第3話
あれから色々試したのだがこの少女。
まっったく起きないな⁈
声をかけても揺すっても、最後にはどうでもよくなって頬までつまんだのに反応なし!餅のように柔らかい頬が伸びただけで何もリアクションがない!
もうこれ起きているんじゃないか?起きてて俺をからかっているのでは?
次は終点だ。俺たちが乗っている車両にいた客たちはみんな降りてしまって誰もいないし、俺も次で降りなければいけない。さて、この少女どうしたものか。ここまで来た以上放っておくのも気が引ける。ここまでしたんだからもういいじゃないか、という声も聞こえる気がするが。
「あの、次で終点ですよ?俺のことからかってるなら起きてください。別に今更怒りませんから」
……
だめだ。これは本気で寝てるか本気でからかってるかのどっちかだ。
そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。これだけして起きないんだし、好きなようにしても文句は言えないよな?寝てるんだし。
ばっと若干乱暴に帽子をはぎ取る。ふさふさした耳がぴょんと飛び出した。少女の体勢を直し、体を彼女に向ける。
そろそろと手を伸ばし、ちょい、と触ってみる。反応なし。一瞬だったが暖かさを感じた。もう少し、いや思う存分やらせてもらおう。こちらをからかっているならなおさらだ。
わし、とその魅惑の耳を包み込む。あくまで優しくだ。
親指をそっと中に添わせる。少し短い毛の感触。さらに深く。ふわっとした長毛が指に触れる。なんて残酷な。もし本物のキツネならこのまま頭を撫でまわしていたところだ。そしてその感覚さえ幸せなものだったろうに。しかしこの耳の持ち主は少女だ。
確かに、普段だったらこんな美少女と接する機会はないのだから浮かれていたかもしれない。でも今俺が求めてるのは違う。アニマルセラピー的な癒しなのだ。
そっと指を離す。しかし手はどかさない。
そのままにしていると、耳がパタパタッと動いた。手に当たる。
すぅ……はぁ……
幸せだ。
変態と呼びたいなら呼べばいいさ。
誰にともなしに喧嘩腰な意思を投げかけ再び優しく触れてみる。ぬくもり、手触り、その他言いようのない幸せを提供してくれる要素すべてに感謝し堪能する。
『次は××~××~。お出口は右側~』
チッ。邪魔が入ったな。
電車が徐行し、プシューという音とともにドアが開く。
最後にもうひと触りだけ……。そう思い手を伸ばすと突然ボフンッと煙が立ち上がり、少女の姿が消えていた。周りを見渡すもどこにもいない。
すぐにホームに降りると、一人のキツネ耳の生えた少女が立っていた。
しかしその姿は先ほどの少女ではなかった。その格好はどう見ても普通ではなく、巫女服を少し改造したような服だった。白と赤の服に、真っ黒な髪。そこから覗く一対のキツネの耳。そしてさらに、腰元から見えるそれは。
ゆっくりとその姿が振り返る。
「さんざ弄びなすって……。ご満足?」
ゆったりした艶っぽい声でそう言って、にこりと妖艶な笑みを浮かべた。
そしてさっさと踵を返し、歩いて行ってしまった。
「あ……」
伸ばした手は何もつかめない。彼女の姿はすでに消えていた。
一体君は何者なのか?何のために俺の前に現れたのか?
言いたいことは色々あった。だが、どれも一番ではない。俺はもう見えない背中になお追いすがるように言った。
「どうか、どうかその尻尾に触らせてくれ……!」
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