人ではあるが、こちらには魔術の扱いに長けた魔術師が存在し、遠距離・中距離からの援護や支援は万全だ。
(さて、隠れ家についたわけだけど……一応武装解除と降伏の勧告をしてから皆殺しって流れになるんだけど……これだともうおっぱじめてもいいみたいね)
皇帝は反乱軍の存在を許さない。
見つけ次第蹂躙せよと命令は出てはいるが、一応形式上のことはやる。
だが、その手間も省け、戦闘が開始されようとしている。
エブリンの任務は殲滅と同時に、この隠れ家にあるとされる資料などを奪うことも含まれているのだ。
エブリンはかまわず前へ出る。
飛んでくる矢など魔術の前では脅威にすらならない。
魔術師という前衛には向かない身でありながら、前線に立ち自らの力を示そうとする。
迫ってくるエブリンに数人の反乱軍が剣や槍を持って襲い掛かった
ひとりの少女に、煌めく白刃が日の光を浴びて、より怜悧な一撃となって迫る。
だが、エブリンは顔色ひとつ変えず、冷静に魔力を練った。
ブーツの踵で地面を一度鳴らし、そして足を後ろに振り上げるやそのまま地面を蹴った。
次の瞬間、反乱軍の目の前が灼熱を帯びた光に覆われる。
蹴り上げた地面から龍が天に昇るが如き炎の奔流が反乱軍を一瞬にして消し炭にした。
その光景に周りで戦っていた反乱軍は恐怖を抱き、自軍の士気が一気に高まる。
「流石はエブリン中位師……いや、"燎原(りょうげん)のエブリン"」
魔術師のひとりが呟く。
エブリンは他の魔術師同様様々な属性の魔術を履修し大方習得はしたが、その中でひとつの魔術を特化させていた。
彼女の得意とする魔術属性は『炎』であり、多数の魔術を得意とするのではなく、ひとつの魔術を究極にまで高める方向へと進んだのだ。
無論このように、得意な分野を極める魔術師は数多いが、エブリンほどの境地までは至っていない。
相手が水を使おうが、土を使おうが、果ては無属性という希少な技を用いようが、圧倒的に高め上げた炎の力で全てを掻き消す。
彼女が立つ戦場は常に灼熱の炎に包まれることから、『燎原』の異名を持つようになった。
魔女アルマンドのかつての指導により、エブリンは自らの進化を著しく早めていく。
「さぁて次は誰かしら?」
鼻歌交じりに数歩ほどステップを踏みながら前へ出る。
まるで遊び感覚で踏み込む少女の姿に反乱軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ回った。
制圧の刃にてひとり、またひとりと命を刈り取られていく反乱軍。
皇帝の意志に背く者は誰であろうと容赦しないというこの国の意向が、大地を無力な者たちの血で濡らしていく。
エブリンはそんな中、一切の慈悲の感情なく、向かってくる少数の敵を魔術にて屠っていった。
「うはぁ~。普段優しいけど……戦場に立つと怖いなあの人」
「あぁ、綺麗な薔薇には棘があるっていうけど……棘じゃ生温いってのがあの娘なんだよなぁ」
兵士と魔術師の数人かがエブリンのことを話す中、着々と制圧は済んでいく。
まさにあっという間で、特にエブリンが炎の魔術を見せた直後から一気に流れは変わった。
「じゃあ入って資料とか集めないとね」
軽く索敵を済ませて、奥へ進んでいく。
隠れ家の内部にも反乱軍の人間達はいたが、兵士たちによってどんどん殺されていった。
そんな中、エブリンは資料などを取り扱う場所を見つけ、後から来た兵士や魔術師に回収を命じる。
意外にも膨大な量で、物資の補給ルートや他の反乱軍のこと、そして未完成ではあるが帝都への侵攻作戦が数々書かれた文書まであった。
「ここにある資料や文書全て持って帰ります! 一部の取りこぼしもないように! ホラ、アナタはそっちにある文書の山の整理を手伝ってください!」
中位師にもなると、こうして的確な指示を出さねばならないような状況が多々ある。
特に書類関係は魔術師として常に神経を使うのだが、こうしたただの回収作業にもエブリンは気を配っていた。
一部でも取りこぼしがあったり紛失したりすれば、責任を問われる。
復讐のためとは言え、折角出世街道を歩いているというのに、ミスをしてしまうことは断じて許されない。
「……他の部屋にもありそうね。そこの4名、その書類を片付けたら次は隣の部屋も見るようにッ!」
エブリンは指示を適時出しながら、この場を彼等に任せ別の場所へと移動する。
護衛はいらない、自分ひとりでなんとかなると自身気に思いながら、彼女は隠れ家の奥の部屋まで辿り着いた。
(随分立派な部屋ね。……恐らく盗品ね。後で兵士に回収を……ん?)
エブリンは本棚の向こう側に隠し通路があるのを察知した。
案の定、本棚を魔力を込めた蹴りで軽くどかすと、アーチ状の通路を発見する。
「ふぅん……面白そうねぇ。もしかしたら、お宝なんかがあったりして」
鼻歌交じりにエブリンは余裕の表情で進んでいった。
このとき、兵士達を呼んだり、索敵をしておけばよかったのだが、エブリンは仕事も終盤になったと気を緩ませて、そのまま入っていく。
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