第50話 アンジェラ

050 アンジェラ


このレイドには、金級の冒険者のアンジェラも加わっていた。

領主の命令なので、ほぼ逆らうことはできない。

貴族の領主だと、ほぼ小さい国の国王程度の権力を持つ。

逆らえば、この街ではいられないのだ。生きていけるかどうかも怪しくなってくる。


アンジェラのパーティーがこのレイドに賛成だったのか、反対だったのかは知らないが。


しかし、冒険者の中にも女はいるが、アンジェラほどの美人はそうはいない。

すぐに、死神の鎌の連中がちょっかいをかけはじめる。


探索後にでもすればいいのに、31階層からこれだ。

プラチナ級というのは、それなりに貴重だから、それなりに力がある。

曰く、「お前を俺らのクランに入れてやる」

曰く、「お前、俺と付き合わないか」

曰く、「逆らうと領主に命令させる」

など好き放題の状態だ。

アンジェラは此方を見るが、助けることもできない。

それは、そもそもアンジェラのパーティーの一員の仕事だ。

しかし、アンジェラのパーティーのリーダーすら、「俺もそのクランに入れてもらえるのか」と言っている始末。どうしようもない。どうしようもなく救いがない世界である。


その夜、安全地帯でキャンプをすることになる。

38階層。ここまでは、冒険者側が圧倒的な破壊力で進んできた。

金級であれば、ここら辺までなら問題ないのだろう。

俺も余裕をもって見ていられる。


「おい、アンジェラが困っているだろう。あんたリーダーだろう」とその晩、アンジェラのパーティーのリーダーに文句を言いに行く。

「何だ鉄級!この俺に意見するつもりか」とリーダー。


俺は、アンジェラのパーティーのリーダーに文句をいいに来たのだ。

「アンジェラはあんたのパーティーの一員だ、あんたには彼女を守る義務がある」

「偉そうに、だったらお前が、パーティーを組めばいいだろう」

「何だと!それがリーダーの取る態度か!」

「黙れ、鉄級」

リーダーは殴り掛かってくる。

存外、クズが多い世界だったのだ。

俺は、素直に殴られるが、既に鉄壁のごとしの境地に至った俺を殴るなんて!

グキっと嫌な音が響く。

「ああああ」何の叫びなのか?リーダーがしゃがみこむ。


「おい、うちのリーダーが鉄級にやられた」

誰が、どう見ても殴られただけなのに。そいつらはそういった。

「よくもやりやがったな」何と、周囲もクズばかりだった。

「やめなさい、あなたたちも、見てたでしょう。殴られたのは、ジンなのよ」

唯一、アンジェラだけが俺をかばう。


「おいおい、銅級の荷持ち、トラブルを起こすと殺すぞ」

そこに、死神の鎌の男が現れる。


「フェイクさん、こいつ近ごろ念願の銅級にクラスアップして粋がってるんですよ」

「ははっ、銅級にクラスアップだ?まだ、鉄級だったのか?いい年して」

しかし、近ごろ鏡の前の俺は若々しくなっていたのだ。これ本当。


「道理で、皆が鉄球鉄球って、なんの事だと思ってたんだよ」

鉄球ではなく鉄級である。

「やっと合点が言ったぜ」


「おい、鉄球、銅級ごときに上がったからって、粋がるなよ、ここでは、何が起こっても誰も気にしないんだからよ」と死神の鎌。そう、それを言ってはおしまいの一言だった。


「わかった。誰も気にしないんだな」

「ふん、そうだ。わかったら余計な騒ぎを起こさず寝ろ」


こうして、夜(外の時間で)を迎えることになった。

そう、ここでは誰も気にしない。

じゃあ、俺も気にすることもない。

そうだろう。

俺は誰にともなく、言ったのである。


クズの一匹二匹、迷宮に消えたからといって問題はない。

そう、誰も気にしないのだから。



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