第41話 緊急クエスト

041 緊急クエスト


俺は、高給な宿の端で寝起きし、必死でダンジョンアタックを繰り返していた。

主な理由は、資金不足のためである。

自分の探索階層を偽装するため、深深度でのドロップアイテムなどを売れない。

今の階層では、はずれアイテムでなければ、売ることができないのだ。


既に、30階層の扉の前までのマッピングを完了し、来るべき時には、ボスの攻略を開始する予定であった。

このボスを倒せば、晴れて金級冒険者である。

しかし、俺の場合は晴れることがないので、すべて闇の中のうちだ。


だが、話の中ではまだ11階層程度を必死で探索していることになっている。


そんな時、ある噂がギルドに流れてきた。

領主が、ミスリル製のアイテムを欲しているのだという。

そして、それを得るために、緊急クエストを出すという。


だが、ミスリルのアイテムをドロップするモンスターは、それほど存在しない。

このメルキア大迷宮では、ミスリルゴーレムの存在が有名だが、それはかなり昔の情報であり、今現在、それを確認できる冒険者は、この街にはいなかった。

45階層以上の深さで偶に遭遇するという情報が数年前に流れた程度の話だった。


簡単にいうと、金級冒険者が40階層だから、45階層以上とは、金級以上の能力の冒険者でないと、倒すことは不可能。

しかも、レアドロップを落とす確率を考えれば、何度も倒す必要がある。

つまり、プラチナ級(金級の上)でないと探索できない。

しかも、そのミスリルゴーレムは、本来はもっと下の層の魔物が確率でそれらの階層に出てきている可能性も排除できない。


そう、俺が死にかけたのは、2階ででる筈の無いゴブリンの集団に出会ったような関係の可能性もあるのだ。


勿論、銅級の俺には何の関係もない話だ。

潜る階層が深すぎるので、対象外になる。


「ジンさん」

「サラさん、今日も買い取り頼むよ」

「ジンさん、早く帰ったほうがいいです」ささやくようにサラは言ったのだ。

「え?」

「緊急クエストが出そうです。なんだかいやな予感がします」美少女がそういうととてもいやな予感がする。


「いいか皆、少し聞いてくれ」その時ギルド長のタイタンがしゃべり始める。


「領主様が、ミスリルの品を御所望だ。そこで緊急クエストが出されることになった。褒美は、金貨200枚。大盤振る舞いだ。皆領主様に感謝するように」

「緊急クエストでは、銀級冒険者以上のパーティーで集団を組み、49階層付近まで進出、ミスリルゴーレムを倒すことになる。」

「45階層に偶に出るゴーレムならば、倒せるはずだ。銀級冒険者パーティーでの参加を募集する。大規模なレイドを組んで討伐隊を形成することになる」


俺は、ギルドを出ようと扉に近づいた。

「おっと、まだ話には続きがある、ジンだったか、少し待て」


何で俺の名が呼ばれる、銀級以上のパーティーといったはずなのに。


ソロの銅級冒険者ジンなどになんの意味もないはずである。

サラさんの嫌な予感が今ここに現実となるのか。

この世界は悪意に満ちている。

ギルド長が、銅級冒険者の名前など覚えているはずがないのだ。

彼からすれば、有象無象の一人にしか過ぎないのだから。






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