その後

 ひとしきり笑ったあと、魔王と勇者、もといアイザックとトマスは目の前に転がっているモノを気にすることなく話し始めた。

「いやー、滑稽だったな。特に最後、裏切られて絶望するところ。やば、思い出したらまた笑いそうだわ」

「そうですね。まさか彼らに信頼を通り越して依存されてしまうなんて、びっくりですよ」

「いや、お前、確信犯だっただろ。人の優しさにあまり触れてこなかったやつらを集めて、必要以上の優しさを意図して与え、じっくりと依存させた。違うか?」

 トマスは、否定も肯定も出ずにただニッコリと口角をあげる。

「そんなことより、兄さんはいいですよね。あんなに堂々と笑えて。私なんて、勇者ですから、あの緊迫した場面では笑いを我慢しなければいけなかったんですよ」

 トマスは不満げに口をとがらせる。

「それは、お前が勇者役を選んだからだろ」

「だって勇者になって、仲間の心を操りたかったんですもん。人々に希望を与えてから一気に絶望させるなんて、こんな楽しそうなことやらないわけにはいきませんよ。それに、信頼される勇者役は、力でねじ伏せることが好きな兄さんには無理でしょうからね」

「そうだな。お前みたいに猫かぶるのは俺には到底できそうにねえな。やっぱ、相手は屈服させるに限るわ。圧倒的な力の差を見せつけて支配するのは楽しかったぜ」

 トマスは戦うことよりも他者を操ることを好む。

 反対に、アイザックは頭を使うよりも戦うことを好む。

 双子ではあるが、頭脳派と肉体派で真逆の2人。

 だが、そんな2人にも共通点がある。

 それは、他者を掌の上で転がすのが楽しい、絶望に堕ちたときの表情が好き、他者を支配するのが好きという点である。

 彼らの仲がいいのは、性格の悪さが一致しているからである。


「さて、やっとのことで初めてのが成功しましたね。数十回作り直しましたけど、なんとか思い通りの世界を作れましたね。また、作りますか?」

「ああ、もちろん。次作る世界の細かい設定は任せるぜ、トマス」

「わかりました。アイザックに任せると、王宮と魔王城以外何もない世界が出来上がってしまいますからね」

 トマスは失敗した世界のことを思い返す。失敗した要因の9割はアイザックが考えた設定が雑すぎたことだ。薄暗い森しかない、王宮と魔王城が隣にある、王宮と魔王城の見た目および内装が全く同じ、世界に存在する生き物が勇者の仲間のみ、世界に存在する人型の生き物が全て同じ顔、などなど挙げればきりがない。

「うるせえ、面倒だったんだからしょうがねえだろ。考えんの好きじゃねえんだよ」

「考えるの好きじゃないのに何で私に頼らなかったんですか?……まさか、兄さん、本気でいいと思って、あんなゴミみたいな世界作っていたんですか?」

 アイザックはトマスから目をそらした。図星をつかれて何も言い返せなかったのだ。

 そっぽを向いたアイザックを見てトマスは呆れたようにため息をついた。

 アイザックは話題を変えた。

「……それより、次はどんなの作るんだ?」

「そうですね……、次は、また今回みたいな階級制度がある国を作って、私たちはその底辺から、国をじわじわと支配して、最後にはドカンと滅ぼす、というのはどうでしょう?ふふっ、見下していたひとたちに、すべてを奪われたひとたちの表情が楽しみです」

 トマスは楽しそうな笑みを浮かべた。

「いいな、それ。細かい設定決まったら教えろよ」

「わかってますよ。ざっくりとしたやつが出来たら教えますけど、ちゃんとアイデアは出してくださいね。あとで文句を言われても面倒ですので」

「もちろん」

「では、とりあえず場所を変えましょうか」

 次の瞬間、一面が真っ白い何もない空間になった。

 魔王城が、確かに存在していたはずの世界が跡形もなく消え去った。


 アイザックとトマスは神である。

 正確に言えば人間と神のハーフであるが、生まれ持った体があること以外は、人間要素はほとんどない。

 彼らの能力は、純粋な神と全く同じであり、世界を作ったり、容姿を自由自在に変更できる。

 彼らは「世界の制作」を活用し、自分たちのシナリオ通りに世界を動かし、思い通りの結末を導く。そして、用済みになった世界は壊す。

 人間がゲームを楽しみ、飽きたらログインしなくなるのと同じ感覚である。


 さて、次に彼らが作る世界はいったいどんなものになるのでしょうか。



 

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性格が悪い魔王と勇者 ネオン @neon_

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