第42話 眼

042 眼


「銅級以下の冒険者にも役割がある。荷運びだ。」


誰がやるか!


「荷運びの冒険者にも報酬が支払われる。それに、今までは未知の階層を経験できるという利点がある。しかも、経験値のおこぼれにも預かることができるかもしれん。決して損な取引と言うわけではないぞ」とギルド長。


そんな利点など必要ない。


「やらん奴はこれから、このギルドでは肩身が狭くなったとしても、仕方がないと思ってくれよ、これは領主様からの要請なのだからな」ギルド長はまるで悪意の塊の様だった。

公然と嫌がらせをするぞといっているようなものだ。


こいつ、何で俺を見て言っているんだ!


ギルド長のタイタンは俺を見て言っているのだ。


少し頭が回る奴なら、今言ったことに利点などほぼないに等しいこと気づく。

さらにいうと不利益ばかりが存在していることにすぐ気づく。

何で、命をかけて、自分の力の及ばない階層に荷持ちをしに行く必要があるのか。

しかも、荷持ちには、別の賃金しか払われない。

報酬の山分けにも入れてもらえない。


経験値に関しても、本当に入るのかわからない。

経験値の割り振りに関しては、経験上の法則から、どうやらチームでパン割されているようだ。とされているだけで、荷持ちが経験値をえることがあるのかということは、証明されていない。

そして、おそらく戦闘に参加していないため、入らない。

戦闘に参加すれば、上位冒険者からはにらまれ、下手をするとモンスターに簡単に殺される。


だが、此処にもう一つの絶対的な法則が一つ存在する。

貴族には逆らうな。というものだ。

貴族の方が圧倒的に立場が上である。

貴族中心主義の世界では、民衆は現代の犬や猫と同じ位の扱いだ。

馬車で市民を引いても、貴族は何ら罪に問われることはない。


領主ともなれば領軍という軍隊まで持っている。

ここメルキアは伯爵が領主を勤めている。


最悪、街を出るという選択肢もあるにはあるが・・・。


よその町にいっても、なんだかんだと嫌がらせを受ける可能性は排除できない。

貴族とはそういう生き物なのだ。面子の為に、自分の欲望の為に簡単にそういうことをする。


「アタック開始は1週間後だ、それまでに皆準備をするように、勿論荷持ちの方もな」

タイタンは一方的に打ち切った。


「ジンとか言ったな、ちょっとこい」


ギルド内の一室。

「冒険者チーム『ウルブス』の連中が行方不明だ、お前何か知らないか」

睨みつけるような視線だ。

「『ウルブス』?知らないです」

「本当に?」

「ええ、そんなパーティーがあるのですか?」心当たりがない。

勿論、パーティーに入れないので、知らないだけなのだが。


知っているのは、アンジェラだけだ。チーム名すらしらないが。

他は、嫌がらせをしてくる嫌な連中しかいない。


「実はな、『ウルブス』のリーダージャコビが11階層で死亡したのだが、死ぬ間際に、「鉄級」と言ったらしいのだ」

その時、俺は悟った。


「鉄級?俺は銅級ですよ。鉄級冒険者を当たった方がいいのでは」


「そうか?其れならいいんだ。まあ。迷宮内の出来事では証拠は何も残らないしな。荷持ちには参加してくれるんだよな、勿論」タイタンの眼は俺を見ている。


「ええ、まあ」

その眼は、黙っといてやるから、必ず参加しろと言っていた。


彼らは、死んでいったようだ。

残念なことだ。そして、今度は俺が警戒しなければならない。

迷宮の中では、何が起こるかわからない。そして証拠は何一つ残らないのだから。





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