第2話

一瞬ぎょっとするが、どう見ても耳だ。フサフサしていて触り心地がよさそうだなぁ……なんて思っている場合ではない!何なんだ、これは。作り物?いやいや、さっきまでこんなの生えてなかったよね?!動いてたら俺が気づかないわけないし……。

見れば見るほど本物にしか思えない。ふっさふさの……キツネの耳だろうか。時折ピクリと動くそれに首筋と好奇心がくすぐられる。


触りたい……触ってみたい……そのモフモフを堪能したい……


待て待て待て!触ったらまずいって!絶対バレる、ってか起きるだろうし。


はっとして周りを見てみる。幸い乗客はほとんどいない上、その大半は眠っていた。残りの起きている乗客もスマホを見ており、こちらに気づいている様子はない。


……これ、バレたらまずいのでは?


バレるというのはもちろん彼女の姿が他の乗客に、という意味だ。俺の妄想アレコレの話ではない。

耳を生やした少女なんて恰好のネタだ。SNSで一度拡散されてしまえば、最初は合成やCGを疑われても結局事実は露呈する。そうなればこの子はどうなる?世にも珍しい生物として見世物にされるか?遠い外国に売り飛ばされるか?保護という名の監禁にあうか?ひょっとしたら解剖されてしまうかもしれない。自分とそう変わらないであろう少女は一瞬の油断によって一生の自由を失うかもしれない。

考えれば考えるほど、突飛であり、最悪な想像をしてしまう。何なら今すぐ少女が飛び起きて「テッテレー!どっきりでした!実はこれ、作り物なんですよ。よくできてるでしょ~」とか何とか言ってくれた方がまだマシだ。「信じてやんの~ウケる~」とか笑われてもいい。ともかく、誰かこの状況を早くどうにかしてくれ!


するとそこでアナウンスが入った。


『まもなく〇〇~〇〇~。お出口は右側~』


まずい、次の駅はそこそこ人が乗ってきたはずだ。これは声をかけるしか……。

電車が徐行を始める。乗ってきた人にはぱっと見何かのコスプレかと思われるかもしれないが、すぐにこの耳が不自然なくらい自然に動くことに気づくだろう。

声をかけてすぐ起きなければ一発アウトだ。

そのとき、少女の膝に乗っている帽子――確かキャスケットとかいう――に気が付いた。これなら大きいし隠せるのでは?

ぱっと手に取り少女の頭に被せる。見事、彼女のキツネの方の耳はすっぽり収まった。乗ってきた客も普通に空いている席に座っていく。


それにしてもこの少女……俺が帽子を被せようと頭を動かしたのに、全く起きる気配がないな。声をかけて起こそうなんてしなくてよかったかもしれない。恐らくそんなことでは起きなかっただろう。

俺が動かしたため少女の体勢もまっすぐになった。バランスもとれているし、この先にきついカーブもなかったはずだから帽子が落ちることはないだろう。よし、これで俺とこの子の関係はなくなったわけだ。めでたしめでたし。


ぽすっ


……というわけにはいかないようだな。

なぜか少女の頭は俺の方にあった。なぜだ。バランスは完璧だったはずなのに。しかもさっきより密着している気がする。気のせいだろうか。

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