第33話 掟破り
033 掟破り
エンジェルが権天使(プリンシパリティ)にダブルランクアップする。
それに伴い、眼の赤さが減少し、人語を少し話すようになる。
しかし、なんというご都合主義、こんなことは信じることはできない。
これは、必ずや何らかなの罠なのだ!
今までの29年間とてつもなく上手く行かなかったのに、ここにきて上手くいきすぎる。
「何を疑うておるのじゃ、何も心配などいらん」と妖女が語る。
「ティア様!」
「儂が一言お願いすれば、この世のルールなど何ということはないのじゃ」と世界の裏側を語る幼女。
「え?」
「エンジェルがファーファーうるさかったのでの、家で父上に何かよいものはないか聞いたのじゃ」
「ええ?」
「すると、父上があるにはあるが、品が良すぎるので、ただで持っていくことはできんというのじゃ」
「では、もっと質の悪いものはないかと問えば、良い方法があるという。ただ持っていくことは、世界のバランスを狂わすことになるが、宝箱に忍ばせておけば、たまたま得たことになるからそうすればよいと言ったのじゃ」と自慢げに世界のバランスを大きく揺るがすことを簡単にのたまう幼女。
「えええ!」
「だから儂らは、たまたま高品質の宝を手に入れたのじゃ、なんら問題ないのじゃ、ゆえに心配は無用ぞ」余計に心配がましたわ。
彼女が、シャワーを浴びに行くと帰っていったのは、そのためであったようだ。
しかし、世界のバランスを狂わすようなものを宝箱に忍ばせるなどとは、正気の沙汰ではない。
どうするかまで、全く想像がつかない仕業だ。
そんなことができること自体、闇が深い。宝箱の中身に細工をするなどありえない。
「ファー、セイギヲシッコウスル」エンジェルが何か言っているが、耳に入ってこない。
何かが、とても大切な何かが間違っているような気がしたのだ。
知らんけど。
そして、またしてもバランスブレイクが発生する。
またしても、エクストラドロー券が入っていたのである。
それを発動すると。
また、カジノの一室のような場所。
ポーカー台の前には、なんと国民的アイドルの鮎川奏(かなで)がいた。
しかも、彼女は、バニーガールの恰好をしているのだ。
何だと!
これは一体どうしたことだ。って2回目だが。
鮎川奏は笑顔を此方に振りまいて
「勝負です」と無機質に言った。
「・・・・」
「私は、カードディーラーの鮎川カナタです」
何、顔だけパクッテるんだよ。しかも声は棒。やはり棒なのか。
だが、しゃべらなければ、その美しい顔と姿は国民的アイドルそのものである。
肖像権の侵害にならなければいいのだが。また心配の種が・・・胃が痛い。
そもそも、ディーラーはバニーガールの恰好などしないが、なぜか勘違いしているのはそのままだ。もはや修正する気力すらない。
だが五芒星の描かれたカードを颯爽と切る彼女は、確かにディーラーの動きである。
「この中に、一枚だけSSRのカードが含まれています。それを引けばあなたの勝ちです」
「それを引かなかったたらどうなるの」
「この中に、一枚だけSSRのカードが含まれています。それを引けばあなたの勝ちです」
やはり、別のセリフは設定されていないようだ。
今度はSSRだという。
もうすでに、SRで世界を破壊できそうな気がするのだが、そんなものを引いてしまえば確実に世界を滅ぼすことができるようになるのではないか?
昏い愉悦と恐怖感が同時に湧き上がる。
そう、これは俺を、俺自身が試されているのではないだろうか。
そういう勝負なのか!
世界を滅ぼさんとする俺の悪意と世界を救おうとする俺の良心の勝負なのか。
そんなことは、誰も気にせず、勝負が始まる。
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