ハーフタイム 吉田ラグビースクール戦

前半 十五分


有来高校ラグビー部 五-〇 吉田ラグビースクール


 ピンチの後のセットプレーは、重要だ。油断すれば、ピンチを防いだのも束の間、再び窮地が訪れる。例えば、今から行われるラインアウト。ラインアウトで、ボールを投げ入れる際、ボールはタッチラインに対し垂直に投げ入れられなければならない。ボールを確保したいあまり、自陣側へ斜めにボールを投げ入れてしまうと、ノットストレートという反則だ。

 心配を他所に、我が有来高校ラグビー部のラインアウトは、難がなかった。フォワードからスクラムハーフ、そしてスタンドオフである俺にボールが渡る。自陣ゴール前五メートルという、この深い位置ではキックが常套だ。当然相手ディフェンスもそれを分かっていて、キックモーションに入る俺に猛然と迫る。キックチャージ、バレーボールのブロックのように手を伸ばし、相手のキックを邪魔するプレーを狙っているのだ。俺は、想像以上に相手が迫ってきているのを雰囲気で感じ取り、通常よりコンパクトに足を振りぬく。俺が蹴ったボールは、相手が伸ばした指にわずかに触れ、チッと音を立てる。そのまま、自陣二十二メートルラインと、ハーフウェイラインの中間あたりボールはタッチラインを割った。あと数センチ、敵が迫っていれば、キックをチャージされ大ピンチであったが、ここはむしろ僥倖、相手に当たってからボールが外に出たことで再びマイボールのラインアウトとなる。

 再びラインアウトから、ゲームを組み立てていく。不思議なくらい安定したマイボールのラインアウトは、またしてもスタンドオフの俺へきれいにボールを供給する。ここからは、試合前の打ち合わせのとおりのシンプルなプレーを目指す。ウイングにボールを集め、そこで逃げ切ろうという作戦だ。

 ただ、話で言うほどうまくはいかない。相手ディフェンスのプレッシャーもきつく、たいていウイングにボールが渡る前の第二センター、あるいはもたついていると第一センターでディフェンスに捕まってしまう。捕まったその場で相手にボールを奪われこそしないものの、切れ味の悪いオフェンスが続く。ボールを展開し、捕まり

を四回繰り返したとき、すなわちセットプレーを一回目の攻撃と数え五回目の攻撃のとき第一センターの小田がボールをファンブル、つまりこぼした。ボールを前に落とすノックオンという反則だ。そのとき、レフリーが長く笛を吹いた。時計は二十分を回っていたようだ。ラグビーでは、所定の時間を経過したのち、軽微な反則や得点、ボールがフィールドの外に出るなどしてプレーが途切れたときに前半・後半のそれぞれが終了する。ただし、ペナルティと呼ばれる重大な反則のときは、プレーは続行となる。今回のノックオンは、軽微な反則であるため、前半終了となった。

 ベンチに戻った俺たちに、顧問の松落は、開口一番こういった。

「後半は、赤岩は山本と交代。あとは、前半のメンバーのままだ。」

 俺は耳を疑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る